プロローグ
初投稿です。
暇つぶしにちょいちょいと。
僕は暗く静かな場所にいた。
ここにあるのは様々な人の記憶、思い、そして心。
幸せな記憶、不幸な記憶。強い思いがあれば弱くて無くなってしまいそうな記憶もある。それらを整理していくのが僕の役目でもある。対象物の分類分けや処分、保存など、ここから溢れてしまわないように整理しなければいけない。時々、対象物のなかに変なものが混じっていることがあるけれど、それ以外で僕のいる環境を騒がせるものはない。
静かで落ち着いた仕事が僕には合っているのだろう。ここに来てすでに50年近く経っている。しかし、僕の整理術はまだ師匠には及ばない。膨大な量の対象物を瞬時に見分けて処理していた師匠の姿は僕の憧れであり、目標だ。今師匠がどこにいるかは分からないけど、きっと楽しく派手に世界を周っているんだろう。次に会った時には、師匠と同じ位できるようになっていないとね。
この空間には大きな扉が一つ、数えきれない程の対象物と整理棚、あとは僕が休むためのクッションの山があるだけである。
それぞれの説明をしておこうか。
まずは大きな扉。ここと外がつながっている唯一の扉で、すごく細かい装飾がされていてとっても綺麗だけれど、僕がここに来てから1度も開いたことがない。というか、あまりに重たいから開けるのにすごく力が必要で疲れるから、こっちからは開けようと思わない。もう、観賞用の扉だね。僕しか見る人いないけど。
次にとっても数が多い対象物と整理棚。この空間はとても広いはずなんだけど、隙間なく並んでいる整理棚と処理しきれていない対象物のおかげでその広さが感じられない。僕の整理術がもっと早く正確になったら棚も減らせるんじゃないかなぁ、という希望を初めの頃は持っていたんだけど、今ではあまりの量の多さに半分諦めている。それでも半分は諦めてないよ。大きな目標を持つことは大切だって師匠が言ってたからね。
最後にこの空間の中心にあるクッションの山。僕の唯一の私物で、幸せな時間を作ってくれる大事な相棒達だ。クッションは一つ一つが大きくて、僕と同じ位の大きさがある。なんでも、とっても貴重な鳥の羽とか、幻の羊とまで言われている羊の毛が使用されているらしい。ここに飛び込むと包まれているような感じがして、とっても幸せな気持ちになるんだ。これらは全部師匠から僕へのプレゼントとしてくれたもので、大切な宝物だ。
僕が外界から切り離されてから、約100年。最初の50年は師匠の下で雑用係として経験を積んで、師匠が突然置手紙を残していなくなってしまってからは僕がここの整理をしている。流石に100年も世間から離れていると世界の情勢や変化には疎くなるけれど、ここで生活するのには影響しないから気にしていない。
これはそんな僕のちょっとした変化のある生活をつづった記録である。