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血塗られし足跡

戦いが終わったはずの戦場に響き渡る絶叫。


 エダはブルの足から短剣を引き抜き、起き上がる。


 対するブルは片足を刺され、もはや立つことは出来ない。死体が折り重なっているその場に尻をつき、エダを見上げる。


「お、おい! これは一体何のつもりだ」


 出血で右足と甲冑を赤く染めながらブルは叫ぶ。


 一方、エダは引き抜いた血の付いた短剣を放ると……


「何のつもりだと思う?」


 まるで透き通った氷のような声でエダはそう言い放つと、答えが返ってくる前に言葉をつづける。


「……俺は、この日が来るのをずっと待っていた。あの日、俺の村を焼き、皆を殺した仮面の男、貴様を殺すこの日をな」


「お……お前は一体」


 冷たい氷の中に秘められていた復讐心が炎と化し、氷を溶かしだす。


「忘れたとは言わせん、この戦が始まるきっかけとなった『ラウザ村』の焼き討ちを」


 そのエダの言葉にブルの表情が凍り付く。


「ば、馬鹿な、あの村の住人は……あの時、間違いなく、皆殺しにした……はず」


「そう、そのはずだった。だが一人、たった一人だけそれから逃れた奴がいる。自分の村を焼いたやつを……この手で殺すために」


 そういうとエダは……冥府の神と同じ名を持つ彼は収めていた剣を再び抜く。


「俺は見た! 聞いた! お前が、お前たちが村の皆を喜々として殺すさまを!」


 そう叫んだエダの脳裏にあの日の事が昨日の事の様に蘇ってくる。家族、家、村の仲間、すべてを奪った元凶が今、目の前にいる。


「ま、待て。まずはお、おれの話を……」


 尻をついたまま、血まみれの足を引きずり後ずさるブル。


 そんな彼の様を見たエダの胸中に新たな思いが沸き起こる。だが、それは怒りではない。もはや逃げる事も出来ず、自分に殺されるだけなのに無駄なあがきをする相手へのさげすみ。だが、それすらもすぐに怒り、それも自分自身への怒りへと変わる。


 こんな、こんな奴を殺すために自分は今まで生きてきたのか。


 その時、彼の視界の端で何かが動く。それが何なのか、エダが理解する前に身体が、戦士の本能のまま動く。


 瞬間的に足を延ばし、それを踏みつける。


 それはブルの右腕。その手には土が握られている。おそらく目つぶしにでも使おうとしたのだろう。


 それを認識した次の瞬間、エダは怒りに任せたまま、抜いていた剣で残ったブルの左手を容赦なく突き刺す。


 再び上がる絶叫。


 片足を刺され、右手の自由を奪われ、左手も刺された。もはやこの男にはこの場から逃げる事も自分に逆らう事も出来ない。


 もはやこの男を待ち受けているのは確実な死のみ。だが、それにもかかわらず目の前で見苦しくもがくブル。それを見下ろしたエダの胸に去来するのはあの日の事。


 逃げ惑う村人達と何もできなかった自分。守れなかった少女。


 その事を思い出したエダは手にしている剣の柄を、血がにじむほど強く握りしめる。



 すべては……すべては! この男のせいで! 



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