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第十話 聖母の3人前クッキング

「僕は、エドゥアルドのお嫁さんじゃないよ」

「あら、じゃあ恋人かしら?」

「だから違うって。義姉さん。話を聞いてくれよ」



 僕が城から脱走する理由の一つでもあったロッテさんは思ったよりも手強い相手の様で、義理の弟であるエドゥアルドに恋の予感?があるという事実にすっかり舞い上がっているみたいです。

 気持ちは、気持ちは分かるんです。

 僕だって弟がいきなり女の子を家に連れて帰ったら、邪推しますし、未来の義妹(いもうと)だなんて、絶対に可愛がります。

 でも、僕は男ですし、何よりエドゥアルドとは初対面な上にちょっとした勢いと流れで僕を連れ去ってくれただけの関係、な訳ですし。

 ……こうして言葉にすると、何となく僕がとてつもなく軽い女みたいな感じがしますね。

 いえ、僕は正真正銘男なんですが、そこら辺はあまり深く考えてはいけないと思うんですよね。

 ああ、でも、ちゃんと性別を伝えた方が、誤解も解けるのではないでしょうか?



「だから俺と白雪は初対面なんだって。ただ、流れって言うか、成り行きでだな」

「やだ、お互い一目惚れで駆け落ちなんて素敵!」

「……どうしても駆け落ちにしたいんだな。義姉さんは」



 ああ、エドゥアルドが落ち込んでいます。

 ここで僕が男だなんて言ったら増々落ち込むんじゃないでしょうか?

 僕だって男ですから、城から連れ去った女が実は男だったなんて事になったら泣きますよ。

 言うべきか、言わないでどうにかするべきか。そこが一番大切な所だったりします。

 ああ、けれど、どうにかロッテさんの誤解を解こうとしているエドゥアルドがとても可哀想です。僕なんかとそういう仲だと疑われた上に、僕は実は男な訳で……。

 よし、言おう。後々言ってもダメージが大きくなるだけです。

 今なら傷は浅いです。



「あの、ロッテさん。エドゥアルド」

「あら、なぁに?白雪ちゃん」

「僕、実は」



 言います。言っちゃいます。

 やっぱり同じ男として、どのくらいダメージがあるかぐらい分かってますから!

 ああ、でも女装趣味があると思われるのもちょっと……。

 そんな事を考えていたら結構溜めが長くなってしまいましたが、今、ちゃんと言います!

 男のプライドが何ですか!そんなもの、ドレス着ている時点で遥か遠くに吹っ飛ばしているんですよ。気にする事じゃないんです。



 実は男となんです。と、そう言おうとした時、くるるるるる~。と間の抜けた音が聞こえてきました。

 え?と思い、どこからその音が聞こえて来たのか探ろうとしたら、ロッテさんが恥ずかしそうに片手を上げました。



「ごめんなさい。妊娠中ってどうしてもお腹が空いちゃって」



 頬を赤く染めながらそう言うロッテさんに、僕とエドゥアルドは顔を見合わせて笑いました。



「ちょっと早いけど、昼にするか。義姉さんは、座ってて良いからな」

「あ、僕手伝うよ」

「アンタが?」



 久しぶりに料理がしたくてそう言ったら、エドゥアルドは驚いた様な表情で僕の事を見つめてきました。

 失礼な。これでも家庭科部に所属しているんですよ?料理は結構得意なんです。



「僕、料理得意だよ」

「……そうか。じゃあ、何か作ってみてくれ。材料はあるもの使って良いから」



 少し試すような物言いに感じましたが、とりあえずこれは腕の見せ所だと思い、拳を握り、頑張ります!と声高々に宣言してみました。

 ちょっと恥ずかしいですが、久しぶりの料理に、結構テンションが上がってたみたいです。



 聖母という、この世界と僕達のいた世界と繋がっている存在がいるので、そこまで食文化とかの違いはありませんが、やっぱり文明の発達の仕方が違うと、少しばかり味付けが変わる様です。

 食材も、どこか違いますしね。

 トマトを潰して、味付けをして煮込みます。味付けの詳細は教えられません。門外不出ですから。

 どう見てもトマトにしか見えないけれど、実はトマトじゃなかったりとかするんでしょうか?

 匂いは普通にトマトですから、大丈夫、だと思います。

 玉ねぎと一緒に鶏肉を炒めます。塩コショウで味付けをして、その後他の野菜も投入します。

 人参、グリーンピースにトウモロコシです。ミックスベジタブル派なんです。僕。

 あ、でもどうしてこの季節にグリーンピースとトウモロコシが一緒にあるんでしょうか?

