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プロローグ 異世界と繋がる聖母

聖王が白雪を連れて行った後、紅火たちは神職たちの話を、この世界と自分たちの世界の関係をもう一度詳しく聞く事になった。



「曖昧な話しかしなかった事を謝らせて頂きます。けれど、勇者さま方には我々の世界の事をゆっくりと知っていて頂きたかったのです。

本来なら、1年ほどの時間をかけて。ゆっくりと」

「そんなに時間をかけて、聖戦に間に合うの?」

「我々が勇者さまを召喚しなくてはいけない様に、魔人たちも、魔神を召喚せねばなりません。

その為にはまだまだ時間はあります」

「?魔神を倒す為に俺達が呼ばれたんじゃなかったの?」

「ええ。ですが、魔神が聖母、つまり聖王の母君の魂を封印し、勇者さま方の世界へ縛り付けていたのです。

ですから、本来なら魔神が、あちら側、魔帝國で召喚された時、我々全ての母であられる白雪さまも魔神と共に魔人たちに召喚される筈だったのですが、我々が勇者にと選んだ貴方方との縁が強かった事が幸いしたのでしょう。聖母は我々の許に帰ってこられた。

魔人たちは魔神に力を与えられた、そうですね。貴方方の世界で言う所の悪魔に近い存在です。

人々を堕落に導き、その魂を得て自分たちの魔力に変える。

それが魔法の仕組みです。

効果などは我々の聖法とはあまり大差はありませんが、それでも根本が違う。

我等は人々の祈りを糧に聖法を使うのです。

ですから、この聖戦で勝たねば、人々の祈りは失われてしまいます。

我等の世界ではからくりはあまり発達しておりません。聖法を使い、我々は病を治し、畑を耕し、美しい建造物を建てた。

もちろん、学問を研究する者もおりますが、それでもそういう者は大体が優れた聖導師なのです」

「ンン?何か私たちの世界の事を少なからず知っているみたいな、そんな感じがするよ?」



紫織の言葉に神職たちは頷いた。



「はい。魔帝國の者達だけが貴方方の世界にいる訳ではありません。

そもそも聖母というのは転生の為にある様な、そんな天職ですが、聖母の腹で転生を待つ者は見知らぬ世界で人として一生を終えているのです。

我等の世界と貴方方の世界の時間が平等に流れているとは言えませんが、そこでの経験。いえ。そこの空気。食事。自然。様々なものと触れ合う事で己の中の信仰心、と言うべきでしょうか。心の在り方を見直す事が出来るのです。

生まれ変わる。と言ってもそこまで劇的に変わる訳ではありません。

聖法は祈りの力で使用される。つまり、自分の中に全てのものへの感謝を抱く事が出来れば、自ずと眠っていた力は解放されます。

・・・少し説教臭かったですね。すみません。私はいつか聖母の腹で育まれ、自分の中の信仰心を見直してみたいと、そう思っているのです。

我々聖国の住人はいつだって祈るという尊い行為を忘れぬよう、教えられています。

しかし、周りから促されるのではなく、自分から悟れるという事も、大切な道の一つなのではないかと思うのです」



神職の言葉は、今まで紅火たちの力を讃えていた、そんな現実味のないものではなかった。

神職は確かに、生きた人なのだと。

この世界で生きて、自分が生きた国と自分の信じるものを守りたいという人なのだと、改めて紅火たちに思わせた。



「あの、貴方たちのお名前、聞いてなかったんですけど」

「・・・あ、そうですね。私はウォルヴィルーク・ライトと申します。

ライトと言うのは神職に就いた者全員の姓ですので、どうぞウォルとお呼びください」



ウォルと名乗った神職の男は水色の髪を恥ずかしそうに自分で撫でながら、紅火たちに笑いかけた。

白雪の髪を強引に退かせた男ではあるけれど、少しは好感が持てる。そう思えた。

優男、と言うべき容貌をしているけれど、それだけではないのだと、何故か分かる。



「あ、ちなみにもう一人の、白雪さまを固定していたのがロンドライグスです。ロンと呼んであげてください。

体格が良いのは神職に就くまで剣士をしていたからです。

雷公さまには直接剣を教える事になるかもしれません。

そして、聖王を呼びに行ったのがジェノモンド。聖法と聖国の成り立ちの研究を主にしていますので、聖法の使い方を教える事になるかもしれません」

「・・・ロンドライグス・ライトと申します。本来なら白雪さまご本人に先に謝らなければなりませんが、今は貴方方に先に謝罪を申し上げます。大切なご友人に無理強いをした上に泣かせてしまい、申し訳ありませんでした」



