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守護霊は、おじさん  作者: 直井 倖之進
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第二章 『真依、おじさんをクビにする』①


         第二章 『真依、おじさんをクビにする』


 想像して欲しい。

 突然、よれよれスーツにぼさぼさ頭の、四十二歳のおじさんと同居することになったら。

 しかも、そのおじさんが、片時も離れることなく、貴方の後ろをついてくるとしたら。

 そんな悲運を持つ、十一歳の少女。それが、星宮真依である。

 六年生になっての初登校を終え、現在、真依は自宅二階にある自室のベッドに座っている。目の前では、何が楽しいのか分からないが、宙に浮いたおじさんがにこにこと微笑んでいた。

 ちらりとおじさんに目をやり、真依は家に帰った時のことを思い返した。

 

 俯き帰宅する真依を「おかえりなさい」と母親が玄関先で出迎えた。……が、娘の後ろについているおじさんの顔を見るなり固まってしまった。

 時にしては数秒だが、一生とも思えるような沈黙が訪れたのち、絞り出すような声で母親がおじさんに尋ねた。「……あの、貴方が、娘の、守護霊さん、ですか?」

 「はい。私が、真依さんの守護霊、間野卓郎です。よろしくお願いします」自己紹介をしながらおじさんは、真依と出会った時と同じように幾度も頭を下げた。

 「こちらこそ、よろしくお願い致します。そそっかしい娘ですが、どうか見捨てることなく、真依をお守りください」そう母親が頼むとおじさんは、「任せてください!」と胸を張って答えた。

 「ありがとうございます。では、どうぞ」一見にこやかにおじさんを招き入れている様子の母親。だが、その笑顔は完全に引きつっていた。


「……はぁーーー」

 真依は深く長いため息をついた。

「どうしたんですか? 浮かない顔をして」

 浮いているおじさんが、変わらぬ笑みでそう尋ねる。

 「貴方のせいよ!」怒鳴りたい気持ちをぐっと抑え、真依は尋ね返した。

「おじさんは、随分と嬉しそうだけど、どうしたの?」

 「待ってました」とばかりに、おじさんは答えた。

「嬉しいに決まっているじゃないですか。だって、真依さんのお母さんに、“どうか見捨てることなく、真依をお守りください”って頼まれたんですよ。これは、早くも認められた証拠ですよ」

「認められたんじゃなくて、それ、社交辞令ってやつなんだけど……」

 真依はそう否定したが、おじさんの耳には入っていない様子だった。

 仕方なく、彼女は話題を変えることにした。

「ねぇ、おじさん。岬ちゃんの白虎って、そんなに凄い守護霊なの?」

「凄いなんてものじゃないですよ。何せ、神の使いなんですから」

「神様の使い?」

「そうです。百年前に神がこの国に降り立ち、その存在が唯一無二であると知られるまで、彼ら四獣は、神だと思われていました。でも、本当は、白虎は西の方角を守る神の使いだったのです」

「そうなんだ。じゃあ、織田信長は?」

「彼は、右府です」

 「右府? そういえば、そんなことを信長も自分で話していたなぁ」そう思いながら真依は聞いた。

「右府って?」

「右大臣のことです」

「なるほど、右大臣かぁ」

 分かった様子で頷く真依だったが、彼女の頭の中に出てきていたのは、ひな祭りで白酒を飲み、赤い顔をしている右大臣の姿だった。

「おじさんって、意外と賢いのね」

 少し見直した、との口振りで真依が褒めると、おじさんは、

「私、生きていたころから勉強だけは得意だったんです」

 と頭を掻いた。

「あ、そうだ」

 ここでおじさんは、急に何かを思い出したようにスーツの内ポケットに手を入れ、一枚の紙を取り出した。

「それは?」

 真依が紙を指差す。

「これは、“守護霊契約書”です。こちらに真依さんからサインをいただき、私が真依さんの守護霊であると正式に認めてもらうわけです」

「ふーん」

 真依は、さほど興味なさげに相槌を打った。

「では、真依さんにも分かるよう契約内容を噛み砕いて音読いたしますので、よくお聞きください」

「はい、はーい。よろしくー」

 ごろりとベッドに仰向けになりながら、真依は適当な返事をした。

 その真上に浮遊すると、おじさんは話し始めた。

「今から百年前。それまで年間三万人あまりだった自殺者が、とうとう三万六千五百人、つまり、日に百人を超えてしまいました。そんな現状を大変悲観した神は、天上界を降り、この国に姿を現しました。そして、人間に真紅のスイッチを与えたのです。神は人間に告げました。これを押せば守護霊の姿が見える、と。そうです。神は、人間の傍には必ず守護霊がいるのだということを教え、“人は決して独りではない。だから、孤独に苦しむな”と伝えたのです。しかし、ずっと守護霊と接することができるのでは、人間はそれに甘えてしまいます。そこで、期限を設けました。守護霊が姿を現す期間を、小学六年生の始業式当日からその人が二十歳(はたち)の誕生日を迎える日まで、としたのです」

「そうか、二十歳で守護霊は見えなくなるんだ。だから、お父さんやお母さんの守護霊は見えないのね」

「そのとおりです。因みに、守護霊が姿を現している期間は、他の人間もそれを見ることができます。そのため、その人が成人しているかどうかは守護霊が見えるか否かで分かり、未成年の飲酒や喫煙の抑制にも役立っているというわけです」

「ふーん。難しい話はいいよ、続けて」

「は、はい。では、次に、守護霊が見えている時とそうでない時との違いについてお話しします。最も大きな違いは、今のように“会話ができること”です。他には……」

 おじさんはそこで言葉を切ると、いきなり手を伸ばし、寝ている真依の肩にぽんぽんと触れた。

「ちょ、ちょっと、触らないでよね!」

 真依がおじさんの手を振り払う。

「す、すみません。ですが、“触れることができる”というのを説明したかったので……」

 おじさんは、痛そうに手を擦りながら答えた。

「別に、本当にやらなくてもいいでしょう」

「すみません。……あ、でも、守護霊が触れることができる人間は、守るべき主だけ。私の場合は、真依さんだけです。あと、これは元からですが、生命の無い物、例えばコップや車などにも触れることができます」

「生命が無い? じゃあ、他の守護霊に触るのは?」

「確かに、守護霊に生命はありませんので、それも問題ありません。他にご質問は?」

「無いよ」

「そうですか。まぁ、これら以外にも色いろと制限はあるのですが、その中で、主の寿命が尽きる時までお守りする、それが私たち守護霊の役割なのです。お分かりいただけましたでしょうか?」

「うん。何となく、だけどね」

「それはよかった。では、こちらにサインをお願いします」

 ベッドの隣に移動すると、おじさんは“守護霊契約書”をペンと一緒に差し出した。

「私の守護霊がおじさんなのは納得いかないけど、神様が決めたことなんだから、仕方ないよね」

 自分に言い聞かせるようにそう呟くと、真依はゆっくりと体を起こし、おじさんからペンを受け取った。

 ご訪問、ありがとうございました。

 次回更新は、5月31日(水)の予定です。

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