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第四話 異世界での髪事情

髪を隠しているヴェールの所為でしょうか?

お城の廊下を歩いても誰も僕に注目しません。

いえ、しないというよりも、目に入ってすぐ視界に入れない様にしているんだと思います。

ジュリアもそういう効果があるって教えてくれましたし。



「このヴェールを着けている“女性”は顔を知られると問題があるからお忍びだと公言している事になるんですよ」

「お忍びってバレちゃ駄目じゃない?」

「いえ、平民もこのヴェールを着ける事はあるのです。主に畏まった場所に行ったり、ファッション的な意味合いもありますが、大体は髪を保護する為ですね」

「髪を?」

「この国の女性は髪を伸ばすのが風習としてあるんです。我らが聖母さまの髪の長さに綾かっているのです。別に聖母という天職を持っていなくとも、髪を伸ばして元気な子を産むという、願掛けの様なものです。自身の髪に祈りを込めれば、確かにそういう恩恵もありますから。ですから、なるべく髪を傷めない様に着けている場合も多いのです。・・・まあ、そのデザイン等で身分の高さが分かるという側面もありますね」



なるほど。それは確かに大事です。

僕は多分この世界に来てからジュリア以外の女性に会っていませんが、確かにジュリアの髪も長いですね。腰辺りまであります。

ただ単に異世界だから女性は髪が長いものだっていう常識があったんだと思ったんですけど、そういう昔ながらの風習というものだったんですね。



「髪の色を隠すというのも結構重要ですね」

「・・・?髪の色に何か理由があるんですか?」

「そうですね。特に、女性や神職にあるものは銀に近ければ近いほど良いと言われております。けれど男性や政治に近しい者は金に近い方が良いとされていますが、それも特に理由はなく、ただ単に聖母さまの色が銀で、我らが聖王の色が金であるというだけの問題です。これも願掛け程度のものですし、別にその色でなくてはならないという訳ではなく、その髪色で生まれればラッキー。程度の事ですよ」

「ジュリアの様に黒い髪だとどうなの?」



髪色にも色々とあるのだと知って、ふと、疑問に思った事を言っただけなんですが、ジュリアは少し黙ってしまいました。



「ジュリア?」



ああ。何か不味い事でも聞いてしまったんでしょうか?

でも、ジュリアの瞳はザクロと同じ赤い色です。もちろん、少し色味が違いますが、それでも。



「いえ、黒は主に勇者さま方の色というイメージが強いですね。召喚されてくる勇者さまは大体黒髪黒目ですから。ですから、歴代の勇者さまがこの国で子孫を残した証として、黒髪は意外と人気なんですよ」



そう言ったジュリアの表情はいつもの様に柔らかい表情でした。

これ以上ツッコんで妙な事を知るのは良くないですね。

女子と話してばっかりいると、踏み込んで良い所といけない所ぐらい弁えています。

そういえば、ザクロが言っていた、ロンド、・・・ロンドラ・・・?

とりあえず難しい名前の人です。その人が皆を訓練していると言う訓練場に向かっている今現在、なるべく人通りの少ない道を選んでいるらしく、少し遠回りをしているらしいです。

時間通りに着くでしょうか?



「大丈夫です。白雪さま。訓練中に顔を見せると言ってあるだけですので、時間指定がある訳ではないんです。むしろ、少し訓練が一段落してから声をかけた方が良いと思いますよ」

「うん。分かった」



その後、少しだけ歩いたら何人かの人たちの叫び声?唸り声?何て言うんでしょうか、その、体躯会計の部室の近くを通った時に聞こえて来る声をもっと多くした様な、そんな声や何かがぶつかり合う音が聞こえてきました。

訓練場が近いという事なんでしょうか。

そのまま声のする方に歩いて行けば、確かにここは訓練場だと分かる、そんな場所が見えました。

熱気が凄い。温度とかそういう話ではなくて、人の感情と言うのでしょうか、そういう闘志の様な、そんな感情が溢れて熱となって伝わってきます。

その熱気によろめいて、思わずジュリアにしがみ付けば、ジュリアはちゃんと支えてくれました。



「大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫。すごいね。僕にはきっと無理だよ」

「白雪さまには別の戦い方があります」



戦う?僕がでしょうか?

