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第七十八話−新しい同行者−

 シューマンは秘宝を飲み込んでしまった。 今この目で見たのだから、間違いない。 直系五センチもあろうかという光の玉を丸呑みにしてしまったのだ!

 ふと、のどの奥が熱くなる。


「うわーん! これじゃあ、何もかもお終いだ……!」


 気付くと、僕は今にも泣き出しそうになっていた。 ……前払いも、後払いも、こうなってしまったからには、もはや無関係だ。

 カラスのしでかすことは、予想もつかない!

 すると、ウィルが申訳無さそうに言った。


「すまない。 彼は、光物を見ると口の中に入れてしまうクセがあるんだ」


 それを聞くなり、オッズがいきなりケラケラと笑い出して、こんなことを付け加えた。


「まるで赤ちゃんのようだね!」


 こんな風に、シューマンに対して何でも言えるオッズに、怖いものなんて何も無いんだ。 彼は、無敵。 きっと、ウィルに対しても。


「赤ちゃんのようなシューマンか!」


 ウィルが、めずらしく陽気な様子で笑いながら、冗談を楽しむようにそう言うと、シューマンはさっきまでの傲慢な態度とはうって変わり、恥ずかしそうに俯いてしまった。 ちょいと彼の顔を覗き込んでみると、顔を真っ赤にして黙っている。 きっと、さっきの言動を後悔したのだろう。

 それにしても、ウィルに対して、何も口答えできていない様子を見ると、面白いほど彼等の力関係がわかる。


「あはは、本当に君の冗談は面白いね」


 ウィルは、嬉しそうだ。


「えへへ……」


 それに対して、ニコニコといつもの笑顔で答えるオッズ。 二人は早くも打ち解けている。

 さて、これからどうしたものかと、三人(シューマンは、話し合いにはとても参加できる様子ではなかった)で話し合っていると、ウィルが次のステージのヒントを言ってくれた。


「そういえば、次のステージは真っ暗だ。 何か、明かりになるものを、確保しないといけないな」


 すぐに、さっきシューマンが飲み込んでしまった、秘宝のことが脳裏を横切る。


「また、洞窟かい?」と、オッズ。


「いや、洞窟ではない」


 僕とオッズは、ウィルの言葉にほっとして、二人ともほとんど同時に息をついた。 もう、あの水責めからは逃れられる……!


「だが……、もしかしたら洞窟よりも、もっと難しいかもしれないね」


 僕は、すかさずウィルに詰問した。


「ええっ、一体どんな試練なんですか?」


 すると、彼はククっとのどの奥で笑う。


「それを言ったら、種明かしになってしまうじゃあないか。 どんなところかは、行ってからのお楽しみだ」


「そうか、行ってからのお楽しみだってさ、レンディ?」


 オッズが、僕のほうを見て、楽しげにそういった。

 行ってからのお楽しみ……本来ならば、良い期待を抱かせるために言うセリフだが、ウィルが言うと、決して期待をしてはいけない、何か恐ろしいことのように聞こえる。

 きっと、良い意味で期待をしているのは、ウィルだけだ。 それと……何も知らなさそうなオッズ。


 僕は、これまでの話をまとめあげた。


「それにしても、どっち道明かりになるものを探さなきゃいけないわけだ?」


「それと、出口をね」


 オッズが僕の言葉に付け足した。 確かに、出口がわからなければ、この学校から抜け出すことは出来ない。

 僕は、透明なウィルに向かって質問する。


「出口に関するヒントは無いんですか?」


 少しばかり期待しながら、あらぬウィルを見つめていたが、しばらくしても、回答が帰ってこない。 相変わらず黙っている……このまま、ヒントは”無し”なのだろうか?

 しかし、数分後、彼はうなりながら考える様子を示したあとで、こう答えた。


「探していれば、いずれは見つかるよ」


 ……やはり、答えに直接関係するようなことは言ってくれない。 そして彼は続ける。


「そもそも、目的を忘れてはいないだろうね? 試練は、目的を忘れてしまったら、やる意味がないぞ?」


 目的のことなら、さっきオッズが言ってくれたセリフのおかげで、今思い出したところだ。

 カラスの仲良しになる……それが、この試練の目的。 もしかして、ウィルは僕がまだカラスと仲良くすることができていないと判断したのか? 実際、それほど仲良くもないが……だが、これから仲良くするように努力することなら出来る。

 そうだ。 今は、あれこれと悩むよりも、まず行動で示したほうが良い。


「試練の目的のことなら、大丈夫だよ。 何かとありがとう。 それじゃ」


 僕たちは再び、学校の出口を探すことにした。 シューマンがついてくるのかどうか気になったが、彼は、結局僕たちについてきた。 それは、第二図書室の書庫を去ろうとした時のことである。


「面白そうだし、いずれ安全にもタイムリミットがあるからな」


 彼はそういって、立ち去ろうとする僕らの前に現れた。

 ……?


「それは、どういうことなんだい……?」


 オッズが、カラスを見つめながらいぶかしげにつぶやく。


「だから、つまり……」


 そういうシューマンの顔が、また赤味を帯び始めている。 なんだか恥ずかしそうだ。 すると、次の瞬間、彼は顔を真っ赤にして、叫んだ。


「こんなことも理解できないのか、ポンコツめ! これ以上恥をかかせるな!」


 オッズは、子供をあやす母親のように、優しくシューマンに向かってこう言った。 


「あはは、わかったよ。 大丈夫、ボクたちはきっと出口を見つけて見せるさ。 できるだけ早くね」


 それを聞くなりシューマンは、「本当だ! 早くしないと、許さないからな!」などと叫んで、わめきちらしつつも、結局僕たちの後を追い、ついてくる。 そんな風にして僕ら三人に、新しい同行者がくわわった。 (この場合、同行鳥というのか?)


 タイムリミットは、あと数時間くらい。 それまでに、出口を見つけ出そう。

 奴から秘宝を取り返すとき……つまり、消化されて出てきたとき、その秘法を持ち続けて、今度は他のカラスに目をつけられてしまうからだ。

 そうなったら、終わりだ。 だが、シューマンが秘宝を飲み込んでしまったこと……これは、もしかしたら、チャンスかもしれない。

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