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第二話 侍女さんの裏の顔

「今日から白雪さまの侍女となります、ジュリアニーと申します。ジュリアとお呼びくださいませ」



この世界に来てから初めて見た、黒髪の女性が微笑みながらそう言いました。

ザクロとは少し違う赤い瞳がとても綺麗だと思います。

丈の長いスカートの、全体的に上品な印象を持たせるメイド服?がとっても素敵だと思います。

やっぱりミニスカも可愛いですけど、こういうクラシカルタイプの方がそれっぽいと思います。

頭に付けている面積の広めな布、何でしょうか、ヘッドドレス?も素敵です。可愛いです。家庭科部の皆でコスプレ衣装作りたくなってきました。

そういえば、僕昨日ザクロと一緒にお風呂に入ってから、一度も部屋から出ていないんですが、僕って今現在この聖国でどういう立場でいるんでしょうか?

一応、前世の記憶?っていうものがあるし、聖王であるザクロには母上と呼ばれています。

何だか不安定な場所に立っている様な、そんな気分になります。



「母上。何かしたい事があれば何でもジュリアに言うと良いですよ。部屋の外に出るのも、ジュリアが傍に居れば問題ありませんから。ああ、もし誰かに声をかけられた場合は、ジュリアに対応して貰ってください」

「えっと、よろしく。ジュリア」

「はい。よろしくお願いします。白雪さま」



ふんわりと微笑まれて、僕の脳内で王様×メイドの身分差の恋が思い浮かびました。

多分、月刊誌で数か月なら連載できるんじゃないかってぐらいを一瞬で妄想しました。

まあ、何と言いますか。そういう王道なのも嫌いじゃない。っていうか、むしろ大好きです。



「とりあえず、先に母上の髪を結ってくれないか?長すぎて床にこすれて毛先が傷んでしまいそうなんだ」

「分かりました。聖王。さあ、白雪さま。そこにお座りになってください。今結ってしまいますからね」



そう言われて鏡の前に座るんですが、今更ながらに思うんですけど、この部屋、なんだか鳥籠みたいに思えます。

デザインが、というか、巨大な鳥籠をそのまま部屋の中に作った様な、そんな感じです。

窓も上の方にしかありませんし、何と言うか、軽く閉じ込められている気がしないでもないです。

あ、でもジュリアがいるのなら外に出ても良いって言われましたから、ただ単にファンタジー的なデザインって事なんですよね。

うん。きっとそうです。

というか、そういう事にしておきたいのですが、まあ、深く考えるのはやめましょう。



「白雪さまの髪は月の光を集めたかのように美しいですね」

「ああ。母上の髪は私の自慢なんだ。受け継げなかった事が残念でならない」

「ザクロの髪も綺麗だと思うよ?」

「母上にそう言って貰えるのなら、この髪も好きになれます」



何となく、ザクロとジュリアの距離が近い様な気がします。考え過ぎでしょうか?

もしかしたら、僕の妄想が本当なのかも?と思ったりもしましたが、昨日のザクロを思い出すと、そういうのはなさそうな気になります。

昨日のザクロは甘えん坊でした。

僕の髪を撫でながら、擦り寄ってきたり、匂いを嗅いで来たり。

お風呂から上がって、王様としての仕事をする時も僕の傍から離れなかった、というか、僕を膝の上に乗せて執務を行っていました。

何故だか文字が読めたので、僕はなるべく見ない様にしていたんですけど、後ろからザクロが疲れる度に「母上補給です」って言って首とかに顔を埋められていたので、まあ、ザクロはまだ恋とかそういうのはないでしょうね。

甘えん坊過ぎますし、結婚とかそういうのは多分好きじゃないって思うんですよね。

あ、そういえば千年生きているんでしたね。

じゃあ、もう一周回ってマザコンになったんでしょうか?

・・・あれ?なんでそんなにジュリアとザクロの仲を否定したがるんでしょうか?

可愛い僕のザクロが誰かを好きになって、しかもそれが僕的にとっても萌えるんだったら文句の言いようもない、筈・・・?

