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第六十九話−村のキジムナー−

 オッズがそう言うと、リーダーは嬉しそうに僕らを見てこう言った。


「それは頼もしい! 今までに、何人も彼等から秘宝を取り返そうとしたが失敗続きだったんじゃ。 おお、まさかこんなお客が来てくれるとは……。 いやはや、感謝せねばならん」


 僕が、あまりに大げさなリーダーの態度にあたふたしていると、威勢良くオッズが乗り出して


「ところで、その洞窟というのは、どこにあるのです?」


 と、リーダーに尋ねた。


「まあ、詳しい話しはわしの家で話そうじゃないか。 付いて来てくれたまえ」


 僕たちは、リーダーの後について、彼の家へ向かうことになった。 僕は、あまりに身勝手なふるまいをするオッズに抗議した。


「いくら感謝をするにしても、見ず知らずの人の相手をするだなんて、オッズの好奇心は一体どうなっているの?」


 すると彼は、まるで茶目っ気たっぷりの幼子のような微笑を浮かべて


「ボクはこういうことをするのが好きなんだよ。 ワクワクするじゃないか」


 と、答えた。 子供の僕よりも子供らしい大人……ある意味で恐ろしい大人に出会ったのは、彼が初めてである。 僕は、洞窟よりも、むしろオッズに好奇心が沸く。 そして、洞窟へは行きたくなかった……。


***


 リーダーの家につくと、彼はまず自身の自己紹介をしてくれた。


「名乗り遅れてすまない。 わしはこの村の長を務めているヤブカラじゃ。 さて、早速本題に入るが、ここの地図に洞窟についてかかれておる」


 そう言うと、ヤブカラさんは部屋の置くにある本棚から、古めかしい巻物のようなものを取り出して、僕たちの前にもってきてくれた。 ヤブカラさんの家は、アジアンテイストの落ち着いた雰囲気で、お香か何かの良い香りが部屋中に漂っている。 家具や調度品などは、皆あめ色の木で作られていて、それらの古さが良い味を出している。


 テーブルの上に広げられた地図を見ると、そこには洞窟内部の地図と、その下に地図の幅いっぱいに次のような文章が書かれていた。


”己の足元に気をつけて進め”


 己の足元……?


「洞窟の中は地下水が流れているために、かなり湿っている。 滑りやすいからの。 わしが書いておいたのじゃ」


 なるほど。 と、いうと僕たちがここに来る前、辿ってきた洞窟と似たようなつくりをしているのか。


「ところで、洞窟へはどうやっていくんです?」


 オッズは早くその洞窟へ行きたくて仕方が無いらしい。

 彼がそう言うと、ヤブカラさんは、しばらく考えこんだあとで、答えた。


「入り口までいくには少し手間が掛かる。 急いでも船で二日はかかるじゃろ。 わしが船を用意しておいてやるから……いや、お前達は本気であの洞窟へ行くつもりなのか?」


 すると、オッズははっきりと頷いた。 僕は、しばらく戸惑っていたが、やっぱりオッズと同じように頷くしかなかった。


「今からいくのが無理なら、明日にでも行きます」


 そこまでいうのなら、とヤブカラさんも納得したらしく、船を出してもらえることとなった。 あまりに話しが早く進みすぎている。 オッズのやる気がありすぎるのか、それとも僕が儀式に対して消極的なのか知らないが、事の進み方がまるでとんとん拍子だ。


 その日は、ヤブカラさんの家に泊めてもらうことになった。

 そしてその翌日の早朝、ヤブカラさんは、既に村から少し離れた川岸に、木製のボートを一台用意してくれていた。 どうやら同じ村の漁業組合に協力してもらったらしい。 僕たちは朝食をおえた後で川岸まで行くと、小さいが、ちゃんと二人が乗れることの出来る大きさであるのがわかった。 オッズがヤブカラさんにお礼をいうと、さっそくそのボートに乗って、出発することにした。


「気をつけるんじゃよ!」


 遠くのほうで、ヤブカラさんが手を振っている。 僕たちも、彼に向かって手を振った。


***


 ヤブカラさんの話しに寄れば、この川をずっと上流へと上ってゆけば、洞窟の入り口につくらしい。

 ところで、キジムナーという妖怪は、火を吹くという特質を持っている。 確か、今までに秘宝を彼らから取り返しに行った人々は、皆失敗していたとヤブカラさんは話していた。 僕の脳裏に恐ろしい妄想がよぎる。 まさか、みんな……キジムナーの吹く火にやられたんじゃ……?


 いやいや。 まだそれはわからない。 自分で確かめたワケじゃないんだから! いざとなったときは、そう。 きっと前で梶を取っているオッズが助けてくれる。 そう信じて、僕は、手にしていた梶に力を込めた。


「お」


 すると、オッズが何かに気付いたのか、右手側の岸を見て、僕に話し掛けた。


「あれを見ろ」


 そこには――正確には、右手側の岸辺に赤い毛をした猿の群れが、こちらを見ているのが見えた。 あれは、もしかして……?


「キジムナー……かな」


 オッズがそう言うと、僕たちは、梶をこぐ手を止めて、赤い毛の猿たちキジムナーに見入った。 彼らは、こちらを不思議そうな目で見ている。 それにしても、彼らは普通の猿とは、やはりどこか違っているような気がした。 なんと言おう、顔がまるで人間の赤ちゃんのようだ。 それに、つぶらな目をしていてとても可愛い。 腰にはボロ布のようなものを巻きつけていて、ちゃんと性別があるようだ。 絵でみたりすることは以前あったが、本物を見たのは、これが初めてである。

 しばらくキジムナーたちを見ていると、オッズが不意に独り言をつぶやいた。


「カウル……」


 確かに。 あれに二本の角を生やしたら、カウルにそっくりだろう。 しかし、僕はオッズを見て、彼は単にキジムナーをカウルと比較しただけでないと思った。 オッズは、どこか寂しそうな顔をしている。


「やっぱり、一緒についてきてもよかった。 そうだよ。 何故、リトルがカウルやオッズのことを煙たがっているのか分からないけど……。 でも、僕はカウルが悪い奴だとは思えない。 そりゃあ、口はたまに悪いけどさ」


「いや、いいんだ。 これでよかったのさ」


 するとオッズは開き直るようにして、にっこりと笑って見せた。 自然な笑顔だとは思えなかったが、以前僕が彼と会ったときにみたときよりか、少しは隈が薄らいで、顔色が良くなっているように、見えた。

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