「見つけた」
「ヨアヒムさん、見つけました!!」
腰を痛めて動けないヨアヒムさんを真っ先に捕まえる。
許せ、今の私は鬼なのだ。
かくれんぼにおいて動けない人間から捕まるのは自然の流れ。弱肉強食。
「捕まっちゃいました・・・」
「はい、捕まえました」
ふふん、見たか。
隠れている者たちよ、次は・・・・辺りを見渡す。
ふふふ。隠れてる、隠れてる。
だが。
ーーーバレバレだよ、君たち。
かくれんぼで下水まで入ってしこたま怒られた過去を持つ私。
下水は死ぬほど臭くてーーーーさて、そこまでの根性のある子はここにいるのか。
ふふふ。楽しみだ。
そして「見つけた!」を、10連続。
これは楽勝!!
悔しそうな子供たち。
ふふふふふふふ、早く見つけてしまおう。
あと残っているのは、7人。
簡単、簡単。
あと探していないのは・・・・。
ヨアヒムさんによると、かくれんぼをする時には林から出ない範囲というルールがあるらしい。
なら、簡単。
あと探していないのは・・・・そう、あっちだ。
足取りも軽く、私は子供が隠れそうな場所を探していく。
その時、だった。
ガサガサガサ、と木が音を立てる。
あまりに緊張しすぎて音を立ててしまったのだろう。
可愛いなぁ。
よーし、ここは・・・普通に見つけるだけじゃ面白くない。
・・・驚かせてやろう。
ほんの少しの、悪戯心。
彼か、彼女か。
大きな木だ。その裏側にいるのだろう。
そおっと、そおっと。
ぬき足、さし足、忍び足~~~~っと。
自作の歌を心の中で歌いながら、近づいていく。
よぉし、準備はオーケー。
さん、に、いち。はいっ!
「見つけた!」
そこにいたのは、金色の目。
鋭い二本の角、赤い鱗、長い首、大きな口。
トカゲにも似た、何か。
これって・・・・
とりあえず、人間じゃない。
ぱちくり。
それは、大きく一回瞬きをすると。
どぉんっ。後ろに飛んで。
くるんと、一回転。
それは赤ちゃんの「でんぐり返し」に似ていた。
でもそれは、そんな平和な光景じゃなくて、後ろにあった木をなぎ倒し、森を破壊していた。
えーーーーっと?
あまりにも相手が驚きすぎて、自分が驚くのを忘れていた。
相手は小さい鱗のついた両手をびっくり、というように上にあげ。
大きな金色の瞳をぱちくりさせていた。
「大丈夫?」
思わず、聞いてしまった。大丈夫?
メリッ。相手が少し動いただけで、下敷きになっている木が音を立てる。
それはこくん、と頷いた。
「そう・・・」
そうなんだ、そう・・・・。
どしん、それは二本の足を地面につけた。
衝撃がこっちに伝わってくる。
長い首のおかげか、距離が近くなった。
バサッ!
持っている大きな羽が、音を立てる。
意外にもそれは軽そうな音。
「こ、こんにちは?」
近い、近いよ。そして何言ってるんだ、こんにちは。
ぬぅうう、とそれは興味津々。という風にこっちを見ている。
ふぅううう、と相手は息を吐いて。そして口を開けた。
食われる。そう思った。
でも。
「Hello,My name is Nancy! 」
は?
もう一度。
私の名前は、ナンシー。
英語。英語だ。中学英語。
例文だ。
「Hello、I’m Natsumi Ono」
私はそう返す。