過去からの告白・・双子のリロイズ
テレビ制作会社・MAD TVのモットーは、『安い・早い・旨いの三拍子』らしい。本岡取締役の口癖である。
つまり、制作費はほかより安く、でも早くて内容がいいから、仕事が来るという仕組み、その分、ハードである。夜など、そこにはない。
午前2時は前の日から続く26時であり、朝10時は34時。
こんな言い方するのは、テレビかITの世界だけ。
制作会社の一日は、午前中は、アシスタントがぽつぽつ出社。
午後になって、ディレクター陣が続々現れる。
芸能界自体が動くのは午後から、午前中に連絡しても、本当か嘘かよくわからないのだが、外出というのが多い。
だから、緩く始まり、午後5~6時に喧騒の時間を迎える。
「高木ちゃん、ニューヨークから電話、三番ね」
「15万ですか・・・そこをもう一声、10万にしてよ・・
今度キャバおごるから」
「あんなハバアタレントのくせして、200万だと・・・足元見やがって
断れ・・丁寧にな」
「高木ー!いつ仮払い清算するんだ」
「タバコ買ってきて!」
「いい企画ないの・・・」
「コンセプトが違うんだよ」
「誰だよ、長い糞してやがるのは・・・」
「いい絵とってね、坂本ちゃん」
「今度の金曜、ひま?・・・泊まれるようにして来いよ」
「・・・若い女?打ち合わせでいないって言っといて・・・」
「それで、アバウト予算はいくらくらいですか?」
「社長。オクさんからです」
「オクってどこの人?」
「テメエのカカアだろうが!」
ピークの会話は、たかが30名の会社でも、うるさいくらいだ・・・・・
とにかく、どの一瞬を切り取っても、こんなに激しく会話がされている。
そして、午後8時ごろやっと静かになる。
話は、その時かかってきた一本の電話から、突然始まった。
そいつは、一週間ほど前に、ゴールデン街のある店で、隣り合わせになった
中瀬というチビハゲ野郎だった。
俺が、中年のちよっとセクシーなお姉さん(実は女流ポルノ小説家なのだが)と飲んでいたとき、絡んできたのがこいつだった。
「高木ちゃん、ちょっと話したいことが・・・」
別に仲良くなったわけでもないのに、ちゃん付けかよ?と思いつつ
まあ、どんなネタかは聞くべし・・適当に答えよう・・・
「原田モモヨのことなんだけど・・・・」
また、古い名前を出してきやがった。
「はぁ?中ちゃん勘弁してよ。何百年前のアイドルだよ」
「あの子って、引退して何年たったっけ?」
「確か30年・・・いや35年超えてるのかも・・・・・
しかも活動期間なんて3年くらいだろ」
「だけどCDは売れているし、DVDも毎年てでいるくらいだ・・伝説なんだよ」
「第一、あの子、昔からプライバシーにうるせえ女らしいぜ、レポーターには水をかけるし
平手くらわすって聞いてるし、勘弁したいね」
ここで、伊達に業界の長いノムちゃん、こと野村祐一がフェイドインしてきた。
1987年突如引退したアイドル、まだ17歳だった彼女は
コンサートの舞台から直接ファンに引退宣言をした。
その理由は、一切言っていない。
そのご、数々のマスコミが接触を図るもその住処すらわからない。
謎が謎を呼び、逆に神秘につつまれたアイドルとして伝説的な存在になってしまつた。
「高木ちゃん、おもしろそうじゃん、今、モモヨってのは・・・・」
この慇懃無礼な闖入も、この業界じゃ常識の作法。
「実はさ、彼女には秘密があるらしいんだよ。でね、ここに資料と企画があるんだけど・・・」
