第五十一話−新名の儀式−
LENDYCROWZ 2の続編です。
冬休みの最初の日を、まさかベットの中で過ごすことになるだなんて、あの日の僕はちっとも想像していなかった。
きっと、薄着で何時間も外に居たのが、いけなかったんだろう。
おかげで風邪をひいた!
母さんには、「まったく、何をやってるんだか。 どうせ夜遅くまでテレビゲームでもしていたんでしょう?」といわれた。
夜遅くまで起きたことはあっている。 だが、テレビゲームをしていたんじゃない!
魔術師としての大切な任務遂行をしていたんだ!
だから僕は、今こうして風邪を引いてしまったことを悔しくは思わない。 なぜなら、そう。 ケビンから日記を取り返せたから!
彼は一体、何をたくらんで、あんなことをしでかしたんだろう?
いたずらにしては、なんだかやり過ぎているような気がする。
僕も必死だったが、リトルだって、あそこまで必死だった。 彼をあんな風にさせるほど、ケビンは、何かをたくらんでいたのだろうか? 一体、何を……? 考えれば考えるほどに、堂堂巡りだ。
それよりも、このことをジェシーに知らせなくちゃ! 一番、僕のことを心配してくれていたのは、彼女のハズ。
僕は、ジェシーにメールを書こうとした。 しかし、携帯を開いた次の瞬間に、メールが受信された。
一体誰からだろう?
メールアドレスは、リトルビニーのようである。
送信メール001
12/25(日)8:46
送信者:little-vegney@abchotmail.com
添付:×
件名:×
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私はウィル・ウィッシュ伯爵だ。 普段は、伯爵などと名乗らないのだが、今回は改まった事情があるので、気分的に使わせてもらう。 今回は、リトルの”ケイタイデンワ”というものを使って、本文を書かせてもらった。 早速本題に入るが、君は正式な魔術師として、魔法名を得る必要がある。
”魔法名”というものは、新たな世界に入ったとき、――つまり、気味が参入儀礼を受けたついでに、新しい世界での目的を明確にするためのもので、儀式が必要だ。 自分で決めてもらっても構わないが、どうせ君は初心者だろう。 私の家で大体のことは出来るから、何も気を張る必要は無い。
返事を頼む。
---end---
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あの人か。 僕はそう思った。 紫色のコートを着ていた、あの人だ。
それにしても、魔法名とは一体なんのことだろう? 新たな世界での目的を明確にする、と書いてあるがそれが一体、具体的にどんなものであるのかが、さっぱりとわからない。
続いて、男に儀式の日程を聞くと、次のように返してきた。
送信メール001
12/25(日)8:57
送信者:little-vegney@abchotmail.com
添付:×
件名:×
――――――――――――――
明日か、明後日でとうだ?
---end---
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ずいぶん、急いでいるようだ。
解釈すれば、どうせ暇だろうということなのか?
僕は、”あさってなら風邪が治っていると思うから、その日でよろしく”と返した。
***
僕はその後、しばらくベットに寝転がって天井を見つめていた。
ベットの脇に置いてある日記を手に取る。 昨日の騒動で、少しドロが付いていたが、比較的綺麗であった。 僕は中身を確認した。
やはり、わからない言葉だらけだ。 ラテン語なんて、少し勉強したくらいじゃ……いや、ここに書いてある記述があまりにも難しいからなのか、僕にはさっぱり理解できない。 ケビンはすごいや。
でも、あの件については許せない。 どうしてあそこまでして欲しがったのだろう?
結局、僕の考えはそこにたどり着いた。
日記を綴じる。 するとそのとき、裏表紙にかかれていた金色の文字が目に入った。
”FRATER WICKER ZOLC”と書かれている。 そのまま読んだら、”フラター・ウィッカー・ゾルク”だが……?
その全ての言葉において、僕の知っている要素は何も無い。
真新しい言葉である。
父さんの名前とは、まったく関係がないだろう。 父さんの名前は、エリック・クローズだ。
やはり、彼とは何の関連性も無いのだろうか? この日記は、別の誰かが書いたものだとすれば……やはり、リトルが言っていたとおりの、”魔王の日記”なのか? それとも、ケビンの言っていた、”魔術師か何かの日記”という意見の方が正しいのか……?
二つをつなげようとしてみても、なかなかつながらない。 魔王と魔術師は別のものだろう。 大概のRPGでは、魔術師が主人公の仲間になって、魔王を倒す手助けをする。
だが、この世界はRPGじゃない。
”魔”という字が同じだけに、二つとも怪しげな雰囲気を持ち合わせてはいるが、その素顔はわからない。 わかることは、字面での違いのみだ。 そこからさまざまなイメージが湧きあがりもするが、それは所詮個人的な先入観に過ぎない。 だから、どんな人物であるのか、想像がつかない。
ますますわからなくなる。 この日記は、そもそも父さんが書いたのではなく、得体の知れない誰かが書いたものなのだろう。 一体誰が、こんな日記を書いたんだ……?
再び思い悩んでいると、次第に眠くなってきた。
昨日の騒動のせいで、精神的にも身体的にも、困ぱいしている。 意識がぼんやりとしてきた。
眠い……再び寝てしまいそうだ……。
そんな風にまどろんでいる中、母さんの甲高い声がドア越しに聞こえてきた。
「レンディ? ジェシーから電話よ」
こんなに朝早くから電話をくれるとは、なんて律儀な子なんだろう。
ジェシーは昨日の騒動のことについて聞いてきた。 勿論、ケビンたちの方である。
まさか、昨日まで命の危険にさらされていたことなど、彼女は知る由も無い。
「昨日は大変だったでしょう? 大丈夫?」
大丈夫ではないが、僕は格好をつけて
「もちろん、どうってことないよ」
と、返した。 しかし、セキが出る。 それが、ジェシーにバレないように、セキをするときは受話器を顔から話したが、ジェシーにはバレてしまったようだ。
「嘘よ。 レンディっていつもそう。 格好つけたって、仕方ないのに」
相変わらず、テキパキと何でもしゃべる。
遠慮が無い。
ケビンのときだってそうだった。―――あんな奴、最低よ!
僕は、身にしみるその言葉を反芻したあとで、別の話題を切り出した。
「そういえば、僕の持っていた日記は、父さんの日記じゃなかったんだ」
ジェシーは拍子抜けした言葉を言った。
「え? 嘘……それじゃあ、彼方の持っていた日記は、一体誰のものだったの?」
「フラター・ウィッカー・ゾルク……?」
読みに自信が無い。 おどおどと言うと、ジェシーは
「誰よ? フラター……何?」
と言った。
「僕もよくわからないんだ。 とにかく、父さんの日記じゃないことは確かだよ。 リトルも言っていたし」
そもそも、この日記を書いた人が、フラター・ウィッカーゾルクだとも、断定できない。 宛名かもしれない。 有名人のサインだということも有り得る。
それにしてもリトル……。 彼女にリトルのことを話したのは、おそらくそれが二度目だ。
リトルの女装した姿が蘇ったが、ジェシーが気持ち悪いといって、嫌悪しないように、その話題については触れないことにした。(僕は正直なところ、色々な意味ですごいと思ったが)
リトルだって、そのことを公に出されたら変装している意味がなくなってしまうだろう。
その話題を最後に、ジェシーとの電話は途切れた。