そこまで露骨ではないが、確かに筋肉がバランスよく付いているロンは確かに何か武道をしていたと言われると納得出来た。

赤い、燃える様な髪を持つロンは見た目通り筋を通すタイプらしく、潔く謝っているのは好感が持てる上に、日に焼けた肌が神職とは思えない。



「ジェノモンド・ライトです。ジェノとお呼びください。・・・私が教えられる事ならば何でもお教えいたします。学び舎の教師の様なものだとお考えください」



ウォルと似た、けれどウォルの様に手入れをしていない、というより手入れなど些末な事だと思っているのだろう。水色の髪と無精ひげ。

そんなジェノは確かに研究者らしいと言えばらしい。



ウォル。ロン。ジェノの三人が三人とも、まるで乙女ゲームの中の攻略キャラの様な整った容姿をしている。

家庭科部の紅火たちはそう思った。

白雪がいじめられる。あの時はそう思っていたけれど、こうして見ると良い絡みだった様な。



「そうでした、聖母についての話の途中でしたね。聖母という天職はそれを持っている者が少なくて、研究するのに一苦労なのですが、それでも聖王は聖母から、転生以外の方法で生まれてきた数少ないお方です。母君から聖母という天職についていくつか話を聞いていたらしく、けれどやはり本人ではない上に、母君は聖母としてもかなり上位の存在だったらしく、今現在いる聖母とはどうも違う様でして」

「そういえば、白雪ちゃんは鬼子母神っていう天職も持っていたよね?」

「ああ。それなんです。実は天職を複数持てる者は何故だか魔法を使える様になるらしく、聖王が仰るには、千年前には魔法と聖法に違いなどなかったというのです。

その事から、昔は天職を複数持つ者が多かったのではないかという推測が成り立つ訳なのですが、聖母が子を産み、転生させる天職であるに対し、鬼子母神は子を守る戦の母であるとのことで、それにもいくつか条件があるらしいのですが、やはりまだ分からない事だらけでして」

「ああ。だからこの聖戦で勝つのが大事なんですね。聖国を作り上げた聖母を復活させて当時の話を聞くって事ですね」

「雲雀さまは鋭い指摘をなさる」

「こう見えて僕一番年上ですからねー」

「おお、そうなのですか。それでは私と一緒ですね。私も実はこの三人の中で一番年上なのです」



そう言うウォルに雲雀以外の全員が目を見開いた。

雲雀はなんとなく自分の経験から照らし合わせてそうではないのかと思っていたのだ。



「お揃いですねー」

「はい」



見た目明らかに最年少コンビが実は年長。

見た目ほのぼのしている割に何か恐ろしい気配がある様な気がしてならなかった。



「ウォルはああ見えてスパルタなのです」

「そ、そうなんだ」

「ええ。信仰心が人一倍強いからか、努力をするのが好きと言うか、それが当たり前だと思っているので、他人にも同じレベルを求めるのです。・・・まあ、あの性格ですから嫌いな奴なんていませんが」

「雲雀くんもそうだよ。雲雀くんも人一倍努力家で、周りも同じくらい努力してるって思ってる。そう言いう人なのに、好かれてる人って、多分人が見ている所以外でも凄く努力してるんだよね」

「・・・碧李さまは人を見る目がおありの様だ」





神職三人と勇者八人が仲良くなった頃、聖王は母が死んだ千年前から聖法で清潔な状態に保っているまるで鳥籠を模した様な、そんな美しい部屋に白雪を抱き上げ、運んだ。



「ああ。ここに母上が入ってくれるとは。私は嬉しいですよ」



眠る白雪を天蓋付きの豪華なベッドに寝かせ、その長い髪に指を滑らせた。



「私を息子と呼んでくれた。私を愛していると、そう言ってくれた。私を何よりの宝だと、そう、言ってくれた」



白雪が着ている学ランをゆっくりと焦らすように脱がし、一枚一枚脱がせた服を聖法を使わず、愛おしげに畳みながら部屋の中にあるラベンダーの様な薄い紫色の箪笥に仕舞った。