テレビの世界では、タブーとされている事がいくつもある。
それは、年齢詐称、学歴捏造、出身地、国籍・・・・・・・・
ノムちゃんの持ち出した企画もその手のものであった。
「原田モモヨは、実は日本人じゃないんとか、不良だったとか
年齢も5つはサバを読んでいるとか色々ウワサあるのよ」
こいつの情報の半分はうそ・・・いい加減な奴だから信じない。
サバも、こんな美人に読んでもらえれば、幸せだというものだろう。
でも、こんなネタのどこが、美味しいんだ・・・・・・
「それに今所属事務所が解散しているんだよ
多少ハードなネタでも、圧力はない!!」
その前に、ご存じない方に、「原田モモヨ」のプロフィールを紹介しておこう。
1983年12月、オーディション番組『イチオシ!』で、優勝、20社から指名を受ける。
1984年4月、映画『かくれんぼ』に出演し、5月21日に同名の曲で歌手としてもデビュー。当時のキャッチコピーは「目覚める14歳」。
デビューした年から2年は出す曲出す曲ベスト20にも入らない期待以下のセールスだったが、デビュー3年目、突如イメージチェンジを図り、陰のあるティーンとして大人を意識させる大胆な歌詞を歌わせる路線を取り、ヒット連発。
性典ソングと呼ばれはじめ、少女が性行為を連想させるような際どい内容を歌うという、
ややきわどい路線で絶大な人気を獲得することになる。
その後主演映画を作り始め、演技でも評価を得る。
ところが、デビュー4年目の暮れ、1987年10月のリサイタルで事務所に通告しないまま、舞台から直接ファンに引退を公表。
そのまま3ヶ月後に引退。
引退後も常に注目を集めるが、マスコミとは距離を置いている。そのため、より神秘的な存在となり、「永遠のスター」と呼ばれている。
「っていうのはだな。この子は、もう引退していないじゃない。
そのくせ、名前はメジャーなままで美味しいでしょ。
この子をメインにドキュメント作るんだよ。」
「でもさ・・・出てるかな?」
「そこそこ、実は、この子は、最後まで出て来ないのよ。
でね、この子の周りの人間が、彼女を語っていくわけ・・・・
昔の映像と、証言だけで、本人不在・・・ミステリアスな形でスター伝説を作るわけだよ」
これは、参った・・なかなかに大胆な考えだ。
確かに、本人が出てこなくとも、なんとかなりそうだ。
しかし、皆さんには言っておこう。
このときは、まだ知らなかったのだ。
たかが、たった一人のスターの成功に、
まさか何人もが悲劇を味わい、人まで死んでいたとは・・・
それにしても、俺が抵抗あったのは、ドキュメントという形式・・・・なんせ
俺はバラエティ畑の人だ。
なんかひとつ・・・・足りない・・・・
てな事で、パチスロで化物語をひたすらまわし3万円もすった頃、
頭の中で、やっと結論がまとまった。
その手はこうだ、本人が出てこないのはそのままイカすとして、
スタジオがタイムスリップで、まるごとその時代にもどる。
会話から美術から衣装から音楽から・・・ありとあらゆるディテールを
昔に戻す。しかもわざとドキュメントタッチで再現する。
さらに日だけでなく、時間もリアルタイム進行にする。
20年前の同じ時間に戻り、しかも8時5分は8時5分として演じる。
放送時間を2時間とした場合、20年前の、その2時間だけを切り取って
番組にする。よくわからないが、新しそうではないか???
