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ビューティフルピープル

年商200億のIT野郎、田村は上場で時価800億の資産を持つ大金持ちである。


だからこそ、自分を特別だと思っているのだ。


俺は「ビューティフルピープル」なのだと・・・


ちなみに、純資産が3000万ドルを超える超高所得者は、

世界に10万にいるらしい。


ビルゲイツもスピルバーグも、そして田村信一郎もその一人。


UHNWisと呼ばれる階層で、執事や家政婦などに生活全般を任せ

ピラッミッドの頂上から、最新の超大型スクリーンを通じて

下界を見下ろしているのだ。


そういうクラスの人間は、簡単に言うと成金クンが多い。


成金クンが、まず始めるのは、自分以下の人間と、自分を差別化すること。


ブラックカードを持ち、邸宅を構え、ロールスロイスを持ち、

運転手付きで移動し、

・・・・まさにビューティフルピープルがビューティフルライフを求める。


田村信一郎などの独身は、名誉と美しい女を求めるのだ。


基本は、有名になりたい…もてたいという原始的な欲望。


女は、金に群がる・・・・なぜなら現代の力の象徴だから・・・・

それが女の本能。


成金クンの本能と金を求める女の本能は簡単に結びつく。


だから、嫌と言うほど、田村信一郎は、女を抱いてきた。


しかも彼は、8等身の小顔のモデルしか抱かなかった。


女性にパートナーとしての、心など求めない・・・・・

いわば、欲しいのは高級なエスコートガール。


見た目が、ビューティフルであればそれでいいのだ。


ビューティフルピープルは美しい女しか必要はない。


それが、彼の哲学みたいなものであった。



そのために作ったのが、遊びのための地下室なのだ。


実は、このビルには地下が1階しかないことになっている。

地下二階以下には、駐車場があるのだが、その壁の向こうに

設計図にはない、さらなる地下を作った。


子供の時に考えていた「秘密基地」の感覚で・・・


そこでは、高いシャンパンとおいしい料理が用意されたクラブがあり、

厳選されたビューティフルピープルたちが、20名限定で100万円を支払い

プロダクションの用意したモデルやタレントと飲み明かす。


昨夜は、IT企業家仲間が7名ほど来ていた。


その相手をしていたのが、ついこないだまで連ドラの主役をしていた女優で

男は、その女を落とすために戦いを展開していた。


テーブルの上には、ロマネコンティやドンペリが転がる中

ついにネットで中古車販売を展開する年商50億の社長が彼女を落とした。


どうも3億円のマンションで愛人になったらしい。


女優が金で・・・・・なんて言ってる一般人に言っておこう。


よほどとんとん拍子でスターにならない限り、

女優の卵も、売れない卵も「スポンサー」を探して生きている。


最初は、局のディレクター、雑誌の編集者に始まり、

次の段階では、ちょっとした金持ち・・・・

さらに運がいいと、企業のオーナー・・・・


恋愛と言いながら、金と仕事のために寝る・・・そういうものだ。


そして、盛り上がったところで、隠し扉の向こうにあるエレベータに消えた。


さらに地下にスイートルームが設けられていて、そこで饗宴を続ける。



そういう女を用意するのが、四谷プロの中本である。



彼女たちは、そこに100万単位の金を得ることを保証されるが

同時に絶対の秘密を強制される。


そのため、この地下室の存在は、表には出ない。


ところが、欲望の宴には、かならず破綻が生じる。

それを処理するのも、中本の仕事なのだ。


西條メグは厄介な女だった。



彼女が初めて、地下室に来た時は、何も魅かれたものはなかった。


よくいるアイドル崩れ・・・・それが第一印象。


西條メグはB90W60H90という、ちょっとセクシーな体型だが

そこそこ年なので、目が真剣に獲物を探していた。


要は金ズルが必要なタイプの女。


毎回来るたびに寝るだけで50万近くももらえるのだがら、

こういう女は、一度これをやると癖になる。


