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第六十八話−猿の秘宝−

 僕は一瞬にして吹っ飛んだ視界に目が回った。 ものすごい勢いで宙吊りにされてしまったのだ。 同時に、カウベルのような音が森中に響く。


「レンディ!」


 オッズがはるか下で叫んでいる。 僕は、頭に血が上ってゆく感覚を覚えながら、オッズに向かって、叫んだ。


「た、助けて! わー!」


 半狂乱になりながら宙で必死にもがいていると、派手な格好をした集団が草むらをかき分けてやってきた。 十人くらいいる。 あの人たちは、一体……。


「かかったか?」


「珍しい、黒い毛の猿か」


「僕は猿じゃない!」 僕は必死になって叫んだ。


「言葉を喋るぞ」


「あいつは誰だ!」


 最後の一言を、集団の一人がオッズに向かって、言い放った。 オッズはわけもわからずにそこで立ち尽くしている。 すると、草むらをかき分けてきた集団のうちの一人が彼のそばに寄ってきた。


「何処のどいつだ?」


 オッズはとまどいながら、状況を説明する。 どうやら、言葉は通じているらしい。 彼等は、僕らと同じ言葉を使っている民族のようだ。


「なるほど。 では、猿の仲間ではないのだな?」


「猿の仲間……?」


 ”猿の仲間”とは一体なんのことだろう?


「知らないのか。 それなら安心した。 だが、目を光らせておくからな」


***


 集団のリーダーかと思われる人がそう言うと、周りに五、六人いた仲間達が、枝からつるされるような格好でいた僕を助けてくれた。 どうやら悪い人たちでは無さそうだ。 ……と、思ったのも、束の間。


「ちょっと!」


 僕たちは、手足を棒に縛り付けられ、まるで豚の丸焼きにでもされるかのようなかたちで、担がれた。 僕らは、集団に連れて行かれた。 ジャングルの獣道をずんずん進んでゆく。 しばらくすると、彼等の村と思われる場所に着いた。


「さあ、歓迎のパーティだ!」


 僕は耳を疑った。 さっきの扱い方が、歓迎のしるしだったとは……。 しかし、丁寧に縄を解いてくれたことは嬉しかった。

 なれない異国の文化に、僕は目が回りそうだ。


「きっと、大丈夫さ」


 オッズが、そう言って僕を励ましてくれたが、緊張は一向に解けなかった。 この前、リトルに誘拐されて参入儀礼を受けさせられたことを思い出す……。

 しかし、村の人々は快く僕たちを歓迎してくれたらしく、僕らは村の中央にある広場へと運ばれた。 そして、僕らのために用意してくれたのであろう席につき、しばらく固まっていると、綺麗な女の人たちが、次から次へと見たことも無い珍しい料理を運んできてくれた。


「ほうら、ボクらは歓迎されているんだ」


 そう言って、オッズは得意になり、丸い渦巻きのような形をした料理にかぶりつく。


「○×□△※……!」


 途端に、言葉にならない悲鳴が聞こえてきた。 オッズはそれをゴクリと飲み込むと、


「……実に、ユーモアのある味だね」


 と言って、僕に向かって舌を突き出した。 するとそこには、まるで身体に悪そうなけばけばしい色のキャンデーを食べたときと同じような現象が起こっていた。 僕はそれを見て、料理には目を向けないことにした。


「ところで」


 オッズは水を飲んだあとで、辺りをぐるりと見渡すと、先に出会った集団のリーダーと思われる人を捕まえて、話し掛けた。 リーダーは足早に僕らのところへと寄ってくる。


「ボクたちを歓迎してくれてありがとうございます。 早速なのですが、猿の仲間とは、一体なんのことです?」


 すると、リーダーは、急に後ろめたいことを聞かれてしまったかのような決まりの悪い顔をして黙りこくった。 何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか……? リーダーは、しばらく考えると、僕らにこう言った。


「時々、私たちの村を荒らしに来る輩だよ」


「村を?」


 オッズが聞き返すと、リーダーは深刻そうな口調でこう語った。


「住みかを追っ払っちまったのがいけないのかもしれんが……。 彼等はな、昔は人々と仲良く暮らしていたんだ。 ところが人が次第に増えてきたから、村を大きくするために森を切り開いた。 すると、彼等は怒って、新しく建てた家などにいたずらをするようになったのじゃよ」


「猿の報復か」 と、僕。


「だから、最初は君たちがその猿の仲間なのではないかと思って心配したんじゃ。 だが、わしの見るところ、そんな様子はないな」


 なるほど……だからあの時僕は「珍しい黒い毛の猿」と呼ばれたのか。 でも、何故珍しいのだろう? 黒い猿なら、何処にでもいそうだ。 ここに居る人たちにとって、黒い毛の猿が普通でないのだとしたら、一体どんな猿をここの人々は普段見ているのだろう。


「その猿は、今はどこに住んでいるのです?」


 オッズがリーダーに話し掛けると


「詳しいことは知らんなあ。 ただ、赤い毛をしておることは確かじゃ」と、彼はため息をつきながら答えた。


 猿が、人々に復讐をするだなんてことが、実際にありえるのだろうか? だが、ここは夢の世界だ。 現実世界とは違う。


「もしかしたら……」


 僕がそういうと、二人は振り返って僕に注目した。


「妖怪についての本で読んだことがあるんですが……それって、もしかして日本の南方妖怪”キジムナー”じゃないですか?」


「キジムナーとな?」


 リーダーが怪訝な顔でそう言ったので、僕は説明をした。


「僕は、それが猿の正体だとは確証できませんが、話しを聞いていると似ているような気がして……」


 僕がなんと説明しようかで迷っていると、オッズが「それは気になるな」と言い、弁舌を促してくれた。


「キジムナーは確か、木の精霊です。 他にも色々な言われがありますが……。 赤ん坊や猿の姿によく似ていて、赤い毛を纏っていると言います。 住みかを追い出されると、人間に報復すると」


「なるほど。 だから、いたずらをするようになったのか」 オッズは納得が行ったらしく、相槌を打ってそう答える。


「あの猿は、そんなものだったのか」 リーダーもオッズと同じように驚いた口調でそう言う。


「でも、実際のものを見たわけじゃあ無いから、そうとは言い切れないけど……」


 確かに、自信が無い。 僕が再び黙り込んでいると、リーダーが唐突に話し出した。


「猿が、村の秘宝を持っているらしいのですわ」


「村の秘宝?」と、僕。


「そうだ。 洞窟の奥に隠され、昔からこの土地を守る神として祀られているんだが……。 今度村で行われる儀式のために、それが必要なんじゃ。 しかし、猿がその秘宝を村人に返そうとせんで」


――それが、君の試練だ。


「あれ?」


 今、ふと、誰かの声が聞こえた気がした。 聞き覚えがある。 幻聴だろうか。


「どうしたんだ、レンディ?」 オッズが神妙な顔つきで僕を見た。


「ううん、なんでもない」


 そう言って、僕はリーダーに話しの続きを促した。


「それで……。 どうしても、猿から秘宝を返してもらわなければならん。 儀式を中止にしても、いつかは問題が解決されなければならんからの」


 僕たちは、どうしたら良いかわからなかった。 しかし、しばらく黙り込んでいると、オッズが突然


「彼等はボクたちを歓迎してくれた上に料理まで振舞ってくれたんだ。 ここは、感謝のしるしとして、その問題を解決してみせようじゃないか」


 と言った。

 オッズは、どこまでもお人よしだ。

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