結果、いけそうな企画書ができあがった。
『あの頃テレビ:原田モモヨの1990~にっぽんのぐらふてぃ~』
放送時間 19:00~21:00
35年前の同じ時間、原田モモヨは公演を行っていた。
20:40分、彼女はステージの上から「引退」を表明した・・・・
何が起きたのか・・・・証言の数々を元に、
その衝撃の時間と空間にタイムとリップし、その時間に戻る。
新しい形のタイムスリップ番組です。
大きなコンセプトは、ケネディ暗殺とかダイアナ妃の謎とかと実は変わらないのだが、まあ、そこは、仰々しく盛り上げる方法はごまんとある。
まず当時のアイドルを集めて、歌番組を再現する。
これだけでも結構なつめろ番組になる。
芸人を数人仕込んで、一般人としての生活を再現させる。
彼らは、その番組を町で視聴している設定にする。
で、もう一組は、原田モモヨのライブ会場にいる客の一人。
せりふもギャグも、その時代のものに・・・・・
35年前のテレビ局と家とモモヨのライブ会場という擬似三元生中継というわけだ。ここがポイントだ。
もちろん、核となるのは、モモヨのライブ会場。
運よく、DVDが出ているので、これは問題がないが、
ただこの大スターの秘密を暴くのが、番組の目的だ。
それには、確固たる情報がいる。
さっそく、ある男にアポをとった。
その男は、川崎の築20年の寂れたマンションに住んでいた。
山瀬・・・彼こそ、モモヨの元のマネージャー、しかも最後のステージで引退を見守った最後のマネージャでもある。
俺は、さっそく呼び鈴を鳴らした。
「ピンポン、ピンポン」
「・・・・・・・・」
「ピンポン、ピンポン」
「・・・・・・・・」
気配がしない・・・・妙だ・・・・・
恐る恐るドアに手をかけてみる・・・
鍵が開いている。
2時間ドラマだと、大抵、死体が転がっている。
これはまずいぞ・・・と思い、ハンカチで指紋がつかないようにドアを開けてみた。
「山瀬さん・・・・」「・・・・」
「や、山瀬さん・・・・」「・・・・」
返事がない。
これはいよいよ死体とご対面かな・・・・恐る恐る進んでみる。
リビングに入っても、人気はしない。
寝室に入っても・・・やはり人はいない・・・・
書斎が見えた。業界人だけに、あそこに資料がたっぷりあるはず・・・・・
そこにはモモヨの資料も・・・
ところが、なんと机が一つで、本棚には本が一冊もなかった。
俺は、逃げたな・・・と思った。
あまりに不自然だし、アポは昨日とったばかり・・・あわてて全てを持ち出した形跡なのだ。
机をあけてみた・・・やはり何もない・・・・からっぽだ。
開き直った俺は、押入れも、クローゼットも全てあけてみた・・からっぽだ。
まったくの「からっぽの世界」
もう帰ろう・・・そのとき、カレンダーの今日の日付に小さな書き込みを見つけた
俺の名前だとまずい・・・もし失踪だと、俺が容疑者になる・・・消しておこう
16時にアポが書いてる・・・俺のことだ。
だが、そこに鉛筆で書いてあったのは、局の名前でもなく俺の名前ではなく
こんな言葉が・・・「双子のリロイズ」
リロイズは、モモヨと同じ時代にデビューした双子のデュエットの事だ。
どういう意味なのだろう・・・
とにかく俺は、関わりたくはない。そのメモを消して、早々にマンションを後にした・・・・
もちろん指紋はふき取ってね。
☆☆☆☆☆☆☆
「ノムちゃん、やばいよ、やばいよ・・・・」
俺は、どうも犯罪の臭いがしてたまらないので、局Pに相談をした。
「とりあえず、山瀬マネを探したいんだから、警察に電話しなよ。
電話にでないから変だとか!指紋も残してなきゃ、問題ないよ」
まあ、他人事だからと、気楽な奴だ・・・・
その時だった。会社のテレビ画面に山瀬マネの写真が大きく写った。
なんと言うタイミング・・・・で、
山梨山中で死体発見・・・・・自殺・・・・
「先ごろ、山梨県**群・・で、原田モモヨさんの 元マネージャーの山瀬 工事さんの死体が、近くを通りかかった住民により発見されました。
山瀬さんは、20年ほど前、人気タレントの原田モモヨさんのマネージャーと して活躍され雑誌や番組でも取り上げられていた有名マネージャーでした。
地元の??警察では、自殺他殺の両面で捜査を行うとの事で・・・・・」
おい、なんだと殺人だと・・・
で、それって、俺はやばくねぇのか??