彼女は、週に一度は来るようになった、

話は面白いので、ここに来るおじ様たちのアイドルになっていた。


メグのいる席からは、いつも嬌声が聞こえてくる。

この怪しい地下室を明るくしている、その不思議な雰囲気に興味を持ち

一度、寝てみることにした。


「田村さんって、素敵・・・こういう出会いじゃなければな~」


散々他の男と寝ておきながら、軽くこういうことを言えるのは

水商売の女と同じだ。


熱く二人で燃えた後、メグの顔を見ていた。


その時あることに気づいたのだ。


この女は、あの伝説の女王に骨格が似ている。


伝説の女王とは、35年前のスター原田モモヨ。


彼は、財布から写真を取り出して見比べていた。

その写真は、モモヨの水着姿・・・・


この女なら・・・・・


そして、西條メグを引き留めることに執心し始めた。


食事に連れ出し、マンションを与え、旅行に連れて行き、服や宝石も与えていき

甘く贅沢な愛人としての地位を与えた。


だが、彼女はビューティフルピープルではない。


だからこそ、整形をさせなければならない。



☆☆☆☆☆☆


その整形医は、驚いていた。


「原田モモヨ・・・」


だが、田村は、整形医のカタログに写真が載っていることも気づいていた。


「だめですかね」


「いや~骨格がそっくりなんでびっくりしたんだよ」


「そうですか・・・」


田村は、さも驚いたという顔をしておいた。


・・・当たり前だ。

   俺は、骨格に惚れたんだよ・・・だから連れてきたんだ。



腕に定評のある整形医は、たった一日で、35年前の原田モモヨを再現した。


だが、メグは分かってはいない。


ただ、違う美人・・・・俺の好みにされたとしか思っていない。


俺の好みか・・・・と言うと、そうでもない。

だが、執着しているのは確かだ。


でないと、そんな古い切り抜きなど持っていないわけだから・・


整形した西條メグを、田村は毎晩激しく求めた。


サディスティックな愛し方をしながら、激しく、激しく・・・


だが、それはメグにとっては、田村を翻弄しているという自信になっていた。


「私だけを見てくれている」


その通りだった。


だが、それは愛ではなかった。

それは、この顔に対する執着でしかなかったのだ・・・・


それを彼女が思い知らされるまでに時間はかからなかった。


愛がない・・・・それを知らされたのは、愛し合っているときだった。


「痛い・・・・やめてよ」


余りに強く体を抱きしめてくる田村に、彼女は怒りの声を上げた

恋人なら、ごめんと、謝ってくれると期待しながら・・


「うるさい」


田村は、冷たく返してきた。


彼の部屋で暮らすようになって3ケ月。


毎日求めてくる男に対して、メグは強気に出た。


「うるさいって何よ! 私の事をなんだっと思っているの?」


「うるさい・・・俺に文句を言うな」


田村の表情がどんどん変わっていく。


「俺とおまえは人種が違うからな・・

 お前はどう転んでもビューティフルピープルにはなれない」


自分が、人形かおもちゃのように扱われていると思えてきたメグの心には、

初めて憎悪の気持ちがわいてきた。


そもそもすでにマンションの名義も自分にしてもらって、

お小遣いも2000万くらいため込んでいる・・・そろそろ別れるか・・



「何言ってるのよ・・出ていくわよ」


「いや・・それも許さない」


「許さないって・・どういう事よ」


「お前なんか、どうにでもできるんだよ。

 俺の言う事を聞くしかないんだよ」



女にして、金を与え、薬を与え、整形をさせ

そこから、3ケ月は、田村にとって楽しい毎日だった。


何を文句を言いやがるんだ・・・と怒りが込み上げてきた。


メグは自分の部屋に戻り、そして戻ってきた。


そしてある写真を目の前に出してきた。


それはパーティの写真だった。


 「地下室の事ばらされたくないでしょ」


こんな売女にひるむ信一郎ではなかった。


俺のようなビューティフルピープルに、奴隷が脅迫しているんだ。


残念だが、潮時だ・・・こう言う輩はデリートしないと!



