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第六十一話−初恋のスケートリンク 2−

 僕は、スケートリンクの上にいる間、ずっとケビンたちのことを気にしていたので、ジェシーと一緒に優雅に滑るどころじゃなかった。

 なんたって、僕はスケートをするのが初めてなんだ。

 奴等の前で何度もすっ転んでいたら、笑いものじゃないか!

 僕だけが笑われるのなら、二百歩譲ってまだ許せるが、ジェシーにまで恥をかかせるのは忍びない。 僕は、できるだけ動かないようにしていた。 多くの客が僕らの横をすいすい滑っていくのに、僕ら二人はいつまでも壁にへばりついている。 自嘲気味に言えば、うじうじ虫もいいところだ! すると、ジェシーが「もっと、滑りましょうよ」といって、僕をスケートリンクの中央へ引っ張り出そうとしたが、僕は断固として動かなかった。


「すぐにできるようになるわよ!」


「嫌だ! あとで練習するから、ジェシーは一人で滑ってきなよ」


「何が嫌なのよ。 誰だって最初は初心者なのよ?」


彼女の言葉が、僕のうじうじした心をくすぐる気がした。


「でも……」


 すると、彼女は、僕をひっぱってスケートリンクの中央へと、連れ出した。

 こんなことろを、ケビン達に見られてしまったら、どうしよう……。 現に、彼らは僕と同じスケートリンクで滑っている!


 彼女に両手を引かれて中央まで出てきた。 四方を見渡すと、皆ものすごい速さで滑っていく! 中には、フィギュアスケートのようにくるくる回転したりポーズを取っている人も。


「じゃあ、私が手を引くから、レンディはバランスを取って滑ってね!」


 彼女がそっと僕の両手を掴んだ。 ふと頬が熱くなるのを感じる。

 僕は、それを隠そうとして、俯いた。


「どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


 僕は、彼女に手をとられて、ゆっくりと氷の上を滑り出した。 どうしよう……時間が経てば経つほど、顔が熱くなる。

 すると、横からものすごいスピードを出して滑ってきた子供が、僕らの間をすり抜けた。


「うわ!」


 僕は、一気にバランスを崩して、ジェシーの懐へ飛び込むように倒れてしまった。

 僕は、間一髪のところでジェシーに受け止められた。


「ちょっと! 離れてよ」


 気付けば、僕は彼女を抱きかかえるようにして倒れこんでいたので、慌てて姿勢を直した。


「ご、ごめん……その……」


 僕は、氷のくずを払いながら、辺りを見渡す。

 さっき滑り込んできた子供は、もうどこかへと消えてしまっている。 僕は、横に目をそらして、どう言い訳をしようか迷った。 すると、ジェシーが静かにこう言った。


「レンディって、そういうドジっぽいところがあるから好き」


 そう言うと、彼女はクスクスと笑った。 他のどんなに可愛い女の子の微笑みよりも、彼女の微笑みは、幸せそうだった。 僕も、何故だか照れてしまって、彼女につられて笑いあった。


***


 ケビンのことなど、忘れていた。 僕らが帰ろうとした頃には、彼らは既にスケートリンクから消えていたので、安心してジェシーと一緒に帰ることが出来た。

 彼女は、駅を降りて別れる間際、僕の唇に軽くキスをした。 そして、「また、今度ね!」と言ってくれた。

 駅を降りてから家に向かうまでの間は、まさに夢のような気分だった。 彼女が「レンディって、そういうドジっぽいところがあるから好き」と言ってくれたのは、きっと僕に対する告白だったに違いない! そうだと思ってしまうほど、僕は舞い上がっていた。

 その日の晩は、きっと良い夢を見られるだろうと思い、ワクワクしながらベットに入った。

 しかし、実際に見た夢は、違った。


 この日も、僕は夢の中でカラスに襲われた。 最初にたどり着いた場所は、オックスフォード駅。

 先日から数えて、この駅でカラスと出遭ったのは、何度目だろう。 二度目だ。

 どうして、何度もカラスと出遭うのだろうか。 僕は不可思議に思う。 これはカラスの陰謀ではないか。 いや、それは本当か。 カラスは頭が良いっていうけど。


 僕は、カラスに目を凝らした。 彼らは、何をしようとしているのだろう。

 目の前にいるカラスは、僕に向かって頭を傾げ気味に、カアと鳴いた。 赤い自転車に留まって、こちらをしげしげと見ている。 頭の奥底を、本能に近い直感でピンとひっぱられる気がした。 に、逃げなきゃ!


 僕は、先日カラスに追いかけられた記憶を辿りながら、どうやって逃げたら良いのかを必死で思索した。  奴等は僕を先回りしていた。 もしかして、奴等は僕の行動パターンを読んでいるんじゃ?

 以前はそうだったじゃないか。 変に動いたら、きっと危ない。


 でも、どうやって逃げよう。 さっき僕に鳴きかけたカラスは、前方十メートルほど先にある自転車に留まっている。 他のカラスは……いないのか。 いや、右手側のファーストフード店の屋根に一羽。 そして、左手側の電線にも一羽留まっている。 僕は、カラスに囲まれた。

 奴等が、一様に僕を見ている。 そんな気がする。


 しかし、カラスの視線に拘束されてなるものか!

 覚悟を決めよう。 きっと、どこかに隠れていれば、助かるハズ。 そうさ。 この前だって、オッズさんが助けてくれたじゃないか……。


 僕は、拳をぎゅっと握り、振り返ってその場から逃げ出した。

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