「調べによれば、死体は死後二日を経過しているとみられ・・・・・」
ますますやばい、俺は二日前の夜に電話し、一日前の昨日に彼の自宅に不法侵入しているんだせ・・・・
ただ、死後2日となると、おとついは編集室にこもっていたからアリバイはある。
「なら・・高木ちゃん、とりあえず犯人は、あんたじゃないから安心だね」
「とりあえずとは、ひどいな!」
「でも今回の番組がなんか関係してる気しない?」
といっても、そんなわけないよ・・・なんて慰めてくれる奴ではない。
「・・・・・そのとおり、あんたが接触を図った途端だからね、
関係大有りでしょ・・
やっぱ、彼女はやばいのよ・・・・あんたに何かが起きる予感がするわね。
きっと誰かが接触してくるわ・・・カメラとマイクを用意しときなよ」
確かに、俺もそう思う。
ただ俺の特番『あの頃テレビ』は、いきなり暗礁に乗り上げたわけだ。
なんせ最大の証言者が消えたわけだから・・
双子のリロイズの事は、まだノムちゃんにも言ってはいない・・・
俺だけの秘密にした・・・何かひっかかる。
☆☆☆☆☆☆☆モモヨの独白
私は、もう歌えない・・・そして踊れない。
息を潜めたままだ。
沖縄の悪夢は、日を追って増幅し、私を苦しめるようになってきている。
久しぶりにある男から電話が入った。
「もしも・・・・もしもし・・・・」
山瀬だ。
でも、私は、過去と話したくなかった。
放って置くと留守電に変わり、スピーカーから声が漏れて来た。
「君のあの秘密は、私が命をかけて守る・・・・
絶対に何もしゃべるな。。。」
そう言って、一方的に切れた。
「私の秘密??」
私の秘密・・・わたしにはあの悪夢のことだと・・・
それが私は知りたいのに・・・・
着信を見ると「公衆電話」・・・折り返すことはかなわなかった。
☆☆☆☆☆☆☆
自殺した山瀬のことが、知りたい・・・・・・
俺は、さっそく、カメラマンを連れて、原田モモヨの家に向かった。
驚いたのは、その家の大きさだった。
杉並区の高級住宅街に高い壁に囲まれた洋館があった。
200坪はあろうかという敷地に・・・式の洋館。
時価だけでも億を超えるだろう・・・・
17歳で引退したのに、どこから・・・と思う人が多いのだが、
彼女には、引退後も印税が毎年数千万は言っているというから、当然である。
到着したときには、テレビクルーが7班総勢40名近く、雑誌・新聞入れると100名を超えるマスコミが群がるように、玄関前を埋めていた。
元マネージャーの死に対するコメントを待ち続けていた。
呼び鈴が、絶え間なく鳴らされ、たまに中から、お手伝いさんのような女性が出てきて、
「ここには原田はおりません・・・」と答える。
それが5分おきくらいに繰り返されていた。
こういうときのマスコミは、視聴者が知りたいという大義名分の下、徹底的に粘る。夜中になって、警察が出動するまで、祭りは続いた。
俺たちは、バンの中で息を潜めて待ち続けた。
夜中の1時頃に、やっと最後のクルーが帰っていった。
やっと、独断場。。。。。
「あっ!」
カメラマンが、突如、カメラを肩に担いだ。
そのレンズの方向を見ると、窓に人影が・・・・
「モモヨですよ・・・」
ほんの10秒ほどで、消えた。
俺は、始めて、その伝説のスターを見たわけだ。
