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第六十話−−初恋のスケートリンク

 翌日、目が覚めると、僕はいつものように、自分のベットの上にいた。

 やはり、あれは夢だったのだ。 僕は、妙な気分で年明けを迎えた。


 しかし、あれが夢であれ、本当に夢の世界でオッズと会っていたのだとしたら、またとないチャンスにめぐり合えている! 何故って、魔術師に出会えたじゃないか! しかし彼は、僕の面倒を見てくれるだろうか……?

 きっと、人はよさそうだ。 僕をわざわざ店に泊めてくれたんだし。

 リトルは、なんていうかなあ。 いや、彼に許可を求める以前に、もう少しオッズと付き合ってみよう。 まずは、人物を探らなくちゃ。


 あの日から三日後、僕の元にジェシーからのメールが届いた。


受信メール001

         1/3(土)10:51

送信者:Jeshe

添付:×

件名:連絡

――――――――――――――

 今度、スケートに行きましょうよ!

 私、割引券を二枚持っているの。

 いけそうな日があったら、連絡してね。


   ---end---

――――――――――――――


 僕は、特に用事も無かったので、”いつでもいいよ”とメールを返した。

 すると、このように返って来た。


受信メール001

         1/3(土)10:57

送信者:Jeshe

添付:×

件名:連絡

――――――――――――――

 わかったわ。 じゃあ、日曜日でどうかしら!


   ---end---

――――――――――――――

 日曜日といえば、明日である。僕は、難なくOKをだすと、日曜日に、オックスフォード駅ということで、予定が決まった。


 翌日。

 オックスフォード駅で待っていると、ジェシーは定刻どおりに現れた。 白いファーのマフラーを巻いて、ピンク色のコートを着ている。

 電車に乗って、一駅したところに、僕たちの向かうスケートリンクがある。

 僕はスケートが初めてだから、どうしようなどと弱音を吐いていたが、ジェシーは「すぐになれるから大丈夫よ」といって、僕を励ましてくれた。


「私だって、まだ二回しかスケートはやったことがないわ。 きっと、大丈夫よ!」


 もしも、僕が、フィギュアスケート選手みたいに、びっくりするほどスケートが上手かったら、ジェシーに格好いいところを見せられるだろうなあ、とも思う。 残念だ。


 電車は、二人乗りの席が向かい合わせになっていて、真中に通路があった。

 僕たちは、電車の接触部分に一番近い座席にすわった。


「ところで、レンディ? 冬休みの宿題はやっている?」


 僕は、そういわれて、急にうんざりした気分になった。

 だが、まだ冬休みが開けるまでは大分あるので、


「これからやるところだよ」


 といって、ごまかしておいた。


「これからって、じゃあ、新聞もまとめて読むの?」


 新聞……?


「また、忘れてたんでしょ! まったく、忘れっぽいんだから……」


 僕は、苦笑いした。


「私はちゃんと、読んでいるのよ。 休み明けには、時事問題のテストがあるんだから。 今日だって、ちゃんと持ってきているわ」


 そういうと、ジェシーはバックの中から新聞を一枚取り出した。


「ていうのは嘘。 本当は、妙な事件が多いから、レンディに見せたくて、持ってきたのよ」


 彼女は、新聞紙を広げて、僕に見せた。

 新聞の大見出し記事に書いてある内容を見て、嫌な予感がした。


「謎の変死事件多発。 新型のウィルスが原因か」


 ジェシーが演技がかった口調でそう言ってのけると、次にその記事の内容を読みはじめた。


「今日未明、ウェスト・ヨークシャー州にて自宅と思われるアパートから女性(26)が変死体で発見された。 検死によると、極度の貧血によるショック死ではないかと疑われる。 これと同じ原因による変死が、十二月三十一日にエディンバラ、カーディフ、そして一月ニ日にロンドンデリーで発生しており、いずれも遺体に目立った損傷などがないことから、検察は新型のウィルスによる感染症ではないかという疑いで捜査している」


