第六十五話−決断−
「嘘だ」
僕は、ウィルの口にしたことが信じられなかった。
「どこにそんな証拠があるのさ」
「…………」
ウィルは黙ったままである。
「証拠が無いのなら、前言撤回していただこうか」
オッズが、ウィルをきっと睨んだ。 カウルは何がなんだかワケのわからぬ様子で、きょときょとしている。 どうして? 何故、カウルが夢魔なのだろう……?
結局、カウルの正体が何なのかについては、はっきりと結論が出ないまま、流された。 ウィルの言っていたことは、ただのたわごとであると、僕は心の底から願った。 理解するのが難しい人種だと思う分、彼の考えていることがわからなくて、怖い。
「結局、カラス使いになる件については、どうなったの?」
僕はリトルたちに質問した。
「つまり、君次第さ。 君が儀式を受けようとするのか、否かにかかっている」
「じゃあ……」
僕はしばらく、そこで間を置いて、考えを整理した。 まず、僕はその儀式を受けたいと思っている。 そして、今さっきオッズを連れて儀式を受けるのだと言ったら、リトルに反対された。 ウィルは、それになにやらわけのわからぬ理屈をつけて、僕を説き伏せようとしている。 リトルは、その事(つまり、カウルが夢魔だという事)を承知しているのだろう。 でも、何故彼らはカウルが夢魔なのだということが分かったのか。 ひいては、何故そうだと判断したのだろう。
「僕、その儀式を受けてみるよ。 それで手っ取り早く事を進められるのなら、そっちの方が良いと思うし。 けど、何故オッズがついていくことには反対なのさ?」
「ウィルのさっき言っていたことが、わからないのか。 そいつは夢魔を従えているんだぞ。 そんな危険な奴と一緒にいようだなんて、気がふれたか、それとも吹き込まれたのか!」
リトルが息巻いて、僕を忠告した。 僕は、彼がオッズに浴びせた罵倒を許せなかった。 はらわたの煮え繰り返る思いで、リトルを充分に睨みつけた後、僕は冷たくこう言った。
「わかっているよ。 でも、僕には、カウルが何故、夢魔なのかがわからない。 と、いうか、どうしてそんなことがいえるんだ! 証拠でもあるの」
すると、リトルは、あきれたといわんばかりに、目をぐるりと回した。 ウィルは横で、ため息をついて、言葉を探しているように見える。
「確か、オレグといったね」
ふいにウィルがオッズに尋ねた。 ウィルは、リトルとは正反対の冷静さを保っている。
「はい」
「……ひょっとしたら、君の名誉に関わることかもしれないから、一つ断っておく。 カウルについての説明は、貴方がするかね?」
オッズはしばらく黙り込んでいた。 そして、ウィルの目を見ながら、彼は語りだした。
「貴方が、偏見に目を侵された人間でないと、私は信じています。 ですが、この場で語るには、危険です。 ローザ、いやカウルのためにも、ここは私も貴方も、カウルの正体については言及しないということでどうでしょう」
こんなに真剣な様相で話しをしているオッズの見るのは、初めてだ。 すると、リトルはオッズの話しを聞くなり、さも不服だと言わんばかりにため息をついた。
「わかりました」
そして、ウィルは「それなら」と付け加えた。
「それなら、さまざまな事を想定して、カウルを連れて行くのは、止しておいた方が良い。 それで良いかね、リトル」
リトルは、ぎょろりとした目つきでウィルのことを見た。
「ああ、いいだろう。 レンディ達が儀式をしている間は、カウルを閉じ込めておく」
「ちょっと待て、どういうことだ!」
そこではじめて、カウルが弁論した。
「おいらが閉じ込められていなきゃいけないって? そんなの不公平だ」
「コラ、目上の人に向かってそんな口を訊くんじゃないよ」
オッズはすかさず、カウルの口を押さえ込んだ。 カウルがふがふがと抵抗している間に、ウィルがさっさと話しをまとめ上げた。
「フフ、仕方の無い子だ。 カウルについては、君たちが儀式に言っている間は、私が面倒を見ておくから、心配しなくて良い。 レンディ君、君の下した決断に間違いは無いね?」
その質問に対して、僕は
「はい」
と、はっきりと答えた。