その日、彼女はサクソンの最上階、田村の社長室に呼び出された。


「別れるにあたって・・・・守ってほしいことがある」


彼女は、半年の付き合い、そして3ケ月の同棲で、

多くの秘密を知っていた。いや知りすぎていた。


「何?」


「俺といた時に見たこと、聞いたことのすべてだ」


「私、頭は悪いけど、記憶力だけは自信あるのよ。」


「ああ判っているよ。手切れ金だろ」


すると田村は、大きなハリーバートンのアタッシュを二つ出してきて、

中を開いて見せた。

札束が綺麗に並んでいる・・・・一つのバッグに100万の束が30の二段・・

つまり全部で…


「1億だ」


「・・・・わかったわ・・全部忘れたわ」


彼女にとっては充分であった。


マンションが8000万 貯金が2000万 さらにこの1億。


そもそも金持ちと高額で寝るという高級コールガールのつもりで来たのに

これだけ報酬を手にしたのだから・・・・


「最後に乾杯をしよう」


田村は、ワインを取り出してきた。

ロマネ・コンティ 1978・・・・確か200万はする。


コルクを抜いてグラスに注ぎながら、彼は言った。


「メグ・・・ありがとう楽しかったよ」


最後に甘く優しい誘惑だ。

赤くとろけるようなワインを味わい、彼女は答えた。


「ほんと幸せだったのよ・・・・もっとこのまま・・・」


そう言いながら、彼女は意識を失った。


それを眺めながら、田村はつぶやく。


「このまま・・・そんな物、君にはないよ」


次に彼女が意識を戻したのは、高級マンションの一室だった。


クイーンズサイズのベッドに、手錠で繋がれ、さらに拘束服を着せられ

まるで見動きができない。


そして、透明なドアの向こうには、よく見るビルの警備員が立っている。


「モグモグモグ・・・」


叫ぶが口枷をされているので、声にならない。


攀じるように身をジャンプさせ、音を立てる。


「助けて・・・・」と言いたいが、声にならない。


すると警備員が入ってきた。


「静かにしろ」


警備員は、そういいながら思いっきり彼女を殴った。


・・・私は、あなたの所の社長の女よ・・・・・


驚いた顔を見て、彼はあざけるように言った。


「観念するんだな・・・・あんたはもう捨てられたんだぜ」


・・・これは田村の仕業なのね・・・・・あのワインだわ・・・・


警備員は、彼女に注射をした。

そして、メグは再び意識を失った。



次に目を覚ました時には、目の前にあの男がいた。

田村信一郎・・・・

彼は、メグの口かせを外すように命じた。


「お別れを言いに来た」


殺す気だ。彼女は瞬間でパニックに・・・


「あんた!どういうつもりよ!助けて~助けて~」


彼女はありったけの声で叫んだ…誰か外で聞いてくれないかと・・・


「馬鹿だな~聞こえないよ」


ここは、田村の為のパニックルーム・・・

地下三階にある、社長専用の地下シェルターなのだ。


高い防湿・防水性と抜群の耐久性・地震・放射能・核兵器・生物化学兵器などにも対応、内部は高級ホテルといったたたずまい。

ビューティフルピープルの為のシェルター。

こういうコンドミニアム的なシェルターは10~20億円くらいする。

アメリカでも、中東危機以降は予約が急増しているのだとか。



ここは、社長が万一の時に、逃げ込み半年生き延びれるようになっている

核シェルターであり、地震に火事にもびくともしない。酸素も食事も半年分。

あらゆる災害を想定して作られた部屋だ


彼女は、地下三階にあるシェルターに監禁されのだ。


建築後、隠密に作ったため、設計図もない・・・秘密の部屋なのだ。



だから、誰にも気づかれることなどないのだ。


彼女のデリートの仕方を、四谷プロの中本と考えている間の時間稼ぎだ。


そして、あのクリスマスイブの心中事件になるわけだ。



田村と中本は、悩んでいた。


消し去ることは簡単だが、さすがにタレント芸能人だから