伝説に出会った・・・・その日はそれだけで充分なほど、俺はその邸宅の空気に飲み込まれていた。彼女は、決して、答えない・・・・
モモヨには近づくのは難しいと思った。
そこで、懐かし番組は暗礁に乗り上げた。
だが、負けてはいられない・・・・・ほかのルートから攻めるだけだ。
そんな翌日、俺は、局のプロデューサー・ノムチャンにモモヨは無理かもと話したが、答えは気軽なものだった。
一言、「じゃモモヨは捨てて、双子のリロイズで行こうよ」
なぜか山瀬のメモにあったリロイズ出てきた。
まじかよ~偶然ってすごい・・と思っていた。
「十分じゃないの・・・・彼女たちって今も人気あるんだよ」
リロイズとは女性二人組のユニット。
懐かしのスターとしては、そこそこ訴求力もある・・確かに番組になるかも・・
リロイズをネットで検索して驚くのは、年取ったオタクに意外に人気があることだ。
なんせ、検索すると9万5000件のヒットがある。
局Pのノムチャンが簡単にOKを出したのも、この人気のせいだろう。
リロイズの謎を解明すること・・・それが俺の最優先事項になってしまった。
ただ、そこから得られる情報は、シングルが11枚、アルバムが7枚出ている事だけ、
1975年、14歳の時「もも色の誘惑」で、デビュー。
シングル4作目の「放課後が大好き」がヒットし世に知られるようになる。
さらに、お菓子のCM等に起用されピークを迎え、その後は、バラエティ番組に出演、徐々に人気が下降線をたどり、その後、自分たちで事務所を設立、
イメチェンしソウルデュオとして、ライブ活動を中心に模索するも、ヒットに恵まれず、10年前に姉(美里)が結婚、出産の為活動を休止。
現在は、休業中・・・・・これだけだ。
これだけでは話にならない。何かスキャンダルとか扇情的なものが欲しい。
俺は、芸能界に精通している雑誌記者ジョージを呼び出した。
俺は、番組のコンセプトを説明した。
その為のリサーチという名目で、一通りの説明を聞いたが、知りたいのは裏話。
「彼女たちに、ヤバイ話があるんじゃないの?」
鎌をかけてみた。
「う~ん、さすが高木ちゃん、表に出なかったこと
デカイのが一つあるんだよ」
「それそれ、ジョージさ、リサーチ料出すからさ
頼むよ」
「マジ、オフレコで頼むよ。実は、1986年の事なんだけどさ、
沖縄公演の際、熱狂的なファン の男が、彼女たちのホテルに闖入し
立てこもった んだよ。その時、その犯人は 事務所のガードマンに
返り討ちで殺されてるんだよ。」
「えっ、そんなの表には、出てこなかったじゃない」
「正当防衛だったし、たまたまリロイズは 取材でロケに出ていた
時間で現場にいなかったのと、リロイズの
プロダクションが必死でもみ消したんだ」
なんだ、こんなところで殺人事件かよ。
「これを暴く番組でいいか・・・」
番組的には、センセーショナルだし・・・
やり過ぎか悩むところだ!
ただ、モモヨのマネージャーが自殺して、さらにその男が書いたメモの先に
殺人事件となると・・・・俺にとっては、大事だわな。
リロイズのプロダクションを調べてみると、リロイズが解雇されていた。
それを聞いてみると…
「リロイズの解雇理由??確か、素行不良だった気がするけど」
「マジかよ、そんなに不良だったの・・・・」
「業界人が何をのたまってるんですか!
