表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/64

蠢動

ここで二章が終了します。ようやく折り返し地点が過ぎたなという思い。


今回の話は少し長めですが、良ければお付き合いください。

おおよそ半日をかけた模擬戦の結果、エダ、スクードを始めとした八人の剣闘士が決まり、本戦出場者へと選ばれる。


午後の休息を終え、ふらりと自室を後にしたスクードは、窓からの日が差さない通路の片隅で会話を交わす二人の剣闘士の姿を見る。


それだけなら気にも留めなかっただろう。だが、まるで人目を気にする密談のような様子が彼の気を引いた、しかも……


「あいつは」


そのうちの一人を見たスクードの表情が険しくなる。


『セルぺ・メディチ』


二振りの短剣を巧みに使い、相手の懐に飛び込み、急所を突いて相手を仕留める事を得意とする手練れの短剣使いである、だが、スクードはこの男に好意を抱いてはいなかった。


スクードは二人に気付かれないよう、足音を止め、聞き耳を立てる。


「…エダ・イスパー、確かに腕は立ちますがね。あいつは愛想が悪いし、この場に馴染もうとしないじゃないですか」


対するのは『トグ・リュス』という名の戦士。鍛え上げられた肉体に重い鎧を着こみ、長柄の戦斧槍(レフルトーなどの長重武器も使いこなせる猛者である。ここに来る前にいくどか共に戦ったこともある、スクードにとっては馴染みの戦士である。


「トグの旦那もここから出て自由になりたいでしょう?でも、あいつはそんなつもりはないようです。そんな奴に勝たせていいんですか」


「まあ、それはそうだな」


そのやり取りを聞いたスクードは表情をしかめる。まるでトグがセルぺに言葉巧みに言いくるめられているような気がしたからである。


スクードは聞き耳を立てるのをやめ、再び歩き出す。


石畳の通路に響く足音。それに気づいた二人が振り返る。


「二人とも、一体何の話をしているんだ?」


スクードは何食わぬ風を装って二人に声をかける。


「ス、スクードさん。じ、じゃあこれで」


「?ああ」


セルぺはスクードの姿を見るとそそくさと会話を打ち切り、足早にその場を去っていく。


「トグ、一体何を話していたんだ?」


ため息交じりにセルぺの背中に一瞥をくれたスクードは残ったトグを問いただすと、彼はあっさり白状する。


「エダの話だ。ここに来て半年、一向に馴染もうとしないと。確かに気になっていたがな」


その言葉にスクードは不穏なものを感じた。確かにその通りではある。ここに来てからのエダは傭兵時代と同じ、いやそれ以上に仲間との距離を取り、ひたすらに戦いに身を置いていた。


とはいえ、剣闘士で戦いあう事もあるのだから、仲間意識を持ちすぎる事がいいともスクードは思わない。


だが、なぜそのことを今の時期になって話し出すのか…


「まあ、気に食わない監督官をのした件もあるし、皆エダに一目置いていると思うんだがな」


トグの言葉にスクードの表情がわずかに和らぐ。

「あの件か」


実はエダがここに来て間もないころ、一人の監督官が剣闘士に苛酷な鍛錬を課していたのだが、エダはそれに逆らった。


彼にしてみれば監督官に歯向かったのは死ぬためのことだったのだろうが、エダの方が実力がはるか上であり、監督官は容赦なく叩きのめされた。


その件がガシオン公の耳に入り、監察官による剣闘士への陰惨なしごきの実態が明らかになり、彼らへの待遇改善へとつながる事となった。


ガシオン公にしても、戦後処理に忙殺されていた時期に登用した監督官であり、抜かりがあったようである。


その事を思い出したスクードは再び表情を険しくする。


「あいつ、一体何を企んでいる」


スクードはセルぺが去った通路の方へと目を向ける。だが、格子窓から差し込む光と松明だけではその奥を見通すことは出来ない。

レフルトー=戦斧槍

長い柄の先に小さい斧や槍、鎌が付いた穂先を持つ武器


いわゆるハルバードの事。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