事務所が、そのうち探し始める。


そういう意味でも、監禁しているのも、2~3週が限界だ。


どんなに売れないタレントの白いスケジュール表であっても、

月に1,2回の仕事をいれてるのが芸能プロダクションと言うもの。


タイミングが重要。


そんな時だ。


ねずみが騒ぎ始めた。


そのネズミとは、一人のチンピラ。


ある男が、チューチュー騒ぎ始めた。


大和田信夫は、地下室のボーイだった。


彼は、毎夜毎夜繰り広げられる饗宴には辟易していた。

来る男は、みんな富裕層で、スーツも時計も競うように高価なものをつけ

バカ高い酒を飲み、ピッチな女を抱いている。


その為の召使いのように動くのが、嫌だった。


そして、目の前で、金がすべてであることを思い切り知らされた。


この地下室の秘密は、女や酒だけではない。


実は、成金野郎たちが、女を抱くときに使っているドラッグだ。



覚醒剤に大麻にMDMA・MDAにコカインにヘロイン

およそ違法とされているドラッグが、用意されていた。


スィートルームの掃除をしているときに気付いたのだが

一体どこから来るのかが謎であった。


だが、ある時、社長が持ってきて、相当量をある収納庫に入れるのに

気付いた。


暗証番号は、CCDカメラで録画をしてゲット。


さらに毎週月曜日に、ドラッグを入れることも判明した。


そして、売人のルートも確保した。


「ああ、覚せい剤だけで1億分はある。金を用意してくれ」


「それは楽しみだな。じゃあ来週な」


後は、盗むだけである。


そして、ある月曜の夜・・・パーティが終わり、午前3時には

後片付けの為に、彼一人になった。


「じゃあ、大和田、後はよろしくな」


支配人が消えた・・・いよいよ決行だ。


だが、彼は知らなかった。


売人が、まさか四谷プロの中本の息のかかる組員だとは・・


パーティの薬を奪おうとしたチンピラの大和田くんだが、基本、こんな所で働くようになったのも、頭の回転不足。


生き馬の目を抜くようなサバイバルを繰り広げる田村や仲本にとっては、チンピラはチンピラに過ぎない。


頭の悪いことに、中本の手下のチンピラに相談してきたのだ。


何㎏ものドラッグを、防犯カメラの死角を匍匐前進で移動しながら、時間をかけて運びだし、約束の場所に車でかけつけた大和田は、売人の指定した橋の下の河川敷に現れた。


「お疲れさま」


暗い闇から声がした。

顔は見えない。


その時だ。


100㍍ほど先の車がヘッドライトを点けた。すると、後ろの方でも車がヘッドライトを点けた。


眩しさに目を隠しながら、大和田は車がベンツである事を認識した。


彼は目はいいのだ。

だが、同時に嵌められた事も悟った!


「裏切りやがって!」


強面の男が彼に拳銃を向けていた。

あっとい馬に、わいてきた手下たちに羽交い締めにされてしまった。


「こいつらショッカーかよ」


何が起きてるかわからないが、ばれちゃったと言う軽い後悔をしていた。


「あんた誰?」


車に押し込まれると覆面をされ、どこかに向かってスタートした。

大和田は殺されなかった事に安堵し、

言い訳を考え始めた。


他の奴にそそのかされた?事にしよう、

あの売人のせいにする?

店長ってのはどうだろう?

社長に頼まれた?あの社長はヤバイか!


どれでもいいが、まずはこいつらがどういう筋なのか判らないと。


社長の敵か味方か?


20分後に彼はそれを知ることになった。


覆面をされたまま、車から下ろされた大和田は、聞きなれた信号に音と、車の走行する音の反射で、気づいたのだ。


「ここはサクソンコーポレーションだ」




再び大和田の覆面が外されたのは、六本木のラブホテルの部屋の中!


隣には、そう原田モモヨの整形をしたグラドルの刺殺死体。


まっ、順序は逆で、ドラッグで自分を失ってる西條メグは、頸動脈をスパッと切られて、出血多量!