 温室栽培?謎です。異世界謎すぎます。

 何故かお米があったので、お釜で炊いてから、先に作ったケチャップもどきを先に炒めてからお米を投入します。

 ケチャップを先に入れると、酸味が飛んで甘くなるんですよ。やっぱり甘い方が美味しいですよね。 

 一度チキンライスを別のお皿に乗せてから、溶き卵をフライパンに均等な厚さになる様に気をつけます。

 ちなみに卵には牛乳を入れると美味しいんですよ。

 その後半熟・・・はちょっと衛生面で不安なのでしっかり焼いてからチキンライスを投入します。

 そのまま、破けない様に気を付けながら、綺麗な形でお皿に移せば出来上がりです。



「花車家印のオムライスの完成です」



 その言葉にロッテさんとエドゥアルドが目を輝かせていました。

 この世界にもオムライスがあるのでしょうか?

 ちなみに、どうして花車家印かと言いますと、ケチャップの作り方は僕の曾祖母考案のレシピたからだそうです。トマトの味付けの方法と混ぜ方が門外不出だと、僕に作り方を教えてくれた祖母が言っていました。

 これがまた、甘くてとっても美味しいんですよ。市販のケチャップなんて目じゃないですね。



「……美味いな」

「本当。美味しい。白雪ちゃんいつでもエドゥのお嫁に来れるわね」



 美味しいと言われて悪い気はしませんが、お嫁さんという認識は変わらないんですね。

 僕も席に着いて久しぶりに自分が作った食事を食べてみました。……ちゃんと美味しいです。

 異世界だから何か食材的な意味で味が変わるんじゃないかなと思っていましたけど、特に変わらない感じで、安心する味のままです。

 花車家のお袋の味はオムライス、何でしょうか?



「これ面白いわね。オムレツの中にライスを入れるなんて。面白い考えね。ね?エドゥ」

「……ああ」



 ロッテさんは美味しそうに食べていますが、エドゥアルドはただ黙々と食べているだけです。口に会わなかったんでしょうか?

 確かに甘口な感じですから、男の人にはいまいちパンチが足りないのかもしれません。

 弟は美味しいと言ってくれるんですが、中学生と大人の男性を比べるのもおかしな話です。

 万人受けする料理というのは難しいですね。

 精進せねば。的な事を思っていたら、ロッテさんがコソッと耳打ちをしてくれました。



「大丈夫よ。エドゥこう見えて子供舌だから、こういう甘めの味付けは大好きなの。安心してね」

「……なら、良かったです」



 微妙にニュアンスが違うんでしょうけれど、僕の考えている事が杞憂であると教えてくれたロッテさんはとても優しいです。

 こういう人ならお姉さんに欲しい……ッハ!だめです。今、危険な思考に向かっていました。

 危うくエドゥアルドのお嫁さんにされる所でした。

 子供舌なイケメン可愛い。とかこっそり思っていた罰が当たったんですね。

 ……あれ?そう言えば、僕の天職聖母ですから、一応子供は産める、んですよね……?えっと、よく分からないです。

 そう言えば、僕の天職って色々と謎ですよね。元々詳しい事は解明されていないって言われてましたけれど、よくよく考えたら、僕、どうやってザクロの事産み直せばいいんでしょうか?

 聖戦が終わって、多分、魔神を倒すんですよね?倒した後、ザクロを再度僕の腹に戻して、新たな命として産む、んですよね?

 ……あれ?そうなると、ザクロが転生?している間って聖国誰が統治するんでしょう?

 そういえば、実は僕、この国の事そんなに知らないんですよね。

 ザクロを産む間、聖母である僕が王様?あれ?女王?になれって言われたらどうすればいいんでしょうか?

 それとも、たった数日の事なんでしょうか?