よく分かりません。



髪を結ってくれているジュリアは少し、というかかなり大変そうです。

ザクロより低いけれど、女性よりは背の高い僕が立った状態で床に這いそうな、そんな長さの髪です。

結うとなると大変という言葉を通り過ぎて良そうです。



「あの、ジュリア」

「はい。なんでしょう。白雪さま」

「長すぎるから、切りたいんだけど」



そう言った途端、ザクロとジュリアが大きな声で僕の発言を止めた。



「「駄目です!」」



「母上はその髪の素晴らしさをご自覚ください。そのどんな宝石よりも美しい輝きを見せる髪を切るだなんて、私は絶対に許しません」

「そんな勿体無い事、私は絶対にしませんからね!」

「え、でも」

「でもではありません」

「・・・はい」



何だかもの凄い勢いで止められてしまいました。

確かにまたここまで伸ばすのには苦労するでしょうけど、それでも今は結構邪魔だと思うんですけどね。



「母上。母上は聖国の聖母。つまりこの世界の母そのものなのです。私が記憶している母上の姿も、今の様に髪が長く、そしてその姿は聖国の民に時に絵画、時に口伝、時に偶像として根強く知れ渡っているのです。いずれ母上はこの国の母として民の前へ現れるのですから、伝説と変わらぬ姿であられるのが一番かと思います」



え、そんな風に僕、じゃない。妾の事伝わっているんですか?

知らない人が僕の事知っているって、案外怖いです。



そんな事を考えていたら、ジュリアが僕の髪を結う作業が終わったらしく、大きく三つ編みにされている髪が鏡に写っていました。



「これなら白雪さまも動きやすいでしょう」

「わ、ありがとう。ジュリア」

「いいえ。白雪さまの美しい髪に触れられて、私としても楽しかったです」



三つ編みにされているけれど、結構しっかりと纏められているらしく、ある程度までなら激しく動いても問題がなさそうです。



「ザクロ、似合う、かな?」



いえ、もちろんジュリアがやってくれたんですから変な所がある訳はありませんが、それでも、その、男性目線と言うのも気になります。

一応僕も男ですが、異世界ではどういう感じの印象を持たれるのかと、そういう感じで。

まあ、本音を言いますと、乙男の僕ではこういうのは可愛いとしか思えない、というだけです。



「妖精の様に可憐でお美しいです。母上」

「・・・えっと、それは」



似合ってる、って解釈で良いんでしょうか?

目を輝かせながらうっとりとした表情を向けられているので、変ではないんでしょうけれど、何と言うか、何か違う。そう思いました。



「ああ、そういえば母上。母上のご学友たちは今ウォルヴィルークとロンドライグス、ジェノモンドに聖法や剣術、国の歴史等を教わっている最中なのですが、母上はご学友たちに会いたいですか?」

「あ、会いたい!」



まるで僕がどういう反応をするのか知る為に聞いている様な、そんな印象を覚える問いかけ方でしたが、僕は期待を込めてザクロの問いに答えました。

それに満足したのか、ザクロはとても嬉しそうに微笑み、ジュリアに指示を出しました。



「母上がお起きになり、準備が整い次第、母上を勇者たちと会せてくれ。ロンドライグスの剣術の稽古中なら問題はないだろう。ロンドライグスも母上に謝罪をしたいと言っていた」

「分かりました。聖王。それなら、白雪さまのお召し物も考えなくてはなりませんね。今着ていらっしゃるドレスも麗しく、素敵ですが、稽古場では汚れてしまいます。それに、あまり肌が露出した姿を殿方たちに見せるのは、目に毒でしょう」

「ああ。服の方はお前に任せる。・・・母上。私はそろそろ王としての職務に戻らなくてはなりません。出来るだけ毎日時間は取りますが、その、暫くはジュリアしか話し相手がいませんが、」

「大丈夫。我慢できるよ。ザクロもお仕事頑張って」



仕事なんてしたくない。そう顔に書いてあるのはすぐに分かりました。

だから昨日ザクロがしてくれたように頭を撫でようとしたんですけど、微妙に届かず、背伸びをする事になりました。

背伸びをして頭を撫でれば、ザクロも機嫌が治ったらしく、頬が緩んでいるのが分かります。



「ありがとうございます。母上。元気が出ました。・・・ああ、後もう一つだけ母上がしてくれたら仕事に励めそうな気がします」

「なに?何でも言って」



僕が何かするだけでザクロが頑張れるのなら、安いものです。

そう思ってじっとザクロの方を見ていると、ザクロが僕の顎を掴み、顔をゆっくりと近付けてきました。

・・・?えっと、何でしょうか。顔近いです。

甘えん坊なザクロの事ですから、頬擦りでもしてくるのかなぁーと思いました。

しかもザクロの赤い瞳から目が離せなかったから僕はザクロが何をするのかじっと見ているしか出来ませんでしたが、口元に柔らかい感触があって、僕はようやくザクロが何をしたかったのか分かりました。

唇に付くか付かないかギリギリの位置に口付けられて、僕の顔は急激に熱くなりました。

え、だって、これって、後ちょっとで、唇が・・・!