そういえば、僕は一応勇者として召喚されたんですよね。

だったら、確かに戦わなければいけないのかもしれません。

それは、少し怖いなぁって思います。

だって、僕にはこんな風に熱を持っている人と対峙するなんて、きっと無理です。

何て言うか、そういう風に僕は出来ていない様な、そんな気がします。

あ、でも僕のもう一つの天職とか、聖法とかを使えば、戦えるのかもしれません。

それでも、こうして熱をぶつけ合う行為はきっと僕には無理でしょうけれど。

僕と彼らには明確な温度差があるんです。

それは、別に僕が彼らを見下しているとか、そういう事ではなくて、ただ単に、そういう風に敵として、倒すべき相手として見れないという事です。

何と言うか、不思議と傷付ける気にはなれないんですよね。



「白雪さま。あそこに白雪さまのご学友の、雷公さまがおられますよ」

「あ、本当だ」



ジュリアが指差す方向に雷公くんがいました。

いつもの様に眠そうな表情ですが、感覚を尖らせているのが分かります。

使っているのは木で出来た短剣ですが、近くには長剣や大剣。色々な種類の剣がありました。

いくつか使い分けて使っているみたいです。

どれが自分に合っているのか知る為なのかもしれませんが、あの雷公くんがああやって汗を流している姿に驚きが隠せません。

青春するのが面倒くさい。と言う訳ではないですが、どちらかと言うと、省エネを心掛けている様な、やりたくない事はやらない。とかそういうタイプだったんですが。

雷公くんは武器や戦い方が違う人たち数人と戦っています。

もちろん全員と戦っている訳ではありませんが、連続して戦っている姿は、その眠そうな表情も相まって結構余裕そうというか、何と言うか。



「・・・格好いい」



思わずそんな声が漏れてしまうのも仕方ない様な気もするんです。

そんな僕の声にジュリアはくすり。と笑いました。



「ええ。確かにとても格好良いですね。ですが、そんな事聖王の前で言ってしまえば、拗ねてしまいますよ」

「そうだね。気を付ける」



雷公くんを見つめていたら、少し離れた場所で紫織ちゃんや蒼衣ちゃんが長い棒や杖を持って一対一で戦っていました。

あれ?女子組は聖法を使うタイプの天職だったと思ったんですが。

他の場所も見てみると、紅火ちゃんが木で出来たナイフを使って訓練をしています。

また別の場所では碧李ちゃんがトンファーに似た物を使っていました。

・・・ん、んんん?

何か、変。というか、違和感を感じます。

そして、他にも時雨くんが木でできた短剣を使っていたり、天晴くんが槍を振り回していたり、雲雀くんが十何種類もの武器を一度に扱っている所を見て、余計に違和感を感じました。

時雨くん以外皆、数日前まで普通のインドア派の学生だったのに、どうしてこうもちゃんと訓練とは言え戦える様になっているんでしょうか。

時雨くんだって、弓道部なんですから、そんな剣とか使える訳ない、ですよね・・・?