 今更ですが、僕ってどうやって子供産むんでしょうね?天職でって言われても、謎すぎますよ。

 16年間少女漫画に胸キュンしながら、女子とばっかり話していて、男子の輪に入った事なんて殆どないけれど、一応男として生きてきた僕です。

 実はかなり怖い事をさせられるのではないかと、今更ながらに気が付きました。



 ああ、やっぱり深く考えるのは良くないですね。最終的にはなる様になります。

 僕が妾と同化すれば、もしかしたら体は女の人のものになるかもしれません。……それもそれで怖いですが。

 ええ。僕はただ単に少女漫画的シュチュレーションに胸キュンするだけの一般男子なんです。

 怖いものは怖いんですよ。

 怖い事は深く考えずに、そのまま、ええ。そのまま。

 ……ああ。食欲が失せました。元々僕はもうそんなに食事を摂らなくても生きていける体になっているんですからね。

 言っていてまた微妙な気分になりました。ブルーです。夏の空よりブルーです。



「おい、食べないのか」

「え……ああ、食べたいなら、あげるよ?」

「もらう」



 僕の箸(いえ、実際使っているのはスプーンですが)が止まっているのを見て、エドゥアルドは物欲しそうに僕のお皿に乗った、半分も減ってないオムライスを見つめていました。

 その表情に、今まで考えていた事がどうでも良くなり、僕のオムライスを分けてあげました。

 あ、ある筈のない尻尾を振っている様子が見えます。

 流石イケメン。尻尾まで幻覚として見せてくるとは。やりますね。

 


「もう、エドゥったら。白雪ちゃんがお腹空いて倒れちゃったらどうするの?」

「大丈夫だよ。僕、普段からそんなに食べないし」

「あら、それは駄目よ。だからそんなに細いのね。……まあ、白雪ちゃんは法力量が多いみたいだから、そんなにお腹も空かないのかしら?エミリアも、そうだったものね」

「エミリア?」



 聞き返すと、ロッテさんは悲しそうな顔で笑いました。

 聞いてはいけない事、だったんでしょうか?



「私の夫よ。数か月前にね、病気で亡くなったの。聖法を使うのがとても得意でね、招き竜画家っていう天職を持っていて、とても優しい良い人だったの」

「ごめんなさい」

「大丈夫よ。私にはこの子もいるし、エドゥも子供の頃と同じ様に私の傍に居てくれるから。エミリアがいなくても、私は生きていけるの。むしろ、エドゥの方が心配よ。私の事に付きっきりで、最近ようやくお城の方で騎士の仕事に就いたのに、それが寧ろ、私に縛り付けてしまっている気がする」

「……俺が好きでしてる事だ。それに、聖国の民として生まれたんんだ。聖戦では騎士として戦う事は誉れある事だ」

「そういう意味じゃないのよ。だから、エドゥが貴方を連れて来てくれて良かったって思えたのよ。白雪ちゃん。エドゥがようやく、自分の為に生きようと思えたんだって。お城からお姫様を攫って来るなんて、最高よね」



 僕は、エドゥアルドとロッテさんの関係を詳しくは知りません。

 それでも、義理の姉弟だと聞いていたから、両親の再婚とか、そういう話だと思っていました。

 だから、エドゥアルドにお兄さんがいて、亡くなっていただなんて、考えもしませんでした。

 ロッテさんのお腹が大きいという事実もあったから、考えようと思えば考えられた事だったのに、僕は、だめだめですね。

 けれど、僕を城から連れ去って来た事を、あんなにも喜んでいたのは、そういう理由があったんですね。



「あの、僕はエドゥのお嫁さんにはなれません。僕は」

「良いのよ。白雪ちゃんはお姫様だものね。色々と立場と言うものがあるんでしょう。だからね、この家にいる間位は、楽しい思いをさせてあげたいなって私が勝手に思っているだけなのよ」

「でも、迷惑じゃ」

「迷惑だったら、連れてこない。城から連れ去った後、適当に信頼のできる者に保護を頼むぐらいはする。それをしなかったのは、俺がお前を家に連れてきたいと思ったからだ。自分を連れて逃げろだなんて言うお姫様の我が儘を、叶えたいと思ったからだ」

「……エドゥアルド」

「エドゥ」

「え?」

「エドゥで良い。仕事中でもないのに毎回エドゥアルドと呼ばれるのは肩がこる」



 そう言った後、照れているのか目を合わそうとしないで僕が作ったオムライスを口に入れ続ける“エドゥ”に僕は思わず笑ってしまいました。



「ありがとう。エドゥ」

「ああ」

「白雪ちゃんとエドゥが仲良くなって良かったわ。……そういえば、白雪ちゃんはどうしてお城から逃げ出してきたの?言えないのなら、別に良いけれど、何かお城では出来ない事をしたいとかだったら、私たち助けになれるわよ?」



