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フューゾル市、五百万の人口を誇る巨大都市である。
そのフューゾル市の一角に銀龍酒家と言う店がある。
本日は休業らしく店の中は四人の人だけが居た。
「んで、アンタ等何してんだ?」
眠そうな目をしてキセルを吹かせるボサボサ髪の残念美女、メイシンが先程から客席用のテーブルで割り箸を大量に輪ゴムで括りつけている、金髪を胸元まで伸ばし片目に掛かっている美女ジュディと、それを何とも言えない醒めた目で見ているボーイッシュな髪型の美少女ティナに聞いた。
「さあ‥‥?」
ティナが曖昧に答える。
ジュディが手を止めてメイシンを見る。
「割り箸ピストルよ、見てなさい二人共」
そう言うと、徐に輪ゴムを割り箸ピストルにセットする。
「三、二、一、ファイアッ!」
割り箸ピストルから放たれた輪ゴムが、店の端にある植え込みに凄まじい勢いで発射される。
植え込みに着弾した輪ゴムが凄まじい轟音をたてて爆発を起こす。
「成功よっ!」
「ふざけんな! 何で輪ゴムで店を破壊するテロ起こせんだよ!」
メイシンがジュディの頭に目にも止まらぬ拳骨を落とした。
「いっだぁぁっ!」
ジュディがソファに座りながら俯き、小刻みに震えながら絶叫する。
その時、植え込みの影から煤けた姿の中年がフラフラと現れた。
「フッフッフ‥‥良く我がこの場所に隠れて居る事に気付いたな」
いきなり現れた中年に三人が言葉を失う。
数秒の沈黙の後、奥から飲み物を持ってきた髪をポニーテールにしている、ティナの妹のルーニアが四人に気付いて声を掛けた。
「あれ? お客さんですか店長?」
お休みじゃ無かったっけ、と呟きながら小首を傾げる。
その言葉を聞いた中年が、高笑いをあげながらルーニアに向かい吼える。
「ハッハッハーッ! 客だと!? 笑わせてくれる!」
「客じゃ無いなら泥棒かしら?」
中年の言葉にジュディが聞いた。
「違う! 我を何だと思っている!」
「うらぶれた不法侵入の中年」
「何か煤けた浮浪者」
「違うわボケっ!」
ジュディとティナの返答に怒る中年。
「フーッ、フーッ‥‥まあよい、ここ数日この場所からお主等二人を観察させてもらった」
メイシンとルーニアを指差しながら言う中年。
「‥‥この人もしかして二人のストーカーかしら?」
「あの植え込みに数日って、トイレや風呂はどうしたんでしょうか‥‥真性の変態ですかね?」
ジュディとティナが中年をチラ見しながら囁きあう。
「‥‥お主の正体は解っているぞ店長?」
中年が二人の言葉を無視してメイシンを指差しながら言った、頬に一筋の汗を流しながら。
「‥‥どう言う意味だい?」
十二カ国連合の八極星であるメイシンの正体を知る者か、とメイシンが警戒しながら聞いた。
「フッ、それはお主が一番良く解っておるであろう」
中年が半身に向きを変え、足を開いて腰を落として構える。
場に緊張が走る。
「今度の大会、お主の様な者に挑戦権が与えられた事はおかしい、と言っておるのだ」
中年が鋭い目付きでメイシンを睨む。
「あ? 大会?」
メイシンが予想と違った返答に緊張を反らされた。
「そうだ! お主調理師免許持ってないだろ!そんなんで【爆裂!フューゾル市大調理大戦】に参加できるのはおかしいっ! 我は参加できなかったのにっ! チクショウっ!」
「知るかぁあぁっ!!!」
メイシンの渾身のボディブローが中年に突き刺さった。
そんな二人を眺めながらルーニアが「あ、そう言えばそんな知らせ来てました」と、メイシンに伝え忘れていた事を思い出した。