素行不良なんて表向きに決まってるよ。
たいていは、ちょっと売れてきたら、
親がギャラをあげろって来るんですよ。
折り合いがつかないとプロダクションが
つぶしにかかると! 」
確かに、生意気な口を聞いたり、ちょっとタバコをすったり、やんちゃなアイドルは沢山いる・・・・それはすでに素行不良なんだもんね。
「リロイズも同じですよ。
僕の先輩がマネージャーだったんだけど、
あの事件の後、ギャラを3倍要求してきたらしいですからね・・・・」
三倍とはふっかけたものだ。
するとリロイズ自体には、そんなに深いドラマはなさそうだ。
そろそろ切り上げようと、ジョージが止めてきた。
「まっ、高木さんになら、彼女たちの秘密 売ってもいいですよ。」
「わかっ てるって!もちろん正当な
リサーチ料 出さしてもらいます」
「そう!え~と彼女たちの最大の秘密は・・・・
双子じゃなかったって事かな」
「えっ・・・・」さすがの俺も絶句した。
「あんなの他人の空似ですよ」
なんとリロイズは、双子ではなかったのだ。
恐ろしいほど似ている他人の空似だったのだ。
道理で、インターネットで本名とされている岡元美里・岡元由美を探してもどこにもいないわけだ。
まして、年齢も違うわけだから、たどり着く方法はない。しかもこの茨城出身というのも怪しい。
彼女たちのプロフィールは全て虚構の世界なわけだ。
まあ考えてみれば、出身地や本名をおおぴっらに公表する義務はない。
むしろ、18歳に見える24歳はサバを読んだほうが得だし、お嬢様に見える奴は、芦屋か田園調布に住んでいたほうが、ファンはイメージがしやすい。そう考えれば、プロフィールもらしいほうがいいわけだ。
まさに芸能界。イメージの世界。
ここまで嘘だとわかれば、調べるのは、もう探偵事務所のほうが早い。
2週間もしない間に彼らは、答えを出してきた。
報告書の内容は、
「姉・岡元美里の本名は、金井友子。旧姓・音村
友子。43歳。
兵庫県神戸市出身。現在は三鷹市のマンションに
在住。丸山物産勤務の夫と2人の子供あり 」
「妹・岡元由美の本名は、武田美智子。独身。
46歳。青森県八戸市出身。
ソウルシンガーとして活動を再開するも、ヒット
に恵まれず、その後・銀座のクラブに勤務。
2000年ごろ**不動産取締役の愛人となる。
2003年別れた模様。現在は、吉祥寺でジャズ
喫茶「マイルス」を経営」
おいおい双子のくせして、年齢は3歳も違うし、
出身地も500キロは離れている。
見た目で決めたのか、姉の方が若いなんて!
☆☆☆☆☆
「そもそもあなたは勘違いしてるわね」
一人目のリロイズ岡元美里こと金井友子とは三鷹の駅であった。
「私、商社マンの妻ですからね…全部オフレコにして」
もともと美人だから、そこにちょっとセレブな感じもあって元アイドルとは
思えない高級妻の雰囲気。
「芸能界なんて、嘘ばかり・・・・徹底して双子を演じてたのよ。
だから、あの人は今なんて企画にも出られないし…」
まあ事務所に楯突いたのだから、無理もないだろうに。
「それにアイドルは危険なビジネスなのよ。誰かわからない得体の知れない
ファンたちに愛想を振りまくのは大変なことよ」
アイドルは危険なビジネスだ。
美空○○りは19・・年暴漢に襲われた。
松田〇子は19・・年、沖縄で鉄棒で殴られかけた。
岡田○○のマンションには、熱狂的なファンが?時間立てこもった。
握手会で切り付けられる人気グループを見ても、そう思う。
まるで、アメリカの大統領みたいに狙われる存在なのだ。
確かに彼女の言うとおりだ。
「私は、あの時、本当に知らなかったのよ。
だって、事件の後部屋に戻れなかったもの。
マネージャーは別の部屋に私たちを閉じ込めて、その後も、一切事件について
教えてくれなかったわ」
アイドルを守るために大人たちは大騒ぎだったのだろう。
「そりゃそうよね、ファンが私たちを襲おうとしたって事自体、私たちに恐怖を
感じさせるだけだもの・・・」
「もう大騒ぎだったわよ。後始末も警備も水泳大会のスタッフ総出で
協力してくれたの」
それは不思議ではない。リロイズの四谷プロダクションは業界1位の事務所だ。
モモヨの所の非ではない。