僕が不思議がっていると、雷公くんと訓練をしていた赤い髪の日に焼けた肌を持つ、確か僕の髪を退かす為に僕を拘束した人ですよね?多分。が、僕達に気付きました。



「一旦止まれ!」



その人の声に訓練場の人たちは一斉に動きを止めました。

武器がぶつかり合う音が止まり、視線が一斉に僕達、というか僕に集まっています。

あ、駄目です。ヴェールを着けているから多少はマシですけど、ここまで注目されるのは、少し嫌です。



「よくぞお越しくださいました。白雪さま。今更ながら、このロンドライグスのご無礼を謝罪させて頂きます。誠に申し訳ありませんでした」

「怪我とかもしなかったし、大丈夫ですよ」

「白雪さまにお怪我がなくて良かったです。・・・ああ、そうだ。勇者さま方もこちらへ。久しぶりに積もる話もあるでしょう」



僕の言葉に安心した様に笑うロンドライグスさんを見て、誠実な人なんだと分かりました。

見た目通り、筋をしっかり通すというか、そんな感じです。

ロンドライグスさんに呼ばれて、皆がわらわらと集まって来ました。

そんなに会っていない訳ではありませんが、学校などでほぼ毎日顔を合わせていると、少し会えなかっただけでかなり久しぶりの様な気になります。



「白雪ちゃーん。ひさしぶりー!」

「心配したのよ」

「ちゃんとご飯食べてる?」

「白雪ちゃん。会いたかったよ!」



そう言って家庭科部の皆が順番に抱き着いてきました。

沢山動いて汗をかいてる筈なのに、どこか甘い匂いがするのはやっぱり女の子だからでしょうね。

今日着ている服は多少汚しても良いってジュリアも言っていましたから、僕も遠慮なく皆と抱き合います。



「白雪-。僕も抱き着くですー」

「いいよ。雲雀くん」

「わーい」



雲雀くんが持っていた武器を僕に抱き着く前にそこら辺に放り投げました。

一応僕に怪我をさせない為の配慮、の様なものだとは思うのですが、それでもちょっと乱暴だなって思いました。



「んー?白雪少し柔らかくなりました?」

「え、太ったかな?」

「いいえー、分かりませんが、そう感じました」



雲雀くんは意外と感覚でものを言うので、僕の中で何かが変化している事は間違いないでしょう。

自分の感覚は大事にしろ。と雲雀くんはいつも言っていますから。

他にも雷公くんも抱き着いて来て、時雨くんと天晴くんは僕の頭を撫でたりしてくれました。

ヴェール越しでも、気遣ってくれている事が分かって、嬉しかったです。



「そういえば、どうして皆色々な武器を使ってるの?時雨くんなんて、弓道部なのに」

「ああ、もちろん弓の練習もしているが、俺たちの大半が聖法を使って戦うタイプだからな。近接が甘くなってはいかんという事らしいぞ」

「僕は結構色々とトリッキーな感じで戦えますから、いっぱい武器を隠し持っておくんです」

「他にも聖法の訓練もしてるんだよ!」

「紫織ちゃんなんて医療系の勉強もしてるんだから!」

「うわぁ、皆すごい!」



自分がただ聖母として隔離?いえ、ジュリアと話をしたりしていただけの間、皆はこれだけ頑張って来たんですね。

・・・あれ?そういえば、召喚されてからそんなに日数が経っていない様な気がします。

そこの所はどうなんでしょうか。



「白雪さま。白雪さまは一度お眠りになられると数日間寝入ったままなのです。記憶整理の為でしょうから、段々すぐに起きられる様になると思います」



僕の疑問を隣にいたジュリアが耳打ちして教えてくれました。

それにしても、え?僕結構長い間寝てたんですか?

・・・色々と、言いたい事はありますが、それなら納得出来ます。

僕が思っているよりも長い時間が経っていたと言うのなら、皆の成長速度が異様な程早かったのも頷けますね。



「勇者さま方はとても優秀であられます。天職のお蔭か、それとも元来持ち合わせていた才能か。その両方かは分かりませんが、この国の知識や、聖法の使い方、戦い方など、どんどん吸収してくれるのです。雷公さまはかなり資質があったのでしょう。天職の他にもいくつか職業を得ていますし、それらの中にはもう既にランクアップした職業も存在いたします。天職の方も、もう少しすればランクアップ出来るのですよ。他には、雲雀さまもかなり聖法と織り交ぜての戦い方を習得されております。今は聖法は禁止として戦っておりますが、蒼衣さまや紅火さまなどもとてもお強くなられました」



