歴史の痕跡
ビエト・ラディオ=闘技場
この闘技場はかつてこの地を征服した「ソーレ・チェアーノ」帝国がその権勢を誇示するために建設させたもの。
しかしその帝国を乗っ取ったファルテス教団がこの地に攻め込んできた際、この闘技場こそが人々を守る最後の砦として働き、多くの人々を守った。
それ以来、ここは支配と抑圧の象徴ではなく、多くの人々を守った心の拠り所となっている。
「ラトはどうしてここにくるようになったんだい?」
「お店のせんでん」
「宣伝?」
蜜蝋で作られた蝋燭の明かりに照らされた石造りの暗い通路、そこに響く二つの足音。
「ここには旅の人も来るでしょ?そういう人たちに」
「なるほど」
「あ、でも誰でもってわけじゃないの。商人の子たるもの、人を見る目を養いなさいってお父さんが」
なるほど、商人の娘としての教育という事か。ビアトロは得心するとともにあることに気付く。
「という事は、わたしは目にかなったってわけかな?」
「そうそう」
出口から差し込む光が少しずつ強くなっていく。
「早く早く」
歩を早め、せかすラト。だが、それを追おうとしたビアトロはふと腰の違和感に気づく。
「待ってくれ、預け物を取りにいかないと」
「あ、そうだった」
ビアトロの言葉を聞いたラトはそそくさと戻ってくる。
二人が足を止めたのは、入口にほど近い脇の通路にある小部屋。ここはかつての大戦のさなか、人々が立てこもっていた際、見張り達の詰め所だった所。
ビアトロは受付の人物に割り符を差し出し、預けていた剣を受け取る。
「……ビアトロさんって結構剣の腕が立つのね」
「どうしてだい?」
「だって刃の長い剣って、きちんと訓練しないとうまく扱えないんでしょ?」
確かに。槍などとは違い、剣の扱いにはそれなりの鍛錬を必要とする。しかし……
「……よく知っているね、流石は商人の子だ」
「へへへっ。実は前にこっそりお店の商品を持ち出して振ってみた事があるんだ。でもうまく使えなくって」
そう言いながら悔しそうな表情を見せるラト。ビアトロはそんな彼女の活発さにあきれつつもその冒険心溢れる様に感心する。
そんなやり取りをしながら剣を受け取った二人はようやく連れ立って外へと向かう。