「聖女様って、誰ですか?」(三回目)
「とおおおおおりゃいあああ!!」
あれから私は気合と奇声を上げながら、子どもたちと一緒に農作業をしていた。
「ナツミー、変な声ー。」
「ナツミ、下手くそ」
「ナツミン、頑張れー」
「ふぁいと、お姉ちゃん!」
いえーいー。
このクワ的なものを振り上げる作業はマジで大変だ。
どうしてこうなったのか?
理由は簡単。
ヨアヒムさんがギックリ腰になったからだ。
あの後、立ち上がることも困難になったヨアヒムさん。
グロッキー状態だったのを、ナンシーの背にのせ、子供達の元へ。
子供達の保護者はヨアヒムさんしかいない。そうなると、私は罪悪感を感じ、ヨアヒムさんのギックリ腰が良くなるまでここにいる事にした。
バイト先への連絡もオーケーだ。最新式のスマホにも関わらず、何でか電波が悪かったんだよね。
おかげで休む事を伝えるのに、数回かけ直す羽目になった。
しがないフリーターだから、こうゆうのは結構融通がきくんだよね。
でも、それはいくらでも変わりがいるって事で。こうゆう時、社会の中でいくらでも変えのきく歯車的存在の自分を実感する。まぁ、いいけどね!!そうじゃなかったらこんな風に自由に過ごせないだろうし・・・!
くっ、頑張るぞ!!
もう一度、植物に向きなおる。
ふんぬぅうううう。
あ、無理だ、コレ。
「ルナちゃん、教えてー!」
私を助けてーーー!ヘルプミー!
一番優しい言葉を掛けてくれた少女に、声をかける。
自慢じゃないがここ数日間農業を手伝っているにも関わらず、私は作業が上手くならない・・・何でもかんでも力任せで雑談な性格が影響しているらしい。
この農作業を手伝う事だって・・・お恥ずかしながら最初は収穫ではなく、雑草抜きをやっていた。
が。力任せに引っ張るせいか根の部分まで取れず・・・これでいっか。と中途半端に雑草を毟っていたら、雑草抜き班の隊長・エルザに、ど叱られた。
色々教えてもらったのだが・・・最終的にはエルザにため息をつかれ・・・
他の班ーーー収穫班に回された。
収穫ぐらいなら出来るだろう、と・・・・でもごめん。
それも、出来ていないんだ・・・今、自分の不器用さに絶望している。
目の前にある植物は「シメ」というらしい。太陽に向かって垂直に伸びる様。
青々と茂る様。まんま姿はトウモロコシなんだけど・・・
最初見た時、「トウモロコシだー」と言ったら、子ども達に変な顔された。トウモロコシって何って。
いや、トウモロコシは、トウモロコシ。コーンだよっていったら、さらに変な顔された。
うん、この空気耐えきれない・・・。
いや、でも、これ、トウモロコシ、だよね。としみじみ思っていると、ルナちゃんがトウモロコシの中身を見せてくれた。そしたらびっくり。
そこには、レインボーなトウモロコシが………。
黄色一色のはずの中身の代わりに、カラフルなツブツブが並んでいた。
食べてみると、色によって味が違う・・・食感も違う・・・何ていうか、グミっぽい・・・
何だろ、これ。
トウモロコシってこんな品種あったっけ・・・?
うーん?
「聖女様ー」
はっ、私ともあろうものが、油断した!
「ふん!」
聖女様、と呼んだ子どもに、デコピン一発。
「痛いっ!」
何度言ったら分かるのだ。
「私はただのナツミであって、セイジョサマという存在ではないのだよ、ルーカスくん」
子ども達は、私の事を聖女様だという。
何でも、黒目黒髪は聖女の印らしい。ーーーハローウィン設定、ここまで引きずるのか・・・それとも、今流行りのなりきり遊びなのか・・・・。
そんな事を思うぐらい、子ども達は、聖女様って言葉に異様にこだわっている。
それに、私への態度も。子ども達は妙に私を敬っている。敬いすぎ。
「聖女様ー聖女様ー」って。
それは、ヨアヒムさんもだ。
そんな態度を取られると、すっごく、ものすんごーく居心地が悪い。
私は聖女様、と呼ばれるのが嫌いだ。
今だって、一回りも年下の女の子に教えを請うぐらい情けない女なのだ。
わかったかね、少年。
「分かりました、ナツミ様」
がくっ。
おーい、ルーカス少年、君は何にも分かってない!!
ルーカス少年には、私をナツミと呼び捨てにするように、と身体に教え込んだ。
秘儀、くすぐり攻撃で。
これでまたひとり、私を聖女と呼ぶ者はいなくなった・・・ふっははは。
これで、聖女様はいなくなり、ただのナツミ増殖中だ、ははは、あーはははは!
あ。
私今なにやってたっけ?
あーーーー!!いやーー!!
思い出した、収穫だ、収穫。
私が一向に農作業が上手くならないのは、こうゆうところがあるからかもしれない・・・。




