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第七十一話−キジムナーのいたずら−

「ところで、カウルが他の夢魔とは違うとか、なんとか言っていたけど」


 僕は、話題がそれてしまわないうちに、先ほどオッズが話しの冒頭で触れていたことについてを聞いてみた。


「カウルの正体については、しばらくたってから気付いた。 そうだな。 ボクが、魔術について、ある程度の知識を得た頃合いだったよ。

 最初、彼にエーテルを上げなければ、死んでしまうといったのは、ゲルデだったんだ。 最初はなんのことかよくわからなかった。 ただ、エーテルをあげるのをさぼっていると日に日に彼が無口になっていくことは、わかる。 だから、上げていた。 そしてその後、何故彼にエーテルをあげなければならないのか、ということに疑問をもったボクは、エーテルについて調べ始めた。 すると、ある文献から興味深い一文を発見したんだ。


”エーテルを糧とするもの、夢魔について。 人の生命力エーテルを糧とし、夢の世界に住む住人”


 夢魔のことに、興味がいったわけではないよ。 もし、その一文が本当だとしたら、カウルはどうだろうって。 彼は夢の中でしか喋ることが出来なかった。 それに、エーテルという生命力を必要としている。 まさかの偶然じゃないかと、最初は疑ったさ。 しかし、よく考えて見ろよ。 生命力を糧としていることや、夢の世界でのみ、彼の命が有効であるというところが、夢魔の性質とそっくりじゃないか」


 オッズは、そこまで一気に言い遂げると、僕が信じられないような目つきで彼を見ていることに彼自身が気が付いたのか、自分の発言に少し後悔した様子で、ため息をついた。

 僕は、もしやと思い、彼にこう言った。


「もしも、その文献がインチキだらけのグリモワール(魔道書のこと)だとしたら……?」


「そうだといいね。 でも、他の文献を探ってみても、同じようなことしかかかれていなかった。 皆が口をそろえて言うのだから、強ち間違ってはいないさ……。 ただ、彼だけは特別なんだと思い込むことしか出来ない。 いや、そうであってしかるべきなんだ」


 なんと言い返せばよいのだろう? 僕の立場として、夢魔が彼の仲間であるということに、反感を持って掛かっても良いのか。 いや、そんなことをしたら、きっとオッズは傷ついてしまう。 むしろ、軽蔑されるかも。 僕を何度もカラスから救ってくれた恩人に対して、疎遠的な態度を取るのは、辛いことだ。 仲間の縁は切りたくないけれど、恐ろしい、未知の存在である夢魔に関しては、一歩も近づきたくなかった。

***

 日が暮れかかり、赤く燃えるような空を見渡していると、不意に彼はこう言った。


「やはり、ヤブカラさんの言っていたとおりだ。 今日中に洞窟までたどり着くのは無理だろう。 そろそろ寝るところを確保しないといけないな」


「どこで寝るのさ……? きっと、蚊がたくさんいるに違いないよ」


 するとオッズは、少し考えてから、案を出した。


「じゃあ、どこか小屋を探そう」


 僕たちは、そこだけ木々が避けるように生えている小さな岸辺に船を着けてから、ジャングルの中を散策することにした。 その頃には、ほとんど日が暮れかかっていた。 こういった、ジャングルには、必ず猛獣がつきものだが、ヤブカラさんは特に注意していなかったし、猛獣のような鳴き声も聞こえてこない。

 もしかしたら意外と安全なジャングルなのかも、と思い、僕は少しだけ安心した。


「こんなところに、小屋なんてあるの?」


 挑戦的に彼に話し掛けてみたハズだったが、挑戦するまでもなかった。

 なぜなら、そう言った一、二分後には、誰も使っていない、打ち捨てられたような小屋を見つけられたからだ。 小屋といっても、大木の根が二股に割れている部分に掘建てられた、極小さなものだった。

 小屋には、壁から屋根に向かって、つる科の植物が這いまわり、大木の成に溶け込んで、カメレオンのような様相を呈しているそれは、僕たちを不気味に見つめていた。


「なんだか……すごい小屋だね」


 なんとコメントしたら良いのかわからなくて、僕が遠くから小屋を眺めていると、オッズはずんずんと小屋の方へ進んでいって、中を調べに行った。

 廃材のようなもので出来たみすぼらしい小屋だったが、中に入れば、雨風をある程度は防ぐことの出来るようだと、オッズが言った。


「とりあえず、今日はここに寝泊りしよう。 レンディ? 荷物を運ぶのを手伝ってくれ」


 僕たちは、船に置き去りにしてきた荷物を小屋の中へと移動させた。 移動させ終わる頃には、既に夕闇が地平線の彼方まで広がり、むっとする熱帯夜が訪れる。

 ジャングルの日没は、駆け足で去るも同然だった。 僕等が蚊を避けるためのテントを小屋の入り口に張ったころには、足元に気をつけなければすっころぶ(何しろ地面が湿っている)頃合であった。

