「聖女様は、スローライフを送る」 (2)
夜。
「ナツミ、おやすみー」
子どもたちと一緒に眠りにつく。
「おやすみー」
世界観は西洋風なのに、ベットルームなんて洒落たものはなく。
家で一番大きな部屋で雑魚寝状態。夕食を食べたテーブルは壁に立てかけてある。
「僕ナツミのとなりー!」
ぼふっ!!
そう言った男の子の顔面に枕がクリーンヒットした。
おっ、やる?やっちゃう?枕投げは、常に突然始まる!先手必勝!
バッチコーイ!ふんっ!ぼふんぼふん!
あ・・・・、ごめんね、ノリで思いっきり投げちゃった。
ごめんよー、よしよし、と頭を撫でる。
男の子は嬉しそうに私に抱きついてきた。
よしよーし。
よーしよし、を続けていると、男の子はこんな事を言い出した。
「僕、ナツミの隣で眠りたいな!」
おうう、直球!そんな風に言われちゃうと、悪い気はしない。
「え、でも・・・・」
残念ながら、私は寝相がとても良くない。
ゴロゴロ転がるのはデフォルト。気がついたら枕が足元に、なんてザラだし。ざら。
「ナツミの隣は女の子って決まってるのー!だから、今日はあたしたちよ!」
わぁーお!私ってば、人気者!
・・・・・でも、まぶたが重い・・・。
残念ながら、私にはその状況を楽しむ余裕が無い・・・体力的に・・
みんな元気だよね・・・ーーー子どもってたまに体の中に永久機関積んでるんじゃ無いかって思う。無限の体力。・・・羨ましい、眠い・・・
おやすみなさい、みんな。
・・・・・物音がして、目が覚めた。
「・・・・・ーーーーーッ!ーーー!!」
ヨアヒムさんが、悶絶していた。どうやら、タンスの角に足をぶつけてしまったらしい。
ものすごーく、見覚えのあるポーズをしている。
あの格好は、タンスの角に足をぶつけた時の、お約束なのか。
ぴょん、ぴょん。
ガタッ、と側にあった扉を開けて、ヨアヒムさんはどこかへ行ってしまった。
「・・・・・・」
しまったな。すっかり目が覚めてしまった。
年をとると、眠りが浅くてしょうがない。その証拠に周りの子ども達はぐっすりだ。
・・・・にしても。
・・・みんな、フリーダムだな。
・・・・眠り方にも個性がある・・・BGMにはすーすーという寝息。
うわーこれを聞いているだけでも、気持ちが落ち着いてくる。眠たくなるなぁ。
側にいる男の子なんか、すっごく気持ち良さそうに寝てるし。たしか名前はエリックだったっけ。
黄緑色の髪が、月明かりに照らされて綺麗。思わず撫でたくなってしまう。
「・・・・・」
そおっと手を伸ばしてみる。
さらさらっと、小さな子ども特有の手触り。・・・期待を裏切らない感触だ。
さらさら。なでなで。
「ん、むっ・・・」と、身動ぎした。あれ?起こしちゃった・・・?
しばらく固まっていると、すー、という寝息。目は閉じたままだ。
せ、セーフ。
あぶね、あぶね。
エリックから視線をはずして、扉の方に目を向ける。
ヨアヒムさんが私に向かって銃を構えていた。