「ああ。やはり母上は愛らしい」



さり気なくザクロが舌を出して唇に掠りました。

う、うわあああ!

このイケメンは何をするんでしょうか。

もう思わず固まるしかありません。

何も出来ませんからね。もう。

固まっている僕に笑いかけ、ザクロはジュリアに後は任せたと言い、名残惜しそうに何度も振り返りながら部屋から出て行きました。

そういう所は可愛いのに、どうしてこんな事をするんでしょうか。

本当に意味の分からない、息子です。

・・・そうです。息子です。

僕は全く覚えていないと言うか、まだ思い出せてはいませんが、僕とザクロは母子。母と息子なんです。

なら、これは普通のスキンシップ、なんでしょうか?

うん・・・?よく分からなくなりました。



「・・・ジュリア」

「はい。なんでしょうか。白雪さま」

「ザクロは、まだ甘えたがりな時期なのかな?それとも、これって別の、なにか」

「聖王は千年も待たれたのですから、これぐらい普通ですよ。白雪さま」

「う、ん?」



そう、なんでしょうか。

何だか、外堀を埋められたような、周りから洗脳されている様な、そんな気分になるのですが、気のせい、なのかもしれません。

そうです。きっと気のせいです。

僕は一応ちょっと過度なスキンシップと思っておく事にしました。

そして、とりあえずジュリアと色々と話す事にしました。

これから僕と一緒にいてくれる人なんですから、よく知っておくのが良いと思うんです。



「ジュリア。ジュリアは好きな物とかある?」

「そうですね、私は動物が好きですね。特にうさぎとか猫とか」

「あ、じゃあ、僕お裁縫とか得意だから今度一緒にぬいぐるみとか作ってみようよ」

「もちろん良いですよ。白雪さまがたくさん作れるように沢山材料を集めておきますから」

「ありがとう。そうだ。ジュリアは本とか読む?」

「はい。恋愛小説など好きですね」

「あ、僕も好きだよ。ドキドキするよね」

「白雪さまとはお話が合いそうで良かったです。私だけでは退屈になってしまうかもしれませんからね」

「そんな事ないよ。ジュリアの好きな事だけでも、きっと楽しいよ」

「私よりも白雪さまの好きな事をしましょう」



なんだか、ジュリアとは良いお友達になれそうな気がします。





それは、白雪がジュリアニーと会う少し前の話。

眠りから覚めた白雪がザクロと共に湯浴みをし、ザクロが執務をし終わり、眠そうな白雪をベッドに寝かしつけた後の話。

ザクロは白雪のいる部屋から出て、普段自分が執務を行う部屋に入った。



「アニー」

「既にいるぜ。ご主人様」



ゆったりとした、けれど動きやすさを重視した、黒ずくめの服を着た、黒髪赤目のアニーと呼ばれた女が返事をした。

その容姿は完全に女のものであるが、その口調は少しばかり乱暴なもので、暗闇でアニーが喋っているのを見れば、少し声の高い男だと誰であっても思うだろう。



「その話し方はすぐに直せ。母上が怯える」

「ここにはいないんだから良いじゃねえか。そうだ。これ先に言わなきゃな。聖母召喚おめでとさん。これでようやく愛しの御母堂に甘えられるじゃねーか。ケケケ」

「・・・お前は、」

「あたしは?」



静かな怒りを含んだザクロを茶化すようなアニーの言葉にザクロは一度深呼吸をして怒りを鎮める。



「いや、なんでもない。私は今機嫌が良いんだ。お前程度の存在であの幸福な記憶が消える訳がない」

「そうかい。そうかい。あたしは別にアンタの機嫌が良かろうが悪かろうがどっちでも良いのさ。楽しめればそれで良い。それより、あの聖母様が記憶を封印されているとは言えあそこまでとはなぁ」

