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「ベタだけど、ここからです」

落とし穴に、落ちた。

やばい。ウケる。

ハタチにもなって、落とし穴に落ちるとか。ぷぷっ。

考えた事も無かったよ。自分の間抜け具合が恐ろしい。

ほんの数分前、私は閑静な住宅街にある公園を歩いていた。

そして、落ちた。すとん、と。そりゃもう見事なナイスタイミングで。

状況からしておそらく、近所に住む子供達が遊びで作った落とし穴に落ちたのだろう。

私が落ちた穴。見上げるぐらいの高さがある。頑張って作ったんだろうな。

ーーこれだけの深さを掘るのにどれくらいの日数をかけたんだろう。

微笑ましい。

そして、その穴にハタチ過ぎた女が引っかかった。

すばらしい。製作者もまさかハタチ過ぎた女が引っかかるとは思わなかっただろう・・・ーーー私だけど。

この落とし穴も本望だろう。有効活用してしまった。


さて、出ますか。


いつまでもここにいる訳にはいかない。

這い上がりますか。よいしょっと、おお、登りにくい、でも出られない訳じゃない。


「あ」

手が滑った。


どすん、痛い、ケツ痛い。


うわあ、ドンくさい。我ながら鈍臭すぎる。

いや、そもそも鈍臭くなかったら、こんな穴ぼこに落ちはしない。


ーーーー大前提だよねー、あはは、知ってたー。はぁ………


何度かそれを繰り返す。何度もお尻をうつ。登れない・・・。


もうこりゃ、あれだ、あれ。

恥を忍んで、


「すみませーーーーーん!!誰かーーーーー!!誰かいませんかーーーー!?落とし穴に落ちたんですーーーーー」


うわぁ、自分で言ってて傷つく。

だけど、仕方ない。やるしかない、言うしかない。


ここに一生、いや、一生は言い過ぎた。

夜までいるわけには行かないんだから。


しばらく叫び続けてると、頭上の穴から人の気配がした。

ああ、助かった。

恥を忍んで声を上げたはいいけれど、余りにも反応が帰ってこないから心配になってた。最悪一生見つからずに乾涸びたミイラコースかと思ったから。


これで一安心。

あとはどう恥を忍びつつ、あ。もう恥をかくのは決定か・・・泥だらけ。

問題は、どうお礼を言うか。

シュミレーション。

私「あ、ありがとうございます!」相手「憐みの表情」

ーーーー辛い。辛いな。心が痛い、張り裂けそうだ。


そしてその後は、この汚れた洋服(かっこう)をどうにか人に見られないように自宅まで最短経路で帰るか。頭の中でシュミレーションする。


あの交通量の多い交差点が、ネックだな。

今の状況は・・・スカートまで土で汚れだらけ、もう隠し様も無い。

誤魔化せない。むしろ隠せば隠すだけ変なポーズを取る羽目になる。無駄だ。

ならば、最終手段。顔を隠そう。そうしよう。


にしても。

遅い。見つけたなら、早くここから出してくれ。

家に帰るシュミレーションまでしてしまったじゃないか。取らぬ狸の皮算用。


上の方は賑やかだ。子供の声もする。それも複数。

それなのに、・・・・誰も私を助ける気配がないのはどういう事だ。


穴を子供が覗き込んでいるのは分かる。

ここから逆光になって顔までは見れないが、交互に覗き込まれてる。

私は見世物じゃないぞ・・・・


はっ、もしかしてここで晒し者にして助けないつもりか?


おのれ、ガキ共め。許さん。


いや、待て。・・・冷静になれ、自分。

一番悪いの、自分だよね?

行き場の無い恥と怒りが別の方向へ向かってしまった。危ない、危ない。


でも、本当に遅いな。

もしや助けるつもりは無いのだろうか?


ダメだ、ここはもう一度頑張って自力で脱出を試みよう。

そうだ、他力本願じゃダメだ、そうやって今ここで晒し者になってるんだから。


いち、に、いち、に。

土壁に、足掛け、手を掛け。登っていく。

これはたから見たらどう見えるんだろう。カエルの壁登り的な外見になっているかも。いやきっとそうだ。考えたくも無い。


っていうか、私、登れてる?

やっぱり恥を捨てたのが良かったのか。


ふんぬっ!!

最後の力を振り絞り、私は地上に辿りついた。もう何の力も残って無い。

ああ、太陽の光が眩しい。

気分は雪山遭難から無事に生還した気分。

こんな住宅街ど真ん中にある子供の作った落とし穴でそんな気分が味わえるなんて、なんてちょろいんだ、お手軽だ。なんて軽い女なんだ、自分。


おめでとう、おめでとう、やりました、やり遂げました、私。

達成感、ハンパない。


パチパチパチパチ、心の中で自分に対して盛大な拍手を送る。


うっ。腕が痛い。これが歳を取るということか・・・

服が汚れるのも構わず、私は大の字に寝っころがり空を仰いだ。


空、青いな・・・抜けるような青空。鳥が飛んでいく。

平和だ。


近くに、今まで私を覗き込んでいた子供たちの姿が見えた。

ああ、そんなに怯えないでって・・・・え?


ありえないものを見た気がして、私は振り返った。


子供たちの髪の色と目の色が、カラフルだった。

あり得ない色ばっかりだ。


青、赤、緑、紫・・・・


えええええええ!?

なに、なに、どういう事!?


パニックに陥りそうになり。


いや、冷静になれ、私、クールになるんだ!


子ども達のカラフルな髪や目の色は、カツラとかカラーコンタクトで再現可能だ。

おそらく、仮装。

・・今日ってハローウィンだったけ?

フリーターに曜日感覚を期待するなよ。分からないに決まってるじゃないか!

おおう、なんて頼りにならないもう一人の私。


そんなことより腕痛い。

明日一日筋肉痛に悩まされる事になるだろう。


空、青いな・・・・


子供たちが騒ぐ音が聞こえた。

「先生ぇ〜〜」「センセっ、こっちだよ〜〜!」

それに加えて、明らかに子供じゃない、重い足音。


「!!」


やばい、この格好はヤバイ。

私は身を起こした。


そこにいたのは、子供達に手を引かれた、子供たちのボス。

優しそうな顔をした、若い神父さんだった。


どうして神父だってわかったのかというと、神父さんイメージそのままの格好だったからだ。

白と金糸をふんだんに使われた眩しい白衣に、首から下げられたでっかい十字架。

子供たちに合わせてこんな格好(コスプレ)をしているのだろう。

優しそうな顔をした神父さんは私を見てひどく驚いた顔をした。

・・・歳は私と同じぐらいか。


気まずい、非常に気まずい。


「・・・・こ、こんにちは?」

ああ、多分、私には泥がついてる。

爪の間には泥が挟まってる、服は泥がついてる、泥まみれだ。

泥女だ。


恥ずかしい。

うう、早く家に帰ってお風呂に入りたい。


「黒髪で、黒目・・・」


その男は、目を見開いている。

本当に驚いた顔をして、こっちを見ている。


ああ、そうですよね。

こんな子供の作った落とし穴なんかに落ちる女なんて、天然記念物なみの希少生物ですよね・・・・あはは。


私は立ち上がる。

帰ります、私。


「・・・・聖女様、だ。」


男は何か言ったようだ。

単語は聞こえたけど、意味が理解出来ない。

今、何て言いました?



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