そんな大きなところを危険に合わせたとなると、テレビ局は大きな借りを
作ったことになるのだ。助けることで、得はあっても損はない。
「ほんといろんな局だけじゃなくて、いろんな事務所の方が垣根を越えて
後始末してたわよ。でもね、その中に関係ない人がいたの・・
モモヨさんのプロダクションの人がいたのよ。山瀬さん・・
だって誰もあの事務所のタレントは出てなかったのよ・
何でいるの??って不思議だったもの」
おいおい、やっと点と点がつながった。
山瀬は、あの殺人が起きた日に同じ場所にいたのだ。
☆☆☆☆☆☆ もう一人のリロイズ
もう一人のリロイズ岡元由美の本名・武田美智子は、自らがオーナーのジャズ喫茶でコルトレーンの至上の愛の流れる中答えてくれた。
「武田さんですよね・・・」
「はあ、なんた何言ってるの・・・私は岡元って言うのよ」
「青森の八戸のあたりはにんにくが勇名だよね・・・」
「私は横浜生まれよ・・・・」
仕方がない、俺は報告書の内容を伝えてみた。さすがに本籍まで調べていることまで判ると、彼女もあきらめたようだ。もちろんテレビ局のディレクターが相手だけに番組にはしない、オフレコならという条件で話しが聞けることになった。
「わかったわ・・・何が知りたいのよ」
いきなり核心から攻めることにした。
「沖縄の話が聞きたいんです・・・1986年の沖縄の・・」
彼女は、ニヤリと笑った。確かに・・・
「はあ~、私たちのファンが死んじゃったやつね、ボディガードが部屋で取っ組み 合いになって打ち所が悪くて死んだのよ。正当防衛が成立して一件落着。」
彼女は、あっけらかんと話してくれた。
「まるで他人事だな・・・」
「だってよく知らないのよ。私たちはその人の死体も見てないのよ。」
「君たちの部屋で起こった事件だよ」
「何言ってるのよ、アイドルが南の島にいて、部屋にいる時間なんて
ほんと寝るときだけよ。あの日は、到着した途端ロビーでクルーと合流したら
そのままビーチでずーっと写真集の撮影よ。だから私たちは部屋に入ってない の。 で、仕事から戻ってきたら部屋のナンバーが変わっていた・・・
違う部屋に移動した・・それだけのことよ」
「でも、自分のファンだって聞いたろ・・・どうだった・・・」
「何にもないわ。だって他人だもの。あんたもディレクターならわかるでしょ。
そんなのONLY ビジネス!
犯人の部屋に私たちのポスターがあって、あと日記とかにリロイズらしい事が
出てたらしいけど・・そんな危ない奴のこと知りたくもないわよ。」
当事者は、リロイズではなく、このボティガードと事務所の人間だけなのだ。
じゃぁそのボティガードに話をきけばいいね・・というと
彼は、数年前に癌で他界したとのこと。
「でも、君たちは、その後、四谷プロをやめさされたよね・・」
彼女の顔色がこわばってきた。
「私たちはね、あれだけ働いて、月18万だったのよ。
あんたそれで我慢できるとおもう?」
できない・・・確かにその値段では…
「それだけじゃないわよ。ましてあの事件でしょ・・・
私たちは疲れだけなくて、恐怖まで感じながら、そのギャラではね・・・
だから事務所に掛け合ったののよ・・・」
恐怖もあって事務所に抵抗したのだ・・それは気持ちがわかる。
だが、そこまでの価値はないという判断が下されたというだけのこと。
それが芸能界だ。
「その後は、わかるでしょ。私は素行不良というレッテルを貼られてくびよ」
素行不良・・・これも芸能人の引退でよくてでくる理由だ。
まあ、本当に男にルーズで、時間にルーズでというのもいるが、
むしろ社会的に葬るための、事務所側の作った理由の事が多い。
「ところで、原田モモヨのマネージャーって知り合い?」
「よく仕事場で一緒になったけど・・・どうかしたの?}
「ああ、三日前に自殺したよ}
「そうなの・・・・」
「あれっ、沖縄で見たってもう一人のリロイズは言ってたよ」
「いたかもしれないけど、大騒ぎでたくさんの業界人とマスコミがいたから、
わからないわよ」
結局のところ、リロイズの秘密はわかったが、山瀬とは関係がないようだ。
四谷プロダクションのリロイズが、事務所の力で守られたことと
なぜか同じ時期に山瀬がいたことだけがわかった。
・・・・続く