ロンドライグスさんの話に耳を傾けながら、勇者組以外にいる訓練場の人たちから少し遠巻きに視線が向けられている事実を改めて認識します。

やっぱり、このヴェールが原因なんでしょうね。

普通はこういうのを着けた人はこういう場所には来ないんでしょう。

よく分かりませんが。

ひそひそと話しをしているので、普通は聞こえない筈ですが、何故だか少しだけ聞き取れます。



「おい、あれが」

「ああ。そうだろう。聖王さまの」

「寵姫。だろ?」

「あれ程までのヴェールを与えられているんだから、とても美しいのだろうな」

「聖王さまの隣に並んでも、見劣りなどしないだろうな」

「ロンがあれ程畏まっているだなんて、そういう事だろう?」

「法力量も多いんだろうな」

「本来勇者として召喚された者が聖王のお目に留まったという事か」

「どれほど美しく、お強いのだろうな」



ひそひそひそひそ。

何と言うか、こっちに来てから初めて敬語を使われていない様な、そんな気がします。

それでも微妙に尊敬語を使われているので、やはり勇者というのはある程度の地位にあるんでしょうね。

それにしても、聖母という事は明かされていないらしいですね。

召喚された勇者の一人がザクロに見初められた。そういう事なんでしょうね。

まあ、本来は僕を取り戻すための聖戦なのですから、あまり士気を下げる様な事を言ったら駄目なんでしょうね。

何と言うか、設定としてはかなり萌えますね。素敵です。

でも、それなら紫織ちゃんとかを選んでくれるともっと、良いと思うんですが、そこら辺は特に言わなくても良いでしょう。



「白雪さま。これから勇者さま方の訓練を見ていて下さいませ。怪我をしたりしますが、紫織さまがいれば死にはしなければ治ります。聖法もある程度までなら使える様にしておきますので、お召し物が汚れてしまうかもしれませんが、あちらの安全な場所で観戦していてください」



その言葉に従ってジュリアと共に言われた場所に座っていたら、碧李ちゃんと蒼衣ちゃんが戦うと決まったみたいです。

二人共聖法を使って戦うので、かなり気になります。

碧李ちゃんの樹木導師ツリーソーサラーとかは何となくどういう力なのかは分かりやすいのですが、蒼衣ちゃんの衣演舞師ローブダンサーというのはどういうものなのかかなり気になります。

名前だけ聞くと難しいです。



「じゃあ、いくよー」

「行きますよ」



その言葉と共に、碧李ちゃんの体から植物が生えてきました。

青々とした葉や蔓が身体に巻き付いて、徐々に訓練場も碧李ちゃんの操る植物が侵食してきました。

その姿は、まるで植物の精霊の様な、そんな神々しさを感じられるもので、何と言うか、とても綺麗です。

そして、蒼衣ちゃんの方はゆっくりとまるで着物の様な、ゆったりと輝いた服が蒼衣ちゃんの身体を包みます。

海の様に青いその服は蒼衣ちゃんの力を増大させている様な、そんな気がしました。

雅。というべき姿に、周りからため息が聞こえてきました。

碧李ちゃんも綺麗ですが、精霊の様な碧李ちゃんと異国風な蒼衣ちゃんがそこに同時に現れたからこそ、周りもその力の凄さを感じるよりもその美しさにため息が漏れたのでしょう。

僕もその美しさにため息を吐きたくなります。

けれど、何と言うか、まだまだ発展途上の様な、そんな風にしか見えません。

まだまだ上がある。

まだまだ、強く、美しく成れる。

そうとしか思えなかった僕は周りよりは少し覚めた目で二人の戦いを見ていました。



特に何を言うべきではないのでしょうが、二人の戦いはとても美しく、花吹雪の中、神前で巫女が舞っている様な、そんな印象を持てました。

勝負の結果としては、碧李ちゃんの勝ちでしたが、蒼衣ちゃんの方は少しレベルが上がったらしく、もう少ししたらランクアップ出来ると喜んでいました。



「対人での戦いの方がレベルが上がりやすいのか?」



するりと、自然に言葉が出てきました。



「え?・・・あ、そうですね。やはりどういう風にどこを責めれば良いとか、そういう事を実戦で掴めば、レベルも上がり易いと思います。戦いの場で、命のやりとりだけではなく、いかに相手を殺さないか、というのも立派な経験ですので」



隣にいるジュリアは妾の言葉にキチンと答えてくれました。

何となく、実感がこもっている様な気がしますが、ジュリアは戦いを経験した事があるんでしょうか?



「今後どのように成長するか、楽しみであるな」

「ええ。そうですね。白雪さま」



ジュリアからの視線に気付いて、ジュリアの方を見ると、懐かしい様な、悲しい様な、嬉しい様な、複雑な表情をしていました。



「ん?どうしたの、ジュリア」



問いかけると、ジュリアははっと、我に返った様な顔をしてなんでもないと笑いました。

何でもないのなら、良いんですが。



「いいえ。それよりも、次は雷公さまと時雨さまの試合の様ですよ」



ジュリアの言葉に、次の試合にわくわくしました。

今日は、結構楽しい日を過ごせています。

勇者組の能力については、色々と考えております。

もうちょっと詳しく出せる時を自分でも心待ちにしています。

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