で、大和田はドラッグを少しやらせて、次に紐で首をつる。

まっ、抵抗するから4人がかりだけど。


で、ドラッグを撒き散らしておく。

300万円分、チンピラの売人らしい量をおいておいた。


ラブホテルでも、防犯カメラはあるから、男女カップルの実行犯にした。


謎の心中の完成には2時間もかからなかった。


田村は、社長室で報告を受けた。


「社長、処理いたしました。」


さすが裏に通じる男・仲本は手際がいい。

ドラッグ中毒のアイドルと、売人の心中を仕立てることにしたのだ。


「もう、警察が来そうなところには、女が薬中だった噂も流しましたし、

 男とできていたという話も拡散させてます」


「わかった。そひれにしても二人とも、これもビューティフルじゃないね、

 困ったものだ!」



これで、あのクリスマスイブの

『薬物中毒の末、痴情のもつれで、アイドルが心中!』の完成だ。


だが、そのうち西條メグの整形の事は警察も辿り着く。


なぜ、彼女を原田モモヨの顔にしたか・・・・も話題になる。


実は、田村にとって個人的な意味があったが、。

あの整形医が多数のモモヨを作ったお陰で、特別な事ではなくなった。

結局、整形の意味は、事件とは、関係ないこととして扱われるだろう。


田村にとっては、最も重要な事なのだが!


まあ、どう警察の捜査が転ぼうと、出頭する用の人員の手配も終わっている。

特権階級は、金で他人の人生を操ることができるのだ。


まあ、あのテレビ野郎だけは、気になる。


俺と中本、つまり四谷プロの関係は、この事件にも繋がるからだ。


・・・何か手を打たなければ・・・・



右のまゆの上にあるできものを触りながら・・・それが癖なのだが

田村は考えていた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



再びモモヨの邸宅・・・・


ある写真を見ながら、伝説の女王は過去に思いをはせていた。


そこには、産院のベッドに横たわる彼女が、生まれたばかりの赤子を

抱きしめて、天使のように微笑んでいる姿が映されていた。


そう女王が、はぐくんだ愛は、男の子だった。


プロダクションが。郊外の産院を秘密裏に用意し、

引退直後の彼女をそこに隠した。


出産の二日後、父親である俳優が慌ててかけつけた。


「かわいいね・・・よしよし・・・」


その笑顔は、国民のよく知る顔だった。


それもそのはず、彼は、国民的俳優・田村連次郎であった、

モモヨより40歳近く年上の初老の名優。


モラルのあるインテリとして有名な彼には、奥様と子供が3人。

家庭的なイメージも人気の秘密で、理想の父として7年連続№1の位置にいた。


そんな彼が、20前後の女と浮気・・そして子供まで…


「連次郎さん、ごめんなさい」


モモヨは、自分のわがままを謝罪した。


「いいんだよ・・」


明るい笑顔で、答える連次郎。

やさしく髪をなぜられているうちに、彼女は深い眠りに落ちた。


翌日、目を覚ますと子供がいない。


「あっ、事務所の方が連れて行きました」


「えっ、どういう事」


国民的俳優は、彼女の宝物を取り上げていった。



理由は、明確だ。


国民的俳優にとって死活問題のスキャンダルなのだ。


そして、経済的なことも含めて、父親が預かることの方が、

子供には幸せだ・・・・と事務所にも説得された。


ここで、問題なのは、原田モモヨが子供を産んだ記録がどこにもないこと。


退院して、戸籍を確認したときに、自分の戸籍が全くの独身で

子供の記録はない。


産院を訪ねて、抗議をした。


「何言ってるんですか・・・あなたは立場をわきまえないと・・・

 事務所から依頼されたんですよ・・・」


そう、存在してはならない子供なのだ。


「さあ、田村さんがどうされたのかは私たちにはわからないですね。

 誰かの子にされたのか・・・・自分の子にされたのか・・・」



田村の戸籍を確認したが、あの子の記載はない。


モモヨは、田村に執拗な電話をかけたが、出てくれなかった。

そのうち番号は変えられ、事務所にかけても無視され続けた。


もちろん彼の家も何度も訪ねたが、門前払いをされるだけ・・・・

応対したお手伝いさんも


「そんな子供なんてここにはいない」


としか言ってくれなかった。



もう35年も前の話である。

だが、私は、息子に会いたい・・・・


覚えているは、右のまゆの上にあるできものと黒子だけ…


そして、35歳の男子・・・・軽く300万人くらいいる・・

探し出すのは不可能だ。


だが、思わぬ形で、その息子と再開を果たすことは、彼女は知る由もなかった。



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