果て無く広がりし世界への探求
確かにそう言う事を考えなかったわけではない。
旅人の間でも場所、特に南にいくと北では見られない星が見えるというのはよく知られていた。
だが、それについて疑問に思う事はほとんどなかった。
いや、仮に疑ったとしてどうやって確かめるというのか?だからこそ誰もその点について触れようとはしなかった、だが、改めてその可能性を突き付けられると疑問が生まれる。
「しかし、世界がこのように丸いのなら、なぜ我々はこうして立っていられるのです?」
「うむ、実はわたしもそれを知りたい。それに西に進んで東へと出られるのであれば、南の『ルチェド・カステニア』や帝国の妨害を受ける事も無く、『ワーハ・サト』を中継することもなく東と交易が出来るというもの」
その言葉にビアトロは目を見開き、公の言わんとしている事を理解する。つまり新しい貿易航路の開拓が真の狙いというわけか。
…それは分かる。だが、それにしても…
「…途方もない事をお考えですな」
「…正気の沙汰ではない、と思うか?」
その、まるでこちらの反応を試すかのようなガシオン公の言葉にビアトロは…
「…いえ」
数日前の晩餐を思い出し、ビアトロは首を振る。
「わたしも長く世界を旅してきましたが、まだまだ知らないことだらけです。我々が行ったことのない地には全く想像つかないものが存在するかもしれません」
「うむ、そうした未知の地へと赴き、生きて帰ってくるには屈強な冒険者の一団でなければ無理であろう。実を言うとわたしはそうした者たちを募っておるのだ」
その言葉を聞いた瞬間、ビアトロの脳裏に閃くものがあった。
「それに手を貸せと?」
「そうしてくれると助かる」
自分の指摘に対し、そう言って不敵に笑うガシオン公にビアトロは英雄としての器を見た気がした。
「それがお呼びになった理由ですか」
ビアトロは直接の返答は避け、別の質問をする。
「いや、それもあるのだが…実は本題はここからだ」
その言葉にビアトロは内心の動揺を表に出すまいと拳を強く握りしめる。
正直今の話だけでも相当なものだった。だが…まだ何かあるというのか。
「エダ・イスパーという剣闘士を知っておるか」
「…はい」
ここでその名前が出てくるとは…街で仕入れた噂を鑑みれば正直、意外性はない。だが公の狙いと彼と自分の間に一体どんな関係があるというのか…
「ならば話は早い、彼のような腕の立つ剣士が加わってくれれば、何がいるやも知れぬ未開の地において心強いものとなるだろう。だが…」
そこでなぜか公は言葉を切り、息を一つはいてから言葉をつづける。