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疑惑のトライアングル

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


眠れる森の女王・モモヨは、たまに悪夢にうなされた。


沖縄のあの日の事だ。

私が鉄の棒を握り締めている。

それには、黒い粘液がこびりついている。


アイドルの時間は、あっと言う間に過ぎ、期間は短い。

しかも、それは遠い過去のことだ。

なのに大きく陰鬱なトラウマなのだ。

あの日の暴漢のことだ。


あの日、青年が死んだ。

だが、不思議だ・・・・

なぜ私は、関係ないことになっていた。

私を襲ってきた記憶があるのに・・・・


なぜ私は、次の瞬間、目覚めた時、ベッドに眠っていたのだろう。

そして、なぜ警察から隔離されたのだろう。


「お前とは関係ないこと」


本当にそうなんだろうか・・・・

悪夢は、記憶の断片なのか、私の妄想なのか・・・・


私が、殺したのかもしれない。

そうでもないのかもしれない・・・


私には、仲間がいる。

私と苦労をともにし、私の愚痴を聞いてくれる仲間が・・・・

ただ何も語ってはくれない。

唯一、心のそこから、信用できる友なのに・・・・

35年間じっと息を潜めたままだ。  


モモヨは、年老いたゾウガメの甲羅をなぜながらため息をついた。


☆☆☆☆☆☆


「高木ちゃん、進んでる??」


上司が、それとなく様子をうかがいに来る。


そろそろ何か、おいしいネタをつかまないと、仕事にならない。


そもそも35年前というのが、古すぎる過去なのだ。


その頃、日本シリーズで活躍する東尾の娘が、トレンディ俳優の若手俳優と結婚するとか、左腕工藤の息子が、俳優になるとか、誰が想像するだろう?

話がわからない?

悪かった、俺は西武ライオンズファンだったのだ!


で、俺は、唯一、なにかありそうな問題の地・沖縄に飛ぶことにした。


まあ局Pが、リロイズてもいいと言ってくれてるなら、そこから。

そのファンの死んだ事件を追いかける・・・事だ。


リロイズが宿泊していたのは、万座パラダイスホテル。


といっても、まさか警察でもないから、会社にも、ホテルにも捜査とはいえない。


ちょうど俺の所属するテレビ制作会社MAD-TVは、グルメ番組を制作していた。

そこで、無理やり担当に頼み込み、俺が演出Dと言うことで、グラドルを一人仕込んで、「沖縄グルメレポート」をでっちあげ、放送する流れに!


で、そそくさと取材終らせ、夜には、事件の舞台となったホテルの支配人と

グラドルと俺で飲んでいた。


「ところで、支配人、ここに何年勤めてらっしゃるんですか?」


「もう37年になります」・・・・・ビンゴ!


これのままネタに入ると、警戒されるな・・・・・

俺はグラドルを使って支配人を酔いつぶすことにした。


2時間もたつと支配人は酩酊状態。ここからやばい話に入った。


「僕が聞いたのは、幽霊が出るって話なんですけど・・・

 確か若い男の子の・・・」


「えっ・・・そんな話初耳ですよ」


「いえね、確かアイドルのファンでね・・・・このホテルで死んだらしいって」


支配人の目が俺をギラッとにらんできた。


「ど、どこで聞いたんですか・・・・」・・・これはビンゴ2!


「いえね、この近くのキャバクラで聞いたんですよ。

 双子のリロイズのファンが幽霊になって出てくるって・・・」


ここからは、俺は、ハッタリにでた。


「でね、警察で調べたら、やっぱり死んでるんだよね」


「・・・・そこまで調べたなら・・・仕方ないな。」


あきらめた支配人はしゃべり始めた。


35年前のことを・・・・昭和天皇の病状悪化というくらい世相、さらにリクルート事件の解明が続く政治的混乱の事態、夏のなだしお事件も政府の対処に批判が相次ぎ・・・青函トンネル開業や瀬戸大橋開通といった明るい話題は済に追いやられていた。

