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第五十四話−クローズという名−


「え……? それが、僕の魔法名?」


 すると、ウィルはいかにも真面目そうな口調で


「そうだ」


 と答える。 僕は、彼にだまされているようにしか思えなかった。


「ちょっと待って! クローズは僕の苗字だよ? どうしてそれが魔法名になるの?」


 適当なのだろうか?


「どうしてと言われても、そう決まってしまったのだから仕方がない。 君の運命さ」


 ウィルはきっぱりとそう言った。

 運命とは奇遇なものだ、と僕は思った。 続いて、彼はぶつくさと呟く。


「それにしても、珍しいな……過去に、まったく同じ名前の魔術師がいた」


「まったく同じ名前? どんな魔術師だったの」


 僕は、ウィルの言葉に興味が湧く。


「どんなも何も、私はあまり知らないのだが、幸せと言うものについて、かなりの執着心をもった魔術師だった」


 幸せを求めるのは人として当然のことではないのだろうか?


「彼は自らの追い求めるものに対して私の意見をよく求めてきたが、その執着心というものに、私は着いていけなかった。 そして、ある日を境に姿を消した」


「それで、どうなったの?」


「知らないさ。 その後のことは天のみぞ知る、と言ったところかな。 彼がこの世に残したのは、ある一言だけだ」


 僕は、その一言について、聞きたかった。 しかし、いざ聞こうとしたときに、ウィルのかもし出すどことなく人を寄せ付けない雰囲気に圧倒されてしまい、結局僕は、何も聞けず仕舞いに終わった。

 そして、彼は遠くのほうを見て


「君と似ていたような……気がするな」


 と、言った。

 僕はその魔術師と自分を比較した。 彼(もしくは彼女)は、僕にみたいに勉強も運動もダメで、おまけにネクラな性格なのだろうか? そして僕は、幸せに対して執着心を持っているか?


 答えは、わからない。 きっと幸せになりたい、とは思っているのだろう。 ただ、それについて他人に意見を求めるほど執着心を持っているわけではないと思う。 だとすれば、名前は同じでも、中身は違う人間同士のハズだ。 僕はどうして彼と同じ名前になったのかわからなかった。


 すると、今まで押し黙っていたリトルが


「レンディ? 世の中では不思議な偶然というのも、よく存在する」


 と、言った。 しかし、それを言い終わるか終わらないかのうちに


「必然だよ」


 と、ウィルが付け加えた。 リトルは彼の一言により、閉口した。 そして、今までこわばらせていた目つきをふとゆるめる。


「確かに。 伯爵に言わせて見れば 必然かもしれん」


 伯爵、というのはウィルのことだ。

 すると、その伯爵がリトルに目を合わせ、不思議な笑みを浮かべた。


「クククク……」


 僕は、彼等の話している内容がいまいち飲み込めなかった。

 偶然? 必然?

 前者はともかく、後者については、さっぱり……。


 すると、ウィルは手を叩いて、話題を変えた。


「さあ、ともかく! 名前が決まったんだから、今日はそれで良し、だ。 ちなみに”クローズ”という名前には、どんな目的が含まれているのか、説明しよう」


 リトルと僕は、ウィルの方を見つめた。


「クローズの”クロー”というのは、すなわちカラスのことだ。 次の”ズ(Z)”には、魔術的な記号で”つかさどるもの”という意味がある。

 カラスは昔のローマでは戦いのシンボルとされていてね。 他にも、イヌイットや中国などでもカラスにまつわる伝説はたくさんあるんだ。 どちらにしろ、君に足りないのは、賢さと体力と精神力、すべてだ。 その全てを補うために、少なくとも、賢さを養う必要がある。 方法を知らなければ、元も子もないからね。 つまり君には三つの足りない要素を補っていく手始めに、賢さが必要だ。 カラスには諸説があるが、賢い、ということだけは、君でも言えるだろう?」


「だから、カラスなんですか……?」


 僕がそっと聞くと、彼は


「そうさ」


 と、笑顔できっぱりと答え


「だから、君は”カラス遣い”だね」


 と、言った。


 僕は……絶望した。




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