固有魔法
「や、久しぶり」
俺の隣のリリアが片手を上げて挨拶をする。するとそれに気づいた女性がこちらを向いた。
「リリアじゃない! 久しぶり! 元気にしてた?」
「ええ、ジュリアは?」
「そりゃね、特に変わったことも無し。相変わらず独身よ」
こっちの世界でも独身とか気にするのか。案外似てるとこ多いな、あっちの世界と。
「それで? そっちの男は?」
溢れんばかりの巨乳を、惜しげも無く利用した服装。なんということでしょう、まるで海溝の如き谷間が見る者を深い煩悩へと誘ってゆきます。
……おっと、危うく巨乳にダイブするところだった。
「俺はマキって言います。なんかいろいろあって困っていたところをリリアに助けられてここまでご同伴させてもらいました」
「へぇ、リリアが……。私はジュリア=フレース、長いからジュリアで構わないわ」
「了解、よろしくジュリア」
「ええ、よろしく。……ところで、なんかいろいろあったって言ってたけど、一体何があったの? 良ければ聞かせてくれないかしら」
聞かれたのは俺だったが、俺が質問に答える前に、リリアが口を開いた。
「それがね、マキは記憶喪失なの」
「記憶喪失?」
ジュリアが聞き返す。
「うん。私がそこの峠を越えている時に、なんかふらふらと歩く不思議な人がいたから声をかけたの。そうしたらその人が記憶喪失だって言うから取り敢えずここまで連れてきの」
「なるほどねぇ……で、記憶喪失っていうのはどのくらいのものなの?」
「それが、自分の名前以外のことはほとんどわからないみたいで、この世界の事も」
「それなら、取り敢えず固有魔法を呼び起こしてみたらどう?」
「固有魔法……そうか! なるほど!」
何かに気づいた様子のリリア。一体何なんだ?
「ああ、ごめんなさいマキ、あなたには説明しないとね」
「ああ、なんだか分からんが頼む」
「私達魔法使いは、主に二種類の魔法を使えるの。万人魔法と固有魔法ね。万人魔法は誰にでも扱える、魔法というよりは魔術ね。それに対して固有魔法っていうのは個人所有の魔法なの。人がそれぞれ持つ、オンリーワンの魔法」
「ほうほう」
俺は興味津々の様子で頷く。それを見てジュリアが続ける。
「それでね、固有魔法を使えるようにするには、儀式を行ってそれを呼び出す必要があるの。固有魔法は人の潜在的な――根源的な部分に存在する魔法でね、固有魔法に目覚めた人の中には、前世の記憶が蘇った――なんて人もいるの」
「つまり俺がそれを呼び出せば、記憶が戻るかもしれないってことか」
まあ実際記憶喪失なわけではないのだが。
「そうかもしれない。だからねマキ、これからその儀式をやってみないかなって思うんだけど……どう?」
嘘をついていることに、若干の罪悪感を覚えながらも俺は好奇心を抑えきれず、これに承諾することにした。
「いいぜ、試してみよう」
「やったっ! 一度でいいからこれ、やってみたかったのよねぇ」
ジュリアも少しばかり興奮しているのか、腰掛けていた椅子から勢い良く立ち上がり、何やら物置みたいな部屋へと消えていった。
立ち上がった瞬間のジュリアのおっぱい、ブルンと揺れていました。俺の心もブルっと揺れました。全く……素晴らしい乳だ。
「ねえマキ、なんかやらしいこと考えてない?」
「っ! いえいえ滅相もない!」
リリア、中々鋭いな……。
とそんなことを考えていると、ジュリアが物置っぽい部屋から、何やら道具を抱えて戻ってきた。
「よいしょっと」
その道具を机に置き、またもやその豊満な胸を揺らすジュリア。それをみて俺もまた鼻の下を伸ばす。
「ッ!」
ジロッ、そんな擬音がよく似合うほど強く、俺はリリアに睨まれた。
「ごめんなさい……」
「……?」
何が起きているのかがわからない様子でジュリアが俺とリリアを交互に見る。
「ジュリア、なんでもないから続けて?」
とリリアが言う。それを聞いてジュリアは俺に向き直って説明を始めた。
「さあマキ、これからあなたに固有魔法呼び出しの儀式を行ってもらうわよ。と言ってもやることは唯一つ、この水晶球に手を触るだけよ。簡単でしょ?」
水晶に手を触れるだけか……儀式という割には単純なものでちょっと拍子抜けだったが、俺にはどんな魔法が使えるのかが気になったので、さっさと手を触れることにした。
「よし……じゃあいくぞ――」
俺は一息飲んで、水晶に触った。
すると、水晶はその内から眩い光を出して俺の魔法を……なんて事は無かった。
俺が触れても水晶には何の変化も起こらず、ただ先ほどと同じように佇んでいるだけだ。
「嘘……」
そうして俺が失敗したかと焦っていると、ジュリアが俺以上に激しく動揺していた。
「何で……? たとえどんな弱い固有魔法でも反応を示すのに、無反応なんて……ありえないっ!」
おいおい……マジかよ? つまりそれって、違う世界から来た俺には魔法の才能なんか欠片もないってことか?
「そりゃないぜ……」
俺がため息混じりにそうつぶやくと、これまで黙っていたリリアが口を挟んできた。
「……もしかして、マキの魔法はこんなものじゃ計測できないほど凄い魔法っていうことじゃないの?」
「は?」
「へ?」
俺とジュリアが同時に間抜けな声を出す。なるほど、その発想は無かった。
「そうね……そうかもしれない。ごめんなさいマキ、私じゃお役に立てなくて」
「いや、いいんだ。そもそも見ず知らずの俺にここまでしてもらって礼を言わないとな、ありがとう」
俺は二人に頭を下げた。
「いいのよ、だってあなたはリリアが心を許した初めての男性だもの」
……? どういうことだ?
「ああ、気にしないで。こっちの話だから。で、あなたはこれからどうするの?」
「ああ、取り敢えず俺にできることをして記憶の回復に励むよ。ここまで付き合ってくれてありがとうな、リリア」
「ううん、いいのいいの。取り敢えず今日はもう遅いから、私が宿を紹介するわ」
「何から何まで……済まないな」
「いいのよ、あたしが好きでやっていることだから。さ、行こうか?」
「じゃあなジュリア、あんたにも世話になった」
「どう致しまして。あなたの記憶が無事戻ることを祈っているわ」
俺はジュリアの豊満な胸に別れを告げ、リリアに紹介された宿で部屋を取った。――無論カネはリリアに貰った。俺もこれから自分の食い扶持くらいは稼がないとな。と、そんなことを考えつつ、俺は少し硬めのベッドで眠りについた。




