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守護霊は、おじさん  作者: 直井 倖之進
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第一章 『真依、おじさんと出会う』①


           第一章 『真依、おじさんと出会う』


 先ずは、お世話になった先生を見送る離任式。次いで、新しく赴任してきた先生を紹介する着任式。それが終われば、担任発表。そして、始業式。

 四月。新年度は、例年どおり慌ただしく始まった。

 六年一組、ほし(みや)()のクラスの担任は、“(いわ)()”こと、(いわ)()(やす)()先生だった。身長百九十センチメートル、体重百十キログラムの巨漢で、名前同様、ごつごつとした岩のような顔をしている。「ひと度“岩男”が怒れば、死人でさえも驚いて目を覚ます」と噂されるほどに怖い先生だ。

 一方、二組の担任は、近くの町の小学校から新しくやってきた()(ざくら)(みどり)先生。教師になって四年目の、見るからに穏やかで優しそうな女性の先生だった。

 同じ先生であるにも拘らず、月とスッポンの二人。当然のことながら、スッポンのほうが担任になってしまった一組の子供たちは、「私も小桜先生がよかったなぁ……」とか「“岩男”かぁ。ハズレだ」などと、口ぐちに不満を呟いた。

 そのような中、岩田先生の担任を歓迎している珍しい子がひとり。それは、真依だった。

 無論、真依とて岩田先生を苦手だと思っていなかった訳ではない。

 しかし、その考えを大きく変える出来事があったのである。

 あれは、去年の運動会のことだった。


 その年、初めて紅白リレーの選手になった真依は、とても張り切っていた。全員が走る徒競争と異なり、運動会の取りを飾る紅白リレーは、クラスの中でも特に足の速い子しか出場できない。それに選ばれたのは、五歳のころまで体が弱かった彼女にとって、まさに奇跡とも言える名誉だった。

 ところが、そんな真依を突然の悲劇が襲った。紅白リレー直前のプログラム、障害物競争で、右足を捻ってしまったのだ。

 目眩がするほどに痛む足を引き摺りながら、それでも彼女は入場門に向かった。どうしても紅白リレーに出場したかったのである。

 何とか入場門まで辿り着き、その場で待機する真依。その肩を誰かがトントンと叩いた。

 振り返ると、そこには岩田先生がいた。

 大きな顔をずいっと近づけ、岩田先生は言った。「お前、足を捻っただろう?」その真剣な眼差しが恐ろしく、嘘を吐いたらぶたれるのではないかと思った真依は、「は、はい」と正直に答えた。

 すると、岩田先生は、いきなり真依を抱え上げた。それは所謂いわゆるお姫様抱っこだったのだが、抱える側の男性が王子様ではなく“岩男”であるため、その姿は、まるで人さらいのようだった。

 「え? え?」戸惑っている真依に岩田先生は、「救護テントに行くぞ」と短く告げると、尻を蹴られた雄牛よろしくドカドカと駆け出し、あっという間に目的地へと到着した。

 救護テントに入ると、そこには、養護教諭の(なか)(やま)(ひとみ)先生がいた。

 簡易ベッドに真依を寝かせ、岩田先生が事情を説明する。

 「まぁ、それは大変。ちょっと診てみましょう」中山先生は真依の右足に目をやった。

 だが、ちらりと見ただけですぐに、「これは……」とその表情を曇らせた。

 「え? 私の足、そんなに大きな怪我なの?」そう思い、真依は少し不安になった。

 その時、「五年一組、星宮真依さん。至急、入場門まできてください。繰り返します。五年一組、星宮真依さん……」と、本部テントから放送が入った。

 どうやら、紅白リレーが始まってしまうようだ。

 「私、行きます!」真依は慌てて起き上がろうとしたが、岩田先生がそれを止めた。

 先生は、「五年一組、星宮真依は棄権する。急いで代わりの走者を用意してください、と、担任の先生に伝えてくれ」そう本部テントにいる放送委員会の子に向かって大声で知らせた。