「母上を愚弄するか」

「まさか。そんな馬鹿な事は言わねぇさ。ただ、一応当時の事を知る者としては、あそこまで人ってのは変わるもんかと思うだけだぜ。部屋での様子を少しばかり見せさせて貰ったが、まあ、あそこまで純粋というか、無垢というか。あんなお子様をあたしのご主人様がどう言いくるめるのかは見ものだってだけだぜ」



けらけらと笑うアニーにザクロは問いかけた。



「当時の母上を知る者など、もう既に殆どこの世にはおらん。・・・が、アニー。お前は一応母上と交流があった魔人と混じり合った存在だ。劣化した聖母の腹の中とはいえ、魔人と融合し転生したお前なら、母上を守りきる事も可能だろう」

「もちろん。まあ、侍女の真似ごとなんて少しは気が重いけどな。そういうお堅い事は苦手だぜ。あたしゃ」

「母上を守るためだ。・・・ああ、そうだ。間違っても、その“角”は見られない様にしろ。母上だけならまだしも、城の者にでも見つかったら魔帝國からのスパイとして切り伏せる事になる」

「うげー。そうなる前に何とかしろよ。ご主人様よー。つーかあたしはギリギリ獣人で通ると思うんだけどねえ」

「私が推薦したお前が半魔であるとバレたなら、偶然悪魔に憑かれたとでも言っておいてやる。そうすれば、まあ浄化されるだけで終わるだろう」

「半魔に聖法での浄化はキツいぜぇ」



アニーが愚痴る様に不満を呟いているのを見、ザクロは口元に笑みを浮かべた。



「例え本物でなくとも、母上と縁があるお前を置く事で、母上の記憶の封印が解かれる可能性が高まる。私は立場上そこまで共にいられる訳でもないし。何より、魔神がいつ召喚されるかの調査もある」

「ホンットマザコンだな。あたしのご主人様は」

「・・・アニー。母上に何か危害を加える者がおれば、すぐに切り伏せて構わん。但し、母上の記憶の目覚めの片鱗があれば、母上の身の安全だけを配慮すれば、何かをしろとは言わん。力を解放した母上に守るという心遣いは無意味だ。母上こそが、守る為におられる存在なのだから」

「んー、それって鬼子母神に関係ある事か?」

「お前は知らなくて良い。ただ、母上に気に入られればそれで良い。お前の仕事は母上を余計な者から守り、そして守られる事だ」

「難しい注文だぜ」



アニーは自分の頭をわしゃわしゃと撫でた。

この国では珍しい黒髪から見える漆黒の角は、確かに一部の魔人の特徴と一致した。

アニーは魔人ではない。半魔なのだ。

アニーと言う一人の少女はその珍しい天職から魔人に囚われ、魔帝國に囚われた聖母の腹の中で転生をさせられかけた。

しかし、その聖母の能力が低かったのか、それとも劣悪な環境にてそこまで調子が良くなかったのかは分からないが、先に聖母の腹にいた千年前から生きていたという女の魔人と融合したのだ。

その結果、断片的ながらもその魔人の記憶と能力を有し、その力を使い、魔帝國を脱出した。

アニーと呼ばれた少女の記憶だけを頼りに、聖国へと戻ったのだが、アニーが生きていた時より既に50年の月日が経っていた。

それに絶望し、聖法と魔法を使い貧民街で義賊の様な真似ごとをしていたらある日聖王として聖国をお忍びで視察していたザクロに拾われたのだ。

それは、魔人としての記憶と、その魔人を知っていたザクロの複雑な思惑によっての事だったけれど、アニーは居場所を得た。

ザクロにとって一番大切な母の記憶。

それを共有できるアニーはザクロにとっても貴重な存在だったのだ。

それから、半魔としての能力を買い、ザクロはアニーをここぞと言う場面で使って来た。



「まあ、頑張るぜ。ご主人様」



千年振りの再会は一つではないのだ。



「ジュリアニーと申します。ジュリアとお呼びください」



久しぶり。という一言は言えないけれど、それでも、かつての名を呼ばれるだけで良いのだと、ジュリアは、アニーは思ったのだ。

なんかちょっと設定っぽいものが書けた様な気がします。

ジュリアという魔人とアニーという少女が融合したジュリアニーと言う半魔。

とりあえず、結構重要な位置にいる様な、そんな子です。

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