 一通り読み終えると、彼女は「どう思う?」といって、僕に話題をふった。


「どう思うって、ウィルスもお正月は休みなんだね」


「そうじゃなくて、貴方ならどう推理するかって、こと」


 僕は、無関心なことに頭を使うのは苦手だ……。


「吸血鬼の仕業じゃない?」


 すると、彼女は眉を顰めて、怒りだした。


「真面目に言ってよ。 まあ、いいわ。 私が見るところに、これには主犯格がいるわね。 同時多発的に起こっている変死事件が偶然のものだとは思えないもの」


「ミステリー小説の読みすぎだよ」と、僕は言った。


「じゃあ、なんだっていうの? 本当に、新型のウィルスが原因だとしたら、私たちだって、いつ死んでもおかしくないのよ」


 脅しか。


「怖いことを言うなよ。 それよりも、主犯格がいるってことは、少なくともそいつに指示されて動いている人間がいるってことだろ? その記事によれば、変死の起きている場所はバラバラで、距離も大分離れている。 こんなに短い期間でたくさん人を殺すような理由があったとしても、考え辛い。 第一、クリスマス休暇中だぜ? それに、死体に目立った損傷が無いってことは……やっぱり」


「吸血鬼の仕業、だとは言わせないわ」


 しかし彼女は、僕の発言には関心しているようだった。

 僕はついでに、


「吸血鬼は、きっとクリスマスにローストチキンを食べそびれたんだよ」


と、ブラックユーモアを付け足したが、彼女はそれを聞かずに


「それにしても、不思議よね。 なんだか、気味が悪いわ」


と、独り言をつぶやいた。


 そうこうしているうちに、僕らはスケート場へとやってきた。

 エントランスで受付をしている人に割引券を二枚渡して、スケート場へ向かおうとしたとき、僕は聞き覚えのある声を聞いた。

 どうやら、僕たちの後ろから、団体客が入ってきたようである。

 振り向くと、そこには、同じクラスのケビン集団がいた!


「おい、レンディじゃねえか?」


 ケビン集団のうちの一人、リップがはやし立てる。


「ケッ。 二人そろってデートかよ」


 そう言ったのは、ケビンだ。

 僕はついカッと来たので、ケビンのことをにらみつけた。


「おいおい、ケンカはよそうぜ?」


 ケビンの後ろにいた背の高いクラスメイトがそう言ったが、ケビンにはその言葉が聞こえていないようだった。

 ケビンは、僕に近寄って、こう言った。


「随分と気楽そうじゃないか。 え、この大変なご時世に」


「どういうことだよ」


 すると、ケビンは声を潜めて


「お前、例の変死事件を知らないのか?」


 といった。

 さっき、彼女と話していたことか?


「知らないとは言わせないぜ。 何しろ、毎日のように新聞に載っているからな。 あれは、俺の見るところに、夢魔の仕業だ!」


「ちょっと待てよ! なんたって、君もそんな……」


 しかし僕だって、吸血鬼の仕業だとしか思えなかったじゃないか。 それと比べてみれば、ケビンの意見の方が、幾分事実性があるのかもしれない。いや、まだ夢魔の存在を認めたワケじゃないけど……。


「俺は焦っている。 だが、今日は仲間づきあいでね。 お前、くれぐれもへまをしでかすなよ? きっと、死ぬぜ」


 彼は、おどけたように恐ろしい言葉をいうので、いつもの冗談のように、僕をビビらせる気なのかと思った。

 しかし、リトルの言っていた「夢魔の親分」のことを思い出すと、なぜだか 妙に納得してしまう。


 ケビンは、僕をどかして、仲間達とさっさとスケートリンクの方へ向かっていった。

 あとからジェシーが「一体何かしら」というように、首を傾げたので、僕も「よくわからないや」と謂うように首をすくめたが、僕にはどういう意味なのかが、わかっていた。


 ケビンの忠告は、後々に重くのしかかってきたのである。




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