IT野郎には気を付けろ
二日後、山崎は、さらに新しい情報をつかんでいた。
「中本がのしてきた裏にいるのは、IT企業のサクソンコーポレーション
らしいんだよ」
中本のような手合いは、金の匂いをかぎわける能力にたけている。
成金君に女でも手配してやれば、イチコロ。
スポンサーがいるとは、芸能プロとしてもやり手ではある。
「技術者の派遣で年間200億の売り上げの会社なんだけどね。
ここの田村という35歳の若社長が、新橋のギャング団と関係が深くてね、
予想通り、何人かのモデルを愛人にしている」
お~キタキタ!! 俺はこのIT企業家というやつが大嫌いだ。
金を稼ぐのは上手いが、やたらモデルやタレントと付き合い、六本木や麻布で
金の威力で大物ぶる。
「田村は岡山のかなり奥地の山村の出身なんだけどね・・・・・・・・
この田村が、中本とよく会ってるんだよ。」
「女を用意てやるってことかい・・手配師だね」
「最初は、そうかもしれないが、今はびどネスに絡んでるんだ。
この田村は、2年前から四谷プロの株を買い始め、今では30%握っている。
このまま買い続けると四谷プロは、サクソンの傘下に入る。」
これは驚いた、成金の趣味が芸能界制覇とは・・・
「つまり、そのうち、中本が社長になる可能性があるんだね。」
「そうだね。だから、モモヨの過去話なんて邪魔なんだよ」
グレーゾーンを探り出したディレクターなど、うるさいハエという事だ。
「でも、わからないことがあるんだよ。
なぜIT企業が芸能プロダクションを手に入れたいのか・・・」
「金には不自由しないから、派手な世界で名を売りたいんじゃないの??
ITの奴らにとってはキャバクラ買収するのと同じだよ」
「いや~、俺から見るとそんなおいしい世界には見えないけどね
ミーハーなのかな・・・あの社長」
どちらにしろ、中本がただの役員ではなくて、金も力も動かせる大物らしいと
いう事は理解できた。
「ここまでだな・・・今のところ。
ただし高木ちゃん、あんたがモモヨを探ったことについては、わからない。
サクソンとは関係あるとは思えないし・・・・もう少し調べてみるよ」
俺に脅しをかけてきたのは、裏社会に通じているた中本であろう。
自分たちが権利を持つ伝説のスターが、殺人を犯しているのでは・・・と
探ってくるテレビ屋は煩わしいのだ。
サクソンの田村は、あまり関係なさそうだな~と思っていたが、
念のため調べるか・・・・・探偵社に俺は電話をした。
双子のリロイズの時は、2週間かかったが、今回は4日で報告が来た。
「高木さん、こないだみたいな消えたタレントと違って、
田村は今活躍中ですからね。まあ楽でしたよ。」
で、肝心の報告書だ。
「田村信一郎。独身。35歳。岡山県八花村出身。
岡山の県立高校を卒業後、慶応大学理工学部でプログラミングを専攻。
大手コンピュータ会社に就職、さらに25歳の時にWEBデザイン会社を起業。
その後、プログラマーを派遣するようになり、その質の高さで会社が成長。
技術派遣会社を買収し、サクソンという名前にする。
八花村は、過疎化がすすみ貧しい村なので、彼も高校時代から
奨学金で進学。」
特に気になることはない、苦学して成功したいい奴に思える。
なんだ・・・関係ないか・・・・と思い始めていた。
「両親は、田村義彦と奈津美。
信一郎は、養子として貰い受けている。
特別養子縁組のため実父母の記載なし。」
本当に不幸な奴だな~と思ったが、違和感も感じた。
で、誰もが思う疑問がわいてきた。
「そもそも一体、本当の親は誰の?」
探偵は答えた。
「現地で仕込んだのは、東京で生まれたらしいってとこまでです。
これは、少し時間を下さい・・・それと別途料金で」
東京か・・・・仕方ない、多少金がかかっても、違和感とか疑問点は解明したい。
なんせ、俺は脅されているのだから。
そんな時、俺の知らない所で、事件は起きていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
さて、世の中がハートフルなクリスマスイブを迎えた12月24日。
深夜の六本木は、パトカーのサイレンとすざまじい数の野次馬で、
喧騒に包まれた。
なんと数年前、グラビア誌を席巻し、男たちの欲望を引き受けていた
巨乳タレントの西条メグが、男と心中をしたのだ。
すでに、落ち目に入っていたメグではあるが、やはりアイドルとしての
知名度は絶大で、各テレビ局は、現場から生中継を入れるほどであった。
「今日の深夜、ここ六本木のホテル・スィートラブで、人気タレントの
西条メグさんが刺殺されました。犯人は、同ホテルに西条さんと宿泊していた 交際相手の男性で口論の末、刃物で胸を刺された模様です。」
「なお交際相手の男性は、西条さんを殺害した後、ドアのノブにロープをかけ
首を圧迫し、自殺したとのことです。」
「宿泊した部屋には、薬物の痕跡が見つかり、警察は、薬物使用の上の犯行と
みて 捜査を続けています」
翌日の新聞には、『薬物中毒の末、痴情のもつれで、アイドルが心中!』
になっていた・・まさに六本木心中!
大騒ぎは、それだけでとどまらなかった。
2日後、警察の発表が、また世間をにぎわせた。
と言うのも、タレント名鑑には、西条メグが、1990年11月3日生まれで
出身地が兵庫県西宮で25歳、本名・片桐梅子とあるのだが、
問い合わせたところ、確かに、その日生まれの同名の女性がいたが、行方不明になっていた。
そこまでは、いいのだが、家族が確認に着たところ、似ても似つかぬ他人と判明したのだ。
プロダクションもパスポートや免許証を見たこともなく
マネージャーは、飛行機恐怖症で海外ロケは、絶対にokしなかったと
伝えてきた。
そう、彼女はfakeだったのだ。
被害者が偽物・・・・・・これが、また事件を複雑にしていた。
そんな時に山崎から、裏社会の情報が・・
「あの死んだ女・・・どうも関係あるかもよ」
「えっ、誰と…」
「俺の女が、キャパ嬢なんだけど・・・・なんかのパーティで仲よくなって
ある時、スマホにあいつからの着信があったのを見たらしい」
「だから山崎さん、誰の?」
「サクソンの田村・・・」
おいおい苦学で努力の成功者ではなさそうだ。
相当ブラックな匂いがしてきた。
これは臭い・・・・