鳥かごの中の戦士たち
彼が案内されたのは闘技場の南にある石造りで頑丈そうな建物。
衛兵が守る入り口から薄暗い室内へと入ってまず感じたのは体にまとわりつく不快感と息苦しさ。
明かりは脱走を防ぐための格子が付いた窓のみ。壁には粗末ではあるが、燭台があるのでおそらく夜は蝋燭の火がともされるのだろうが、決して明るいとは言えないだろう。
ここにいる剣闘士の多くは先の戦いで捕らえた敵国の兵士や傭兵と聞いている。
「剣闘士たちの扱いはどうなっているんだろうか」
何気なくぽつりとつぶやいたその言葉に兵士が反応する。
「自由に外に出ることは出来ませんが、待遇自体は悪くないと思います。公は寛大なお方なので、商人たちの目に留まって雇われるという事となればここから出る事も出来ます」
「…主が変わるだけという気もするが」
「否定はしません」
その兵士の返答にビアトロは苦笑する。実は言外に主次第で扱いが変わるという意味を込めてみたのだが、はたして一介の兵士にそれが伝わったかどうか…
まあ、伝わったからと言って何がどうなるというものでもないのだが…
そんなことを思いつつ、自嘲めいた笑みを口元に浮かべながらビアトロは歩みを進める。
案内された場所は格子の付いた小さな窓がある扉がいくつも並んでいた。
聞くとこの扉一つ一つが剣闘士たちに与えられた部屋なのだという。
「剣闘士たちは日課の鍛錬を終え、競技が無い時は各々与えられた部屋で休んでいるはずです」
ここは帝国時代、剣闘士たち用に使われていた施設であり、それがそのまま使われているのだという。
「剣闘士たちにこの中を出歩く事はないのですか?」
「ない事はありませんが、今は鍛錬の直後なので皆、疲れているはずです。日が傾くごろには、この辺りにも結構人がいます」
扉には鍵らしきものもつけられているが、明らかに壊れているものも多い。おそらく昔は外から鍵がかけられたのだろう。だが今はみな、内側からだけだという。
ビアトロは小さな窓越しに見える空へと目をやる。空に輝く太陽は南の頂点を過ぎ、やや傾きだした頃…
「そうか」
この時間帯に彼と会うことを促したのはガシオン公である。
ビアトロは公とのやり取りを思い出していた。