彼の地に住まいし縁(よすが)思い、天を仰ぐ
しばしのためらいの後、自嘲気味にそう答えるスクード。彼がここに来た理由もエダと似たようなものだという。
戦争が雇われていた帝国側の敗北に終わったため、スクードが率いていた傭兵団は生き残りを図るべく敗走していた。しんがりを務めていたスクードは副団長に後を任せ、仲間が全員逃げ出せるまで王国軍を食い止めていたのだという。
「相手がガシオン公でよかった。ザフィ・ラーゴの『ジュセル・アリューマ』公ならこうはいかなかっただろうな」
「ジュセル・アリューマ」
自分の言葉を反芻するエダを見たスクードは途端に焦りの表情を見せる。
「おいおい、今度はそいつを狙うとかいうなよ」
しかし、スクードの心配は不要のものだった。
「…黒幕が誰であろうとあいつらが村を焼いた張本人であることに変わりはない」
そしてその首謀者であるブルはエダ自身が討った。彼の剣が仇の身体を貫いたあの瞬間、彼の中で燃え盛っていた復讐の炎は勢いを失い、今は完全に消え去っていた。
「そうか」
エダの言葉を聞いたスクードはそう短くつぶやくとそこで言葉を切り、どこか遠くを見ている。
「そう言えばエダ、前に聞いてきたな?おれの家族の話」
「あ、ああ」
突然話題を変えてきた事にエダは面食らう。だがスクードは構うことなく喋りつづける。
「俺には妻も子もいない、だが妹ならいる。今は『ノル・レインテ』にいるはずだ」
「ノル・レインテ?…ああ、『オンターナ』王の伝説がある北方の島国だな。昔、本で読んだことがある」
そう答えたエダにスクードは苦笑する。
「それは間違いではないが、それはずいぶんと昔の話だ。今のノル・レインテはそのオンターナ王を助けたという魔法使いヴェレによって魔法の研究や育成に盛んな国だ。まあ、いいか。妹はそこで娘と一緒にいるらしい」
そのスクードの指摘にエダの表情が揺らぐ。彼は思い出していた。昔の自分は戦いよりも本を読むことを好んでいた事を。
若いころ、各地を旅していた村の長老の元で読み書きを覚えた彼はそこにあった本を夢中で読みふけり、広い村の外の世界に思いをはせていた。
だが、それがすべてではない。本に書き記されていることなどほんの一部。
スクードの言葉でそれを思い知らされた。しかし、今更それを知ったとしても、もうあのころには戻れない。
彼に読み書きを教えてくれた長老も、当時読んでいた本もすべてあの日、燃え盛る炎の中に消えて行った。
「でも、どうしてそんなところに」
その内心でくすぶる記憶の残滓から目を背けるかのようにエダが話題を転じる。
「教団の魔の手から守るため、逃げ延びたのさ。もっとも今は魔法の勉強のためらしいが」
「魔法…」
その言葉を聞いたエダは渋い顔をする。
「女たちはおれたちみたいに腕力で戦うのは苦手だが、魔法の才ではあっちの方が上らしい。お前もこの間の戦争で思い知っただろう、魔法の恐ろしさは」
「…ああ」
エダは言葉少なにうなずく、
「まあ、最近じゃあ腕力任せじゃない戦い方というのもあるらしく、女戦士も少なからずいるらしいがな」
その言葉を聞いたエダは、ふとルアンナの事を思い出す。彼女も槍を片手に鍛錬を重ね、自分と冒険に出るとか言っていた。
もし、あの惨劇が無かったら…今頃はどうしていただろう?
ここで一章が終了します。
次更新からは二章となります。今後もお付き合いいただけると幸いです。