 ロッテさんのその言葉に、僕は話せる事と話せない事を頭の中で整理して、とりあえず一番の目的を離しました。



「実は、その、聖母と銀の薔薇の舞台が見たくて、見に行きたいってお願いしたら、駄目って言われて、だから」



 口にすると実に子供っぽい事ですが、それ以外にも色々と我慢できない事もあったんです。

 けれど、一番の理由はこれなんです。



「あら、じゃあ一緒に見に行きましょうよ」

「え?」

「こう見えて、私その舞台の女優をしてたから、チケットの融通とか利くのよ?ちなみに今は産休中」

「うん。知ってる。本に挟まってたチラシに、ロッテさんが書いてあって、僕に聖母と銀の薔薇を教えてくれた人が、ロッテさんの名前とか教えてくれて。僕、ロッテさんの方が聖母役に合ってるって思ったよ」

「ありがとう。白雪ちゃん。でも、ハンナも結構演技派なのよ?1週間後の公演、一緒に見に行きましょうね」

「義姉さんは体調次第だけどな」

「そうね。予定日間近だものね。でも、この分だったら大丈夫よ」

「頼むから、無茶な事しないでくれよ。義姉さん」

「もう、大丈夫だったら」



 ロッテさんとエドゥがそう言い合いながら笑い合っているのを見て、僕はどうしてだか嬉しくなりました。

 なんとなく、二人がそうしていると、安心と言うものが間にある様な、そうしているのが当たり前の様な、そんな気分になります。



 食事が終われば、僕が作ったからと、エドゥが食器を洗ってくれました。

 本当は手伝いたかったんですけど、ロッテさんに捕まって、着せ替え人形にされていました。

 まあ、確かに真っ白なドレスのままというのも考え物ですが。

 それでも、女性物の服を違和感なく着こなせるようになった自分に少しながら思う所があります。

 ええ。少しですよ?本当に少し。



「きゃあ。白雪ちゃん何着ても似合うわね!次はこっちを着てみて!」

「え?それは」

「これ私が舞台で初めて主役になった時に着た衣装なの!白雪ちゃん背が高いからちょっと足出ちゃうけど、大丈夫よね?」



 僕が着たら明らかにミニスカートになる衣装を手に迫られながらも、一応一宿一飯、どころではない恩がありますから、そんなに強く拒絶できず、結果、僕は青い、騎士の様な服を着せられました。

 あ、ちなみにちゃんと別室で着替えていますよ!女性の前で裸になるだなんて、絶対にむりですから!

 僕の侍女であるジュリアだって、一応着替えの時は部屋を出て行ってくれるんですから!

 どこかコスプレっぽい感じが出てしまうのは仕方がないでしょうけれど、何と言いますか、何でこれ騎士みたいなのにミニスカートなんでしょうか?



「これはね、戦う美少女騎士ナイトリリーの衣装でね、5人の美少女騎士が世界を守るために戦うって言うストーリーで」



 なんかどこかで聞いた事がある様な簡易設定ですが、一応詳細は僕の記憶の中のものとは違うらしく、何となく安心しました。

 あ、でも美少女騎士の中に滅びた王国のお姫様が混じっていたというくだりを聞いた時はビクッとしましたね。

 まあ、最終的には美少女騎士たちが戦う女性をイメージした話だったので、大丈夫、ですよね?

 ちなみにお姫様だった美少女騎士はナイトローズらしいです。ナイトリリーはクール系。ロッテさんとは違うタイプの役どころだったらしく、役作りに苦労したらしいです。



「赤ちゃんを産んだら、他の美少女騎士の子達と再結成しようかしら?団長も、子育てが一段落したらまた戻って来て良いって言ってくれてるし。生まれてきた子に私の女優魂を見せるのも良いわね」



 とっても楽しそうに僕のコスプレ姿を見つめているロッテさんに僕も嬉しくなってきましたが、僕がいましているのはコスプレの上に女装です。

 自分を客観視してはいけない。と言い聞かせて、次はどんな服を着せられるのかと考えていたら、ロッテさんの笑い声が急に途絶えました。



「ロッテさん?どうしたの?」

「……白雪ちゃん」

「は、はい!」



 切羽詰った様な声に、僕はただ事ではないと気が付きました。

 ロッテさんは妊婦さんです。何かあったら、大事です。

 どうすれば良いのか狼狽えていたら、ロッテさんが強張った顔で一言言いました。



「生まれそう。……破水しちゃった」

「っ!え、エドゥ!お医者さん!お医者さん呼んで!」



 僕は台所にいるエドゥに叫ぶように呼びかけました。

「・」を「…」に変えたり、段落を付けてみたりしました。

変だったり、読み辛かったのなら、直します。

でも、こういう風に書くべきだ的な事をエッセイとかで見るので、試してみました。

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