 僕たちは、小屋の中にカンテラを灯して、明かりを確保した。 天井につるされたカンテラの暖かな光が、でこぼことした木の壁に黒い影を浮かび上がらせた。


「なんだかおとぎばなしにでも出てきそうな小屋だね」


「本当におとぎばなしなんだから仕方が無いさ」


 オッズは皮肉っぽくそう言うと、今日は疲れたなどと漏らして、リュックを枕にさっさと寝てしまった。 僕は何もすることがなかったので、ドアのない入り口から吹いてくる、生暖かくて、きっと誰かがバーベキューでもやっているのであろう煙っぽい風を感じながら暗い天井を見つめていた。


 ”ガサゴソ”


 ……何か物音が聞こえやしなかったか?


 おかしい。 僕はさっと立ち上がってあたりを見回してみた。 何か動くものが無いかと、よく

目を凝らしてみたが、それらしきものは見当たらず、虫の無く声しか聞こえない。

 そのハズだ。 きっと空耳だったのだ。

 僕は自分にそうやって言い聞かせ、さっさと寝た。


 ***


 翌朝。 僕たちは葉っぱなどをふとんの代わりにして眠ってはいなかった。 なのに、葉っぱのほかにドロや木の枝などが小屋の中に散乱しているから、どうみてもいたずらをされたに違いない。 そういう形跡が、僕等を驚かせる。


「これは一体どういうことだ? レンディ、もしかして君は」


 オッズが疑い深く僕をにらんだが、僕は


「僕がこんなユーモアのある人間だと思う?」


 と、一言言い返した。

 

「じゃあ、一体だれが……」


 嫌な予感がする。 僕等は、部屋の中を片付けて、ボートを着けた岸へ向かうことにした。

 ボートにのって得体の知れない何かが潜んでいるであろう小屋から離れようとしたのだが、そこで、ああ、嫌な予感はこのせいだったのだ、と悟った。


 ボートをつけておいたハズの岸には、真っ黒い燃え殻のようなものしか残っていなかったのだ。 そが風に吹かれて四方にばら撒けている。 もちろん、ボートはあった。 しかし、先ほど言ったような姿で……僕はこれら二つの事件に遭遇して、あるキジムナーの性質を思い出した。


「こりゃあ、いたずらだよ」


「いたずら? 悪質すぎやしないか?」


「なんたって、キジムナーのいたずらだもの。 彼等は火を吹くんだ。 昨日、寝付こうと思ったときにかいだ煙のような匂いは、きっとボートが焼けていた匂いなんだな……。 さて、捕まえてみればわかるよ? 彼等は可愛くていたずらっ子なんだ」


 僕らがそんな会話をしているところへ、待っていましたと言わんばかりに一人の(一匹か?)キジムナーが木のツタをつたって舞い降りてきた。 僕たちは驚いて一、二歩あとずさったがキジムナーの方はじっと僕等を睨んでいた。

 キジムナーの格好をまじかで見るのは、これが初めてだ。 やはり、赤っぽくてゴワゴワした髪の毛に、身に纏っているぼろきれのような布が印象的である。


「もしか、おまえらは昨日俺の家に勝手に入り込んでいた連中だろう? そんな真似をするから! 当然のむくい……」


 するとあとからそのキジムナーの家族と思われる、子供や女のキジムナーがのこのこと出てきた。

 僕たちは困惑して、互いに目を合わせた。 それから、とりあえず謝罪することを決めると、まずはオッズが彼のほうへと歩み出ていく。


「すまなかった。 でも、今回のことは、決してわざとじゃあないんだ。 許してくれないか」


 しばらくキジムナーはいぶかしげにオッズを見ていたが、やがてそれなら……ということで、なんとか僕等は許してもらえることとなった。

 しかしその後僕は、キジムナーに焼け焦げた船のことを訪ねたが、一度やってしまったものは元に戻せないといわれ、仕方なく洞窟まで歩いていくことになった。

 オッズが災難続きだ、とぼやく。


「まったくだ」


「きっとこれが試練なんだね」


 これがウィルの用意した試練だと思うと、彼の力の偉大さのようなものを覚った。 そして僕はあまりに無力で、彼の手の中では、運命の軌道に逆らえないといったような感覚を知る。 それはまさに恐怖であった。

 彼の存在の不可思議さもされど。

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