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英雄からの依頼

「彼は今、無気力に囚われておる」


「無気力とは?」


「己の死を望んでいるのだ」


「なぜです?」


その問いに答えるかのようにガシオンはエダと出会った日の事を語った。


「そんなことが…」


告げられた事実の重さと衝撃にビアトロにはそれ以上言葉が出なかった。


「彼は村の外を知らぬまま村を追われ、復讐を求めて戦い、そしてそれを果たした。だが、代わりに生きる理由を失い、自らの死を望んでいる。この世界の事を何も知らぬまま…それがわたしには不憫に思えてな。

だからわたしは彼を保護し、猶予を与えた。だが、わたしにはこれ以上出来ることが無い」


黙って公の話を聞いていたビアトロはふと気づいた。二度の大戦を生き抜き、英雄とも言われる人物が無力感に囚われている事に。ビアトロは自分に背を向けてたままの公の心中を察するしかなかった。


「あるいは彼の望みをかなえさせるべきなのかもしれない、だが、戦士としても、統治者としても彼の存在は得難いものだと思っている。このまま死なせるには惜しい人材だ」


そういうと公は窓際へと歩み、外の景色へと目をやる。


「だが、戦によってすべてを失った彼にとっては酷かもしれない。しかし、せっかくあの戦を生き延びたのだ。その後の今を謳歌してもいいのではないだろうか」


しばしの沈黙ののち、公は振り返るとビアトロの方へと歩み寄る。


「各地を旅して歩き、広い見聞を持つであろうおぬしなら彼の心を開かせる方法を知っているのではないか?レトンから話を聞き、私はそう思ったのだ」


その言葉に正直ビアトロは困惑する。正直自分にそれほどの力があるとは思えない。だが、公の話を聞いてしまうと彼をこのままにしては置けないという思いも沸いてきた。


「彼を救ってくれとは言わぬ、ただ、貴公が見聞きしたこの世界の事を語ってやって欲しい。その上で彼がどうするかは…彼次第だろう」


言葉の端々から歯がゆさをにじませるガシオン公の言葉に対し…ビアトロは、


「…分かりました。二つの依頼共、公にできる限り協力はいたします」


しばしの沈黙の後そう答えた。


「…さて、どうするか」


依頼を引き受け、エダの元に案内される間、ビアトロは考え込んでいた。

 

一つ目の依頼、これは自分の目的にも合致している部分が多いので、今のところ問題はない…しかし、問題は二つ目の依頼。


エダ・イスパーに関する街のうわさや、公の言葉が真実なら、彼は焼き討ちにされたラウザ村唯一の生き残り、家族も仲間も皆失い、それを奪った相手への復讐だけをひたすら求めて、そしてそれを果たし終えた…いうなれば煌々と紅く燃え上がり、そして白く燃え尽きた灰のようなもの。


そんな人間の心を自分の力で開くことができるだろうか。


大通りを行き交う人々、


その間を考えを巡らせながら歩くビアトロ。


彼はそっと懐に隠している竪琴に手を触れる。


妖精銀(オルクアルゲのひんやりとした手触りがビアトロの心を落ち着きをもたらしたか、彼の表情が和らぐ。


 と、そこに。


「詩人殿…詩人殿!…こちらです」


「…ああ、済まない」


案内役の兵士に声を掛けられ、ビアトロは我に返る。


どうやら曲がり角で曲がったことに気付かず、道を間違えようとしていたようだ。


ビアトロはいささかばつが悪い面持ちで再び兵士の後に続く。

オルクアルゲ=妖精銀 

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