表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/64

彼はそっと席を抜け出し、声のする方へ近づく。


そこには卓を囲む二人の人物。風体が他の客とは異なる。二人とも大きな袋を卓の下に置いたまま話をしている。


 あれだけの荷物を肌身離さず持っているという事は商人だろうか。身体も鍛えられている風なので交易商人かも知れない。


 ビアトロは近くの席にそっと腰を下ろし、二人のやり取りを盗み聞きする。


「あんたもってことは、やっぱりそっちも気にしているのかい」


「まあな、前の戦で突然現れ、一気に名を高めた凄腕の剣士。あれだけ腕が立つのならぜひうちの商隊の用心棒として雇いたいさ」


 やはりこの二人は商人の様だ。


「なんでダメなんだ」


「よくは分からんがどうやら領主のお気に入りらしい。金ならだすと言ったのだが取り合ってはもらえなかった。代わりの剣闘士を紹介されたがな」


 そう言って商人の片割れはそう言って杯をあおる。


「そいつを雇ったのか」


「ああ。エダにこだわっていたわけじゃないからな。その雇った剣闘士もようやく自由が得られたと喜んでいた」


「その剣闘士、役に立ちそうか?」


「以前から名前は知っていた。腕も確かさ」


「やるな。ただでは転ばないというわけだ」


「ああ。だが何にしてもエダはやめておけ、下手をすればとんでもない額を吹っかけてくるやもしれん、何しろフォルト・ガシオンの後ろにはスリエード商会がついているからな」


 スリエード商会の名が出ると相手の商人の顔が渋くなる。


「そうか、それは残念だ」


 そこでその話は終わり、二人の商人はそれぞれ店を後にする。


「…ふむ」


 その二人の後姿を見送ったビアトロは思索に沈む。


 どうやらエダの存在は商人たちの間でも結構な噂になっているようだ。だがなぜここの領主であるフォルト・ガシオンは手放さないのか。


 いや、あれだけ腕が立つのなら自分の手元に置いておきたいのもうなずけるが…


 ビアトロは考えを巡らせながら元いた席に戻る。


 と、そこに酒場の店主が再びビアトロに声をかけてくる。


「詩人さんや、しばらくこの町にとどまるかね。だったらちょくちょくうちに顔を出してくれないか?あんたの唄を聞きたくて人が集まってくるだろうし」


「…ああ、考えておこう」


 店主の提案にビアトロは言葉を濁しながら答える。

 普段ならこうした提案は喜んで応じているのだが、今回はもう少し情報を集めたい所、なので他の酒場もめぐりたいのが本音である。


 だが、店主も客引きを確保したいのか、卓について酒をすすめてくる。


 ビアトロはそれを受けて杯を差し出すが、あまり口はつけようとはしない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