そしてその際、肩や背中が露わとなる様な構造の真っ白いドレスを選んだ。

下着まで変えようとしている所に、白雪が花車白雪という位置高校生である事実を完全に消し去ろうとしていた。

それは確かに過度な執着とも言える行動だった。



「ああ。そのしなやかな肢体も、処女雪の様な穢したくなるような白い肌も。そして何より、私を育んでくれたその薄い腹。何と愛おしい」



何も着ていない白雪の身体を確かめる様に触れ、箪笥から取り出したドレスを白雪に着せた。

白雪の銀に変色した長い髪がベッドに広がっている様子を聖王、ザクロは見て自分の髪色が母に似なかった事を恨んだ。

自分の金糸の様な髪を、ザクロと名前の由来になった様な赤い瞳も、母は褒めてくれた。

けれど、それは父親に似ているからだと、ザクロは知っていた。

父に似ている自分を、自分の腹で育んだ自分を、愛しているのだと分かっているが、それでも、息子としてしか愛されない事実が物足りなかった。

それ以上の感情を与えて欲しい。

息子ではなく、一人の男として見て欲しい。

一度失ってしまったからだろうか。

この世で一番嫌いな男に奪われたからだろうか。

ザクロは母がこの世で一番大切だとそう思っていた。

千年生き続け、千年間母の思い出だけでこの母が作った聖国を維持していた。

けれど、いずれ、いずれ母の胎内に戻るのだとそう思っていたからこの終わりのない生を生きて来れた。

また母の腹の中で育まれる事が、母が生きた世界を見れるのだと思えば、耐えられた。

だから聖戦で勝とうと、勇者を召喚した。

そこに母が紛れていたのはとてつもない幸運だけれど、それでも母の傍にはあの男が、魔神がいる。

ザクロがいない場で母と魔神がどうなっていたのか全く分からなかった。

そして、今ここに母がいたとしても自分がいなかった時に母が育んだ縁を思うと母の瞳に映る全てを殺してしまいたくなる。

立派なエディプスコンプレックスだ。

遥か昔、母が生きていた頃、遠い世界とその身の内側が繋がっていた母本人から聞いた単語だ。

それはじぶんにこそ正しい単語であるし、何より、最終的には同じ事をするのだ。

ザクロは自分が転生する間、代わりの王がいる事を理解している。

それこそ、この国を作った張本人である母が女王として君臨すれば良いのだろうけれど、母を他人の目に触れさせたくない。

他人を母の目に触れさせたくない。

だから、母を手に入れる過程を踏みながら、それを正当化出来る“自分の子を母に産んでもらう”という方法。

母は聖母であり鬼子母神でもある。

子を守るための、子を育むための存在。

そういう母性を生まれながらに宿した存在なのだ。

だから自分のこの願いもきっと聞き届けてくれる。

母という優秀な胎盤から子を成したいのだと、そう言えば何も問題はない筈だ。

・・・けれど、



「今母上には記憶がない。あの憎っき魔神によって封印されている」



この世界に来た事から封印は綻び始めているだろう。

けれど、まだ完全には封印は解かれていない。

もしかしたら母は自分を拒むかもしれない。ザクロの脳裏にそんな考えがよぎった。

その時、自分はどうなるのだろうか。

何よりも大切で愛おしい、母に拒絶されたのなら、自分という存在はそのまま存在出来ているのだろうか。

もしかしたら、母を傷付けてでも自分の傍にいさせる事になるかもしれない。

傷付けたい訳ではないのだ。

泣かせたい訳ではないのだ。

けれど、離れていた時が長すぎた。

優しく、甘やかして、自分無しではいられない様にしたい。

ああ、けれど自分を律しきれない。

ザクロはこのかつて母だった花車白雪という存在とまだ直接話してはいない。

けれど、それでも、母であるから。

母なのだから。

守りたい。愛したい。やはり、自分のものにしたい。

今のうちなら、自分の母だった頃の記憶がない今なら、自分だけを愛してくれる様になるかもしれない。

ザクロの中にそんな考えが浮かんだ。



「必ず、貴女をお守りします。母上。ですから、もういなくならないでください。あんな男の事を、私に重ねないでください。私は、貴女の、特別に、一番の特別になりたいのです。母上」



眠る白雪の額に口付け、その桜色の小ぶりの唇に触れた。



白銀の聖母(シルヴェリー・マリア)



それは、もうこの世界ではザクロと魔神しか知らない聖母の名前だった。

前半の微妙過ぎる説明はどうしても筆が乗りませんでした。

けれど、後半の聖王のヤンデレっぷりが微妙に表せたのが良かったです。

そうだ、舞台設定考えるよりもヤンデレ書く方が楽しい。

次回からちゃんと主人公視点で、聖王のヤンデレっぷりを書きます!

頑張ります!

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