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第八十話−巨人登場!−

「その、魔法円の意味は……?」


 僕が、興味津々に彼に聞いてみると、彼は眉をハの字に曲げ、機嫌を悪くしながらこう言った。


「なんてこった! これは世界封じの魔法円だよ」


「世界封じ?」


 それは一体、どんな魔法円なんだ……?


「つまり、僕たちを閉じ込めるための魔法さ。 この魔法円がかかれている建物は、その中へ入ったら最後、もう外へは出られなくなっている仕掛けなんだ……」


 そういうことだったのか!


「じゃあ、あの窓を開けたときに見た結界みたいなものは、この魔法のせいだったんだね!」


「そういうこと」


 オッズは、沈んだ面持ちでそう答えた。

 しょぼくれた一行は、当ても無く薄暗い廊下を歩き始めた。 カラスを頭に乗せた僕の後ろにオッズが付いてきている。

相変わらず、教室からは、カラスたちの話し声が聞こえていた。 まるで、ぼくらを小バカにしているみたいに!

 すると、それにまじってなにやら他の声も聞こえてきた。 なんだろう……声というよりは、動物の低い唸り声のようだ。


「ねぇ、さっきから誰かがうめいているみたいだよ」


 不安なので、僕が例の声についてオッズに切り出すと、彼は


「え? そうかい? ボクには誰かさんのいびきにしか聞こえないけど」


と言っておどけてみせた。 しかし、僕は冗談として流したくなかったので


「そう、それだよ」


と真剣に談義する。


「絶対、何かがいるんだよ! 呻き声を上げるような、”ヘンな奴”がさ……。 あ、ほら! また聞こえた!」


 僕らは一斉に耳を研ぎ澄ませた。 しばらくうめき声を聞いていると、僕はふと何かを思い出しそうになった。 この声は……どこかで、聞いたことがある。

 うめき声……そうか! この学校には


「巨人がいるんだよ!」


「巨人? この学校にはそんなものがいたのかい?」


 オッズは僕の言葉を聞いて、どこか嬉しそうだ。


「うん。 いや、実際はいないんだけど、この学校の構造が、古い金の音を増幅させて、そういうように聞こえるって奴なんだ」


「へえ〜、面白い学校だね!」


 僕は続ける。


「と、いうことは、今何時かになったってワケだ。 一体何時になったんだ?」


「三時だよ」


「そう」


 ……あれ?


「ねえ、オッズ。 いつからそんな嗄れ声になったの?」


 僕は歩きながらうしろにいる彼に問い掛けた。

 するとオッズは、一瞬戸惑って


「え、ボクは何も喋っていないけど」


 と返す。 おかしい。 オッズでなければ、誰が喋ったって? シューマンは僕の頭の上にいるから、喋ったのかどうかがすぐにわかる。 彼は喋っていない。

 だとしたら、喋ったのは彼しかいないハズだ。 得意の腹話術を使えば声を変えることなんてお茶の子さいさい……なのにどうして、彼は嘘をついているのだろう。


「うそだ。 シューマンは、何も喋ってないだろ? ということは、犯人はオッズしか……」


 そう言って僕は、振り返った。 きっと、オッズが僕のことをからかっているんだ。 振り返る前から、彼のニヤニヤしている顔が目に浮かぶ。 しかしその予想は見事に僕を裏切った。


 彼はバカ正直な顔で、「何を言っているんだい?」と問い掛けてきた。 はは、そんな戯言を言ったって、無駄!

 しかし、そんな戯言が真実となってしまったのは、その一秒後だ。 彼の後ろに……そう、オッズのうしろの暗がり、ちょうどうすらぼやけて、よく見えない廊下の暗がりから、大きな顔がにゅーっと現れ、僕と目が合う。 そのとき、僕は巨人のうめき声……だとばかり思っていたものは、実はそいつの鼻息だったってことに気づく。


 そう……時間を答えたのは、彼ではなく、彼の後ろにいた”大きな顔”こそが、その張本人だったのだ……!


「わあぁあああぁあぁあ!!!」


「ア゛ァ゛ア゛ーーーーーーーーー!!!」


 僕は”大きな顔”は、ほぼ同時に悲鳴をあげた。 ここで本当に驚くべきはどちらだろう!

 驚いたシューマンは、僕の頭から、さっと飛び降り、とっさに一メートルほど離れた。

 よくみることはできなかったが、色黒で毛むくじゃらの顔に、ぎゅっとしわがよって、まるで猛獣のようだったことは確か!

 あんな顔……生まれてから今日に至るまで、一度だって見たことがない! 世にも恐ろしい……それこそ、巨人だ! 立ち上がったところを見ると、ちょうど雪男とトロールを足してニで割ったようないでたちで、動物の毛皮を纏っている。 あの樽のように太い腕でつかみ掛かられたら、僕なんてひとたまりもないだろう……。


 背後から聞こえてきた悲鳴(この場合雄たけびといったほうが正しい)に、腰を抜かしているオッズがやっとのことで僕のそばまでやってきたかと思うと、巨人はまもなく暴れだし、そこらじゅうに体当たりしていく。

 ドシン! ドシン! 床がひしめく、窓はわれる! 中には窓枠ごとはずれて、そのまま落下した窓もある。踏みつけられたりでもしたら、一貫の終わりだ……!


「耳が、つんぼになるかと思った」


 オッズは痛そうに自分の耳を抑えながら、僕に話し掛けてきた。

 しかし、のんきに話をしている場合ではないと思ったので、僕は地響きに体をゆすられながらも、即座にオッズの手を取り、巨人とは反対の方向に向かって一気に駆け出した。 あとからシューマンもおたおたとしながらついてくる。


「わ、私を置いていくな! ……ヒィヒィ。 どうしてこんなに体が重いんだ……上手く歩けな」


 ドッシーン!


「わー!」


 シューマンが悲鳴をあげる。 あともうすこしで、巨人の足の下敷きになるところだ!

 ……そうか。 彼はさっき飲み込んでしまった秘宝のせいで、上手く身動きをとることが出来なくなっている。 フン、あんなヤツいい気味だ……しかし、そう考えようとしたとたん、僕の思考回路は、それとは正反対に動いた。


 ”たすけなきゃ……!”


 良心に後ろ髪をひっぱられる。 僕はオッズを先にいかせて、シューマンの元へと舞い戻った。


「ヘン! 助けに着たのか? 私はお前なんかの手を借りなくたって……」


 シューマンが言い切る前に、僕は彼を抱き上げ、オッズのいる方向へとかけだした。


「あっそ!! じゃあ、見殺しにすることだってできたんだよ?」


「……怖いこと言うなよ。 私がそう簡単に死ぬはずないだろ。 この愚か者が!」


 こんなときまで、人をイライラさせるやつが一体何処にいるだろう。

 でも、どんなに憎いと思っているやつにだって、命がある。 それは僕も一緒。 危機が迫っているときに、見殺しにするなんてできなかった……。 このときばかりは、夢だかから平気だとか、死ぬはずがないだとか、そういう風には考えてはいられなかった。


「でも、僕は助けなきゃいけないと思ったんだよ、バカ!」


「……フン! お前に感謝なんて、してないんだからな!」

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