 このままでは紅白リレーに出場できなくなってしまう。焦った真依は、「私、大丈夫ですから走らせてください」と岩田先生に頼んだ。

 しかし、彼女の願いは聞き入れられなかった。

 ベッドで横になる真依の高さにまで腰を屈め、岩田先生は言った。「今、その足で走ったとしても、周りを心配させ、迷惑をかけるだけだ。お前は、まだ五年生なんだから来年がある。足を治し、来年頑張ればいい。その時は、皆が星宮のことを応援してくれるはずだ」と。

 これに真依は、複雑な心持ちになった。岩田先生の意見は理解できる。でも、だからといって来年も紅白リレーの選手になれるとは限らない。そう考えたのである。

 「リレーには出たい。でも……」真依の胸の中に、大きなコンフリクトが生じた。

 だが、既にその答えは、ぽっこりと腫れ始めた右足の痛みが教えてくれていた。

 横になったまま、グラウンドを見つめて唇を噛む真依。その耳に、「運動会、最後のプラグラムは、紅白リレーです。各学年から選ばれた俊足の走者を、皆さんどうぞ大きな拍手でお迎えください。それでは、紅白リレー、選手入場!」との、非情ともいえるような放送が聞こえてきた。

 「……終わった」そう気づいた途端、真依の目から涙が零れ落ちた。幼いころと比べて体は丈夫になった彼女だが、泣き虫なのはこの時も同じだった。

 紅白リレーに出られなかったショックか、それとも足の痛みのせいか、真依はこれよりのちのことをあまり覚えていない。ただ、応援にきていた両親とともに病院へと直行し、医師の診察を受けたことだけは、何となく記憶している。

 診断の結果は、右足首骨折。全治約二か月の大怪我であった。

 その夜。ギプスで固定された右足を見ながら真依は、「もし、無理をして走っていたら、どうなっていたんだろう……」と想像し、身震いした。それと同時に、全校児童が集まっている芋を洗うような運動会の場で、足を怪我した自分を発見してくれた岩田先生に、今さらながらに感謝した。

 

 かくして、この運動会を境に、真依の岩田先生に対する認識が、「怖い先生」から「怖いけど、信頼できる先生」へと変わった。今日(こんにち)の担任決定を彼女が歓迎したのも、つまりは、かような認識の変化によるものという訳である。

 「信頼できる」と言えば、真依には岩田先生以上に大きな信頼を寄せている人物がいる。同級生の()(がみ)(りゅう)()(すけ)だ。

 家が近所だということもあり、真依と竜之介は、ずっと仲のよい幼なじみとして生活してきた。

 気管支の病気のため、五歳のほぼ一年間を病院のベッドですごした真依だったが、その時でさえ、竜之介は毎日のように病室を訪れ、その日幼稚園であった出来事を話してくれた。帰りしなにはいつも、「早く元気になって、一緒に遊ぼう」と励ましてもくれた。つらい入院生活や二度の大きな手術を乗り越えられたのは、両親の介助はもちろんながら、彼の存在があったからでもある。

 (はる)(ぞら)を舞う風のように爽やかで、夏の入道雲のような安心感があって、秋の紅葉のような和みをもたらし、そして、寒い冬の日のカイロのような優しい温もりを持つ男の子。それが、真依にとっての竜之介なのである。

 因みに、二人は、幼なじみで同級生というだけでなく、生まれた日までもが同じ、五月三十日だ。だからという訳でもないのだが、真依は竜之介に対して、ある種の運命的なものを心の奥底で感じ取っていた。もっとも彼のほうがどう想っているのかは分からず、また、確認したこともなく、それが目下、彼女の心を悩ませている事案でもあるのだが……。

 ご訪問、ありがとうございました。

 次回更新は、5月22日(月)の予定です。

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