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第七十五話−カラスの学園 2−

「だから、この杖がきっとボクらの代わりになってくれたんだろう」


 なんとかして、オッズが僕のことをなだめようとしてくれたが、僕は明るくなれそうも無かった。

 そして、オッズのへし折れた杖を見て、秘宝の安否を急いで確かめた。 ……大丈夫なようだ。


「ところで、今回の試練は、一体何をすれば良いの?」


 僕がウィル伯爵に訪ねる。


「さっきも言ったとおり、苦手の克服さ。 この学校のどこかに、出口があるから、そこを探して、ここから脱出すればよい。 だが、脱出をするためには多くのカラスと戯れることになるだろうけどね。 ま、脱出する頃には、君もカラスと仲良しこよしってことさ」


 だが、不安だ。


「……もしも、仲良くなれなかったら?」


「論より証拠だよ、レンディ君。 この先にその答えが待っている。 数学的に完璧に設計したこの世界は、計算のどこにも狂いが無いから、答えはいつだって一つなんだ」


 彼は自信満々だった。 むしろ自信があるというよりは、この世界の答えを全て握っているかのような口ぶり。 いや、そもそもこの試練というものは、すべて彼が用意したものなのだ……。 そして僕らは彼の掌の中で、もがいたり喜んだりしている……。


「ようし。 じゃあ、さっそく出口を探そうぜ」


 既にオッズは、その気になっていて、僕の手をひっぱった。 灰色の瞳がキラキラと輝いている。 この試練が進むに連れて、オッズの子供っぽさにますます磨きが掛かっているような気がした。


「精々気をつけていってくるんだよ」


***


 僕らは、しらみつぶしに教室の一つ一つを見て周ることにした。 二手に分かれて行っているが、全ての教室を見るには、かなりの時間を要しそうだ。 今のところ、出口らしい出口は見つけられない。 窓やドアを調べてみたが、どれも結界のようなものが張られているらしく、外へ通じない。 しかも、その作業が、まだ二階の半分くらいまでしか終わっていない。 驚いたことに、カラスは、全ての教室にいた。 それも、皆きちんと僕の学校の制服についているリボンを首につけている。 なんともおかしな……それでいて、不気味な光景だ。 まるでクラスの皆がカラスに変わってしまったかのような気がして、白昼夢を見ているのと同じような感覚になる。


 一方で、オッズはカラスが平気なのか、教室の扉を開ける度に、きゃっきゃとはしゃぎながらカラスたちと戯れている。 僕が置き去りにされた。 最初は優しくて良い人かとも思ったが、主人公の座は絶対にゆずらねえ。 だから、早く僕もカラスと仲良くしなきゃ……!


 四番目の教室を覗く。 そこにも他の教室と相変わらず、カラスたちがいる。 そういえば、この教室にいるカラス達は喋ることができるらしく、雑踏と同じようによく聞き取れないが、ワイワイガヤガヤと人間語を話しているらしいことはわかった。 もしらしたら、カラス達と喋ることができるかも……? おっかなびっくりしつつも、僕は好奇心をくすぐられた。


「あ、あの……」


 僕は、一番近くにいたカラスに話し掛けた。 すると、カラスはくるッとこちらを振り向いて


「なんだよ、うるせえな」


 と、早口で答える。 苦笑いする僕。 だが、これは奇跡だ。 僕が動物と……しかも一番嫌いなカラスと会話をしている。


「これはどういうことなの? それと君たちは一体、いつからここにいるんだい」


 すると、話し掛けたカラスがふわりと舞い上がって、僕の頭の上に留まった。 思いがけず、僕はきゃっと叫んだ。


「おまえらがこの世界にくる、ずーっと前からさ! その前は言葉の学校に通っていたんだ」


 なんと。 カラス達が言葉を喋られるようになるべく、学校に通っていたとは奇想天外な話だ。 おそらくこれはウィル伯爵が設定した物語か、もしくはウィル伯爵がカラスに人間語を喋ってもらうために教え込んだことなのだろう。 彼は多才だ。


「カ、カラスも喋られるようになるためには誰かに習わないとダメということなんだね」


 きょどきょどしている僕がやっとのことでそう答えると、カラスは僕の頭を右足で何度か引っかいて、こう言った。


「ところで、おまえ、弱そうだな!」

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