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第七十七話−和を大切に?−


 オッズの打開策とは、「そのカラスと協力して、出口を探せばよい」というものであった。

 僕は、そんなことが簡単にできるはずがない、と反論した。


「出口を探すったって、その前にこのカラスは僕のポケットに入っている秘宝を狙っているんだよ? まずは、そっちを守ることを優先させなきゃ!」


 だがオッズは、落ち着き払った様子で、こう言った。


「でも、第一図書室の場所がわからないんだろう? もう、当人のカラスくんは、ここにきてしまっているし……」


「そうだぞ。 私が協力すれば早くこの試練が終わるというものだ」


 突然、シューマンが口を挟んできた。 彼は続けた。


「だが、その秘宝というやらを、私によこすことが前提だ。 フフ、私もただで協力するほど、甘くはないんでね」


 なんという欲張りなカラス! 業突く張りなシューマン!


「……べ、別に、お前の協力がなくったって、平気だもん!」


「……! レンディ?」


 オッズが駭然とした表情で、僕のほうを見る。


「オッズ、こんなやつと取引しても時間の無駄だよ! もう逃げる道はないようだし……この秘法を持っていれば、何れもカラスが追ってくるしね」


「じゃあ、どうしろっていうんだ? 何か他に良い手でもあるのか?」


「それは……」


 だが、すぐに思い当たる良い方法は、なかった。 オッズの試すような言葉が胸に突き刺さる。 やはり、さっきオッズの提案したカラスと協力して出口を探す、という方法しか、良い手はないのだろうか……?


「カラスを追っ払うか、協力するかしかないな」


 オッズが、そういう。 僕は、ため息をついてこう答えた。


「でも、前者は無理でしょう? ……そうだね。 協力するしかないよね」


 するとオッズは、僕の同意に喜んだのか、にっこりと笑った。


「和を大切に!」


 こんなメンバーで、和を大切にすることなんて、できるのだろうか? できそうもない、と僕は思う。 だが、オッズが努めて、僕のカラス嫌いを克服させようとしているのかと思うと、その提案にそっぽを向く気持ちにはなれない。 思い出してみれば、そもそもこの試練を受けた理由は僕のカラス嫌いを克服するためなのだ。 なのに、僕はいつのまにかその目的を見失って、ただ逃避することしか考えていなかった。 オッズが、ここで、僕のカラス嫌いを克服してくれようとしなかったら、この先、目的を見失ったまま、試練に失敗していたかもしれない。 オッズは、大人の格好をした子供なんかじゃない。 立派な大人だ。


「そうだよ、和を大切に……」


 でも、いざカラスと協力する、といったって、どうしたら良いのかわからない。 この欲張りなカラスをどう扱えばよいのだろう? ウィルは、この試練をはじめる前に、このようなこといっていた。「相手の気持ちを理解しようとすれば、お互いに分かり合える」と。

 だとしたら今、僕に突きつけられている課題はこのカラスの気持ちを理解する、ということなのだろうか?


「ねえ、シューマン? 僕の持っている秘宝が、そんなにほしいのかい?」


「ああ、もちろんだ!」


 彼はやはり、そう答える。


「じゃあ、本当にこの秘宝を渡したら、この学校から抜け出す出口を探すことに協力してくれるんだね?」


 すると、シューマンは、僕の顔を見つめながら、しばらく黙りこんだ。 彼がなんと言い出すのか……もし、不当なことを言われたらどうしよう? 僕は思わず固唾を飲んだ。


「そうだな……。 その珍しい秘宝をくれるんなら、約束を破るわけには行かない」


 彼は、静かに語りだした。


「だが、料金前払いが、基本だ。 まずは、その秘宝をくれ」


 僕は思わずためらった。 後払いならまだ安心できるが、前払いとなると悪い場合には逃げられてしまうかもしれないからだ!

 僕は、またオッズの方を向いて目配せをする。 やはり、オッズは僕自身で、物事を決めることが基本だ、というように、肩をすくめた。 そのとおりだ。 僕もそろそろ、この人を頼るクセをどうにかしないといけない。

 僕は、嫌々秘宝をズボンのポケットから取り出した。 青緑色の光が、神秘的に輝く……。 シューマンは、その秘宝の全貌を見た途端、カッと目を見開いて狂喜乱舞した。 そして、次の瞬間


「わあ! 何をするんだ」


 彼はなんと、僕の腕に飛びつき、その秘宝を掻っ攫ってしまった。 しかも掻っ攫っただけじゃない。 飲み込んでしまったのだ!

 あれよあれよという間に、秘宝が食堂を伝って、胃袋へと収まる様を見た……。 ああ、もう秘宝は、彼の胃袋の中へ……。


「…………」


 オッズが、唖然とした表情で、カラスを見ている。 僕は、それ以上に驚いて、バクバクと脈打つ心臓の鼓動が、のどのところまできているのを感じた。

 一瞬の静寂――。 しかし、それを破ったのは、天からのお告げだった。


「あーあー、マイクのテスト中……」


 のうのうとした声音が、響く。 それは僕たちの緊張を、一瞬で崩した。 声の主は、ほかでもない。


「どうやら、大変なことが起こってしまったみたいだね、レンディ君」


「大変なんてものじゃないよ!」


 僕は宙にいる透明なウィル伯爵に向かって、がむしゃらに叫ぶ。 余計にイラつかせる、その冷静な声……。


「シューマン、あれほど食べ物意外のものを口に入れてはいけないといったのに……まったく」


 ウィルの落胆した声が聞こえる。 そして、もう一方では、シューマンの満足しきった


「げぇーっぷ」


 が、聞こえる。 その場にいたみんな(カラス以外)が、ため息をついた。



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