芸能的には、世のオバチャンは、大河ドラマの武田信玄に夢中になり

子供はタルルートくんを読み漁り、そんな中、9月29日に明石やさんま・

大竹しのぶ電撃結婚。

9月17日に堀江しのぶ死去と続いていた時代。


ちなみにその時のヒット曲といえば、光ゲンジ絶頂期で、工藤静香や中森明菜がチャートを賑わせ、華やかな芸能界が、まだ息づいていた。


さらに、フリーター・うるうる・おたく族・お局さま・オバタリアン・セクハラ・ファジー・ママドル等という言葉が生まれた年でもある。


そんな年の9月29日に事件は起きている。

まさに明石やさんま・大竹しのぶ電撃結婚と同じ日。

だからこそ、新聞も雑誌もリロイズファン怪死を取り上げなかったともいえる。

ましてや、天皇の病状やリクルート事件という国民的な関心事が二つもあり、

大ヒット連発のトップスターネタでないと・・・・



「警察を呼んだのは私なんです。

 あの日は、大変でしたよ。

リロイズの部屋に死体があったんですよ。

 その隣でガードマンが震えているし・・・・

その後は、とにかくプロダクションに

 頼まれて、何も言わないようにしてたんです。」


「それにしても、災難ですよね。」


「それだけじゃないんですよ。その日は、スター水着大会があってね、

 他にもタレントが何人も来てね。いっちゃ申し訳ないけど、そんなに

 ビッグでもないリロイズに構ってられる状態じゃなかったんですよ。」


「誰が来ていたんですか???」


「西岡英樹、野間吾郎、東ひろみ・・・」


おっ、なつかしのスターの名前が次々とで出来た。

だが、その中には、お目当ての原田モモヨはいなかった。


モモヨと殺人は、関係がないじゃないか・・・・


なんだ、またわざわざ沖縄まで来て空振りかな・・・・と思いはじめていた。


こうなると、殺された暴漢青年の事を調べるのが一番手っ取り早い。

名前は、田中昌男・・・当時沖縄光高校2年生。

俺は、彼の同級生たちに聞いてみた。


「ああ田中かい!あいつ暗かったからね・・いつもぶつぶつ独り言言ってたしね」


「おたくだよ・・・一度家に遊びに言ったんだけど、アイドルのポスターや

 切抜きが部屋の壁にびっしり・・・」


「後さ、インターネットじゃない時代に、パソコン持ってて、なんだっけパソコン 通信したり、高校生なのにテレビゲームにはまってたり・・・・」


中の一人が、写真を見せてあげるから、と自分の家まで連れて行ってくれた。


「こいつ、こいつ」


確かに、めがねをかけて、小太りで、まさにオタクの典型。

しいて言うと、慎重が180センチ以上あり、大柄である。


「そういえばね、このナップザックもって、そこに凶器を入れてホテルに

 行ったらしいよ。このデザインと色が高校生の間ではやったんですよ・・・・

 僕も持ってたはず・・・・」


彼は、部屋の押入れをごそごそ探し始めた。


「これこれ!気持ち悪いしこれあげるよ」


俺は、なぜかそのナップザックをおみあげに彼の部屋を後にした。


続いては、地元の警察に取材を申し込んでみた。

警察も局の名前をだしたせいか、もしくは時効事件だからだろうか、

意外に協力的であった。

20分後には、調書と証拠品を見せてくれた。

証拠資料B-23と書いてある袋に、彼の日記があった。


入手した彼の日記は、平常心を失っているものであった。


「電気鳥が空から落ちてきた夢を見た。輝かしい太陽が、季節はずれの光輪を

 従えながら、空から黒い物体になり落ちてきた。

 そして、360度水平線に何もないアスファルトにたたきつけられた。

 飛散する黒い物体から、様々な映像が浮かび上がっていた。

 シャボンの一つ一つがテレビになったように・・・

 大地震・・・アマゾンのジャングル・・・パチスロのボーナス画面・・・

 そんな中に女の笑う顔が・・・・

 はらわたからありったけの映像を吐き出した電気鳥は・・・

 ステンレスの皮膚から、煙をブスブスと立てていた。

 しばらくすると、風がその残骸をピューイと吹き飛ばしてしまった。

 女の笑い声が「ハハハハハ」と大きくうるさくなってきた。

 その映像が大きくなった。

 彼女だ・・・・テレビでよく見る女だ。

 その顔は、突如、悪魔のように変わった。

 口は引き裂けみるみる大きくなり、髪は逆立ち蛇のようにうごめき始めた。

 こいつは悪魔に違いがない。

 そこで、私は目が覚めた。

 私は、だまされていたのだ。この悪魔に・・・

 悪魔は、この沖縄に来ている。しかも従者を従え。

 だから、神は、この予知夢を私に与えたのだ。」


読めば読むほど、奇妙なSFに思える。

ただ、暴漢が残した前日の日記ということは、その心理を計るのに重要だ。

悪魔が沖縄に来ている・・それで十分なのかもしれない。


なぜアイドルを悪魔として捕らえたのか ・・・・それは謎だが・・・

狂うとは、他人には計り知れないものだ。


彼の日記には、何かに襲われるという急迫観念から来る恐怖が羅列されていた。

彼は、遅かれ早かれ、何かを起こしただろうと思われる。


「私は、このまま生きながらえても悪魔の呪縛から解き放たれることはない・・」


こういう事を書く人間は、比較的死を恐れない。

幸せに生きている人間にとって死は、楽しみを失うことだが、こういう奴には

呪縛から逃げる一つの手段になってしまうからだ・・・


ただ確実なのは、彼に殺意があったということ・・だから簡単に正当防衛が成立したのだろう。


整理をしてみよう。暴漢青年田中は、殺意を持ち、俺のもらったのと同じ型のナップザックに凶器を隠し、ホテルに侵入。ところが、リロイズは仕事の為、部屋にはいなくて、そこに用事があり入ったボティガードを襲撃・・

