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東国からの贈り物

「詩人殿、やはりこれが気になりますか」


レトンはそういうと手に…いや、正確には指と指の間に挟んだ二本の棒を器用に使って魚の肉片をつまみ、持ち上げて見せる。


「ええ。それは一体…それも食器なのですか」


「これは『(ストーチ』と言いまして、東国の者が食事の際に用いるものなのですよ」


見慣れぬ食器、そして東国。その二つの単語を聞いたビアトロの脳裏にはある考えがよぎる。


「東国と言うと…帝国(ソーレ・チェアーノよりもさらに東、砂漠を超えた先にあるという国々の事ですか?」


「流石、よくご存じで」


ビアトロの指摘にレトンは満足したのか、表情をほころばせてしきりにうなずく。


「…話は聞いていますが、このようなものがあるとは…初めて見ました」


ビアトロは食事の手を休め、親子が異国の食器を使いこなすさまに見入っている。


「そうでしょう」


「よくつかめますね」


正直突き刺して食べたほうが楽にも思えるのだが、二本の棒を使いこなして食材をつまみあげるその姿には驚きと同時に新鮮さを覚える。


「これでも初めは苦労しました」


「そうそう」


 胸を張ってそう言う二人を見たビアトロはふと閃く。


もしかしたらこの二人が自分を招いたのはこれを自慢することも目的だったのかもしれない、と。


だが、そう思いながらもビアトロは不思議と嫌味は感じない。


試しに借りてみてやってみたが、動かすのもままならない。やはり突き刺した方が楽に思える。だが、そんな(ストーチをレトンだけではなくまだ幼いラトまでもがたやすく扱っている。


それを見るといささか悔しい。しかし彼は見慣れぬ食器への好奇心よりも折角のごちそうを楽しむことを優先することにした。


しかし、ビアトロは思う。


自分も旅をつづけ、それなりに世界を知ったという自負はあった。だが、それでも知らないことがこの世の中にはまだまだある。


「こんなもの、一体どこで…いえ、東国のものなら『ワーハ・サト』ですか?商人の聖地といわれる、あの…」


『ワーハ・サト』


遙か東の大砂漠地帯に築かれた商業都市。元々は東西交易の一拠点に過ぎなかったのだが、今やあらゆるものが取引される商売の街にまで成長している。


「ええ。そこで商売の勉強をしている息子が、使い方を記した手紙と共に送ってきたものです」


「なるほど」


その後も話は盛り上がりを見せたが、ふとビアトロは気づく。


『ワーハ・サト』の名が出てから、ラトの表情が沈んでいるように見える事に。


「…ビアトロさん、お父さん。私はこれで」


「おお、お休み」


そう言ってラトが席を立ち、夕食の席は男二人だけとなる。

ストーチ=(箸)

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