暇を持て余した神の遊び
「っらっしゃいぁせぇー」
入店した客に、やる気のない挨拶をする俺。それを無言で聞き流し、客の学生は店の角の雑誌コーナーへと歩いって行った。
またかよと思ったが、田舎での暇つぶしといったらしょうがない気もする。
外はすでに暗く、深夜シフトの俺は雑誌を立ち読みする客を尻目に、椅子に腰掛けてくつろいでいた。
暇だ。
ならば何故深夜にバイトのシフトを入れたと言われそうだが、俺がシフトを入れているのは深夜だけではない。俺は朝九時ごろからここにいる。
朝から晩までコンビニでバイトとは余程暇なのかと言われたら反論も出来ないが、フリーターだからしょうがないとも言いたくなる。
……それにしても暇だ。大学院を出てからというもの、ずっとこんな生活をしている所為でもあるかも知れないが、やる事がない。深夜は客が少ないからやりたい放題とワクワクしていた頃を思い出すと、俺も若かったんだなと思う。
あまりの暇さにボーっと考え事をしていたら、店内唯一の客が雑誌を読み終え、商品は何も買わずに退店しようとしていた。
まあ取り敢えず仕事なので挨拶くらいはしようと、腰掛けていた椅子から立ち上がり、先ほど同様やる気のない声で、ありがとうございましたと言った。
……暇すぎる。
この世界は何をやるにしても、俺にはつまらない物ばかりだった。そうやって仕事を選り好みしてきた結果がコレなんだが、やっぱり俺は生まれる世界を間違えたんじゃないかと思う。
そう、出来ることなら……。
「異世界ってのも、行ってみたいもんだ……」
「じゃ、行きましょうか?」
「ふぇ?」
随分とマヌケな声を出してしまった。
「だから、異世界、行きましょうかって言ってるんですけど」
「おいおい……そいつはちょっと……超展開過ぎやしないか?」
声の主は見当たらない。でも俺は暇を持て余していたので、この珍妙な会話を続けることにした。
「……そうですね、いきなり過ぎましたか」
「おう、そりゃな」
「じゃあどういうことか、軽く説明しましょうか?」
「頼もう」
どんと来い。
「実は私、此処とは違う世界の神様なんです」
男とも女ともつかない不思議な声がそう言う。
「ほう、それで?」
「で、私も貴方と同じように暇なんですよ」
「へえ」
神様も暇するものなのか。まあ、何もかも自分の思い通りに行く世界ってのもつまらないか。
「だから貴方で暇をつぶすことにしました!」
「なるほど」
現実的に考えたら、宗教の勧誘とか何かしら怪しい物を連想する話だが、この時の俺はそれでもいいと思えるほどに暇だったのだ。
「それで、俺を異世界に連れて行って、その様子を見て暇を潰すと?」
「その通りです! さすが神童は話が早くて助かりますね」
「知ってるのか……まあ神だから当たり前っちゃ当たり前か」
そう呼ばれていた時もあった。でも、嫌味じゃないが中途半端に頭がいいと苦労しかしない。
「さあ、榊真木さん! 行きましょう、此処とは違う、異世界に!」