ところが返り討ちにあい打ち所が悪く死亡。


なかなか怖い話で、ドキュメントとしては面白いが・・・・

そんなのでいいのかな・・・と思っていた。


俺にとっては、原田モモヨとも山瀬とも関係のない話しすぎて、

結構、面白くはないのだ。

ずっと頭の中では、なぜ俺の電話で、山瀬が自殺か殺されるようにならねば

ならなかったかという謎を考えていた。


もう少し、暴漢少年の背景を探ろうか・・・と思いながらホテルに戻った。


その時、突然、通路ですれ違った掃除のオバチャンが・・


「あっ・・・」


そう言って固まり・・俺を凝視した。


人間は、時として、覚えているはずのないような事を、あるきっかけで

突然思い出すものだ。


世の中で、もっとも無責任な情報をしゃべってくるのは、オバチャンである。

これは取材すればわかることだが、オバチャンの耳には、真偽は怪しいにしても

ありとあらゆる情報が面白おかしくインプットされている。


後は、オバチャンに気に入られるお兄ちゃんになれば、留まる事無くしゃべり続けてくれるものだ。俺は、これをAD時代から叩き込まれている。

だから、掃除のオバチャンにはやさしいのだ。


「おばちゃん、このホテル長いの?」


「そうだわね、35年勤めてるからね・・・生き字引みたいなものよ」


「そりゃいいや。調べてることがあるんだけど・・・

 このホテルって幽霊が出るって噂あるんだけど、ほんと??」


「いや私は初耳だね・・・どういう話なの、面白そうじゃない」


・・・・のってきた!


「いやね35年前なんだけどね・・・ファンがボディカードに殺されたって話。

 あのファンが出てくるって聞いたんだ」


「あら!リロイズね。あんた懐かしい話知ってるじゃないの

 あの時わたしゃね、フロント係やってたのよ」

 そのリックサックなのよ、だから私、そのバッグを忘れたことがないのよ・・・

 朝、外で少年とすれ違ったときに、その白いバッグを持っていたの。」


「次は、お昼に見たのよ・・その時は、中年のたぶん東京から来た人が持って

  いたの、私と非常階段をすれ違ったときに見たのよ。」


「最後は、あのおぞましい事件の部屋でみたわ・・・」


「同じものじゃないかもしれない・・でも私は同じだと思っているの

 誰も聞いちゃくれなかったけどね・・・」


確かに何の証言にもならないかもしれない。

ただ中年の男がヤング向けのバッグ持つのは、違和感がある。

しかも、わざわざ非常階段を使って移動と言う事にも違和感がある。


「だからね・・・あのバッグって、中年の男が置いたかもって・・・

 警察には一度行ったけど、あんなのいっぱいあるって・・そうかもね」


おばちゃんのカンを信じれば、男が少年から奪って部屋に置いたわけだが、

なぜわざわざ置くかと言う意味は分からない。


「今度あれを番組で取り上げようと思ってるんだけど???」


「やめてよ~ホテルの印象悪くなるじゃない。」


「わかった、わかった・・・ほかに何かなかったの?」



「一つだけあるわよ・・・・私しか知らないこと」

 実はね、あの時は、大スターがお忍びでここに宿泊していたんですよ・・・・

 誰とはいえんがね・・・・」さらにビンゴか?


 まさかと思って聞いてみた。


「もしかして、原田モモヨだったりして?」


「ようしっとるじゃないの。そうそう原田モモヨがね。

 男と泊まってたのよ」


お~い、話がリンクしてきちゃったぞ。


それにしても、おいおい17歳のタレントが男と逢瀬を楽しんでいただと・・・


誰だそいつは・・・・山瀬かも知れない・・・・

マネージャーとタレントができてしまうのはよくある話。


そもそも四六時中、一緒にいて、さらに成功のために二人三脚を続けるうちに、家族のような感覚になり、愚痴や悩みを共有し、だんだん着替えも目の前で平気になり、家族のようになっていく。

そしてなくてはならない存在になり、それが恋人関係となり、男と女になる。

そんな例を山と見てきたので、俺は、確信した。



原田・山瀬マネ・リロイズ・モモヨの

トライアングルが完成した


い~や、遠出はしてみるものだ。



・・・・・・続く



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