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伝説の女神は眠り続ける

ここで、登場するのは、年端もいかぬアイドル少女と、狂気の世界に生きる妄想少年。

二人の出会いが、悲劇の始まりだった。

35年前、ある少年が、自分の部屋を暗くして苦悩していた。

眠れない・・・息が詰まりそうだ。

俺は誰?どうしてこの世界にうまれた。


たぶん世の中は狂っている・・・・リクルート事件もその一つ。

なだしお事件もそうだ。悪がのさばり、悪が生き残る・・・・

つまり、正義は死んでしまったのだ。


悪魔は、現実の姿を手にして、この地上に降臨してしまった。


その日も、私は、あの夢を見た。


電気鳥が、私に啓示をくれた。

電気鳥は、いつも私にラジオとコンピュータから語りかけてくれる。

美しいメロディーとともに。


悪魔は、この町に来ている。そう教えてくれたのも彼だ。


悪魔は、女の姿をしていた。


彼女は、しなやかな肉体と美しい声と優しい笑顔で

私をたぶらかす。


私の母は、厳格なクリスチャン。

淫らな思いを持ったら自分を戒めるように教えてくれた。


だから、私は、邪悪な空想を抱くたびに自分の身を鞭で

50回打つ。


それは、一打一打が耐えられないほどの激痛だ。

もう、身が持たない。


あの悪魔は、いつもはテレビから私を誘惑している。

それが、原因だ。電気鳥もそう暗示している。


テレビの向こうから、それだけなら、許せたのに・・・


悪魔は、この町にまで来て、私を誘惑するようになっていた。


悪魔がいる限り、私は幸せに離れない。


最初は、街角で見かけた。

まさかと思い、私はそこから立ち去った。

なのに、悪魔は手を緩めなかった。


今度は、カフェで見かけた。


従者をつれて、またあの笑顔を見せた。

しかも、私に向かって・・・・・・


私は、もはや逃げられないことに気づいた。

ならばこちらから攻めるしかないのだ。


悪魔は、ビーチのそばのホテルに隠れている。

どの部屋かも、私にはわかっている。

そして、悪魔を滅ぼすための剣もここにある。


私の淫らな思いを消し去るためにも、悪魔の徐縛から解放されるためにも、

私はやらなければならない。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



35年前、アイドル・原田モモヨは悩んでいた。


沖縄の離島の海は、世界でも類を見ない美しい紺青色である。

波が打つたび、ブルーのビロードが流れるような表情をかもし出し、

見るものの心を癒してくれる。


その自然の懐で、17歳の少女は悩んでいた。

「もう私は、だめかもしれない・・・」

その少女は、アイドルとして世に知られた存在であった。

だか彼女にとって、有名であることは気持ちのいいことではなかった。


デビューして、3年間悩み続けたまま生きてきたのだ。


「そもそも私は、この世界に向いていないのよ」

5分前にマネージャーに切り出してみたばかり・・・。 、


「何馬鹿なこと言ってるんだよ。お前を売り出すのにいくらかかっていると

 思ってるんだ。宣伝費だけで3年間で3億はつぎ込んでいるんだぞ。

 やっと少し回収できた程度・・」


「そんなことは、頼んでないじゃないですか?私は歌いたかっただけなのに・・・」


「甘いこと言ってるんじゃないよ。お前のやっていることは、ビジネスなんだよ。

 少なくとも、今やめる自由はないな。1億は借金があると思っていて欲しい」


冷静に、しかも数字でなじられながら、話はすぐに終わってしまった。

今年になって、数回、この話をしているが、埒が明かない。


そもそも、芸能界とは不思議な世界だ。まず歌手だが、レコードが売れると

もう大金持ちと勘違いされるのだが、なんと歌手に入る印税は一枚に月たった8円程度

一方10万枚売れるとベスト10にはいる時代なのだ。

つまりベスト10に入る曲とは、一枚1000円で1億円のビジネスでありながらも

歌手には80万円程度しか権利がない。

そのプロモーションで、全国20都市に出かけ、そのたびスタッフとして、マネージャーとメイクとタレントが動けば、10万はかかる。つまり20ケ所で200万円。

既に120万の赤字・・・・・さらにプロモーショビデオに300万かければ

数百万の赤字となる。



いままで5枚のレコードを出して、70万枚売れたらしいから、560万。

一年200万程度・・・

、歌手としての私はマイナスの存在だ。

さらに写真集にDVDにと、投資をしてくれている。

1億円のマイナスといわれても納得するしかない。


そう、私に自由はないんだわ・・・

かって、小さな港町で、かわいい小学生として、町のアイドルとして生きていた時は、歌う事だけが幸せで、そして自由だった。

そして、修学旅行で行った原宿で、この男に勧誘されたときも、

「トウキョウでスターになる」ことしか、頭に浮かばなかった。

煌びやかな衣装で歌い踊る・・・・天真爛漫にスターとして生きる

まさに、そこに見えていた未来は、自由な世界だったのに・・・・


そして、3年が経ち、私の名前は日本中で有名になった。

なのに・・・自由がない。

やはり、それはどう考えても、満足できないことだ。


明日もう一度話をしよう。


そう考えながらホテルの廊下を進み、部屋のドアをあけた。

誰かが、そこにいた・・・・・・・

それは見知らぬ男、たぶん私より2~3才年上・・・

それしか判らなかった。余裕はなかった・・・

彼は1メートル近い金属の棒のようなものを、私に力いっぱい振りかざしてきた。

「えっ!!」

とっさに、彼の懐に飛びこんだ。すると一瞬ひるんだ男だったが、

思いっきり私を跳ね飛ばした。

私は、フローリングにたたきつけられた。

後頭部に激痛が走り、意識が朦朧としてきた。

「もうだめだわ」

そう思ったとき、別の人影が、彼に向かって飛んできた・・・・

そして、私の目の前に、金属の棒が転がってきた。


そこから私の記憶は途絶えてしまった。


  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


少年は・・・倒れた。


電気鳥は、私に嘘を付いていた。

歌う悪魔は、そんなに強くないはずなのに・・・・

私の剣は奪われた。

油断していた後ろから・・・・やはり、こいつは悪魔だ。

悪魔の手は、ベッドカバーの上に2本あるのに…


そして、それは私の後頭部に衝撃を与えた。

そこから熱いものが流れていることに気づいた。

・・・・光が見える。白い光が・・・・

私は、悪魔の手で呪縛から開放されるのだ。

従者がニヤリとひきつりながら、わらっている。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


モモヨは、漆黒の闇から目覚めた。

目覚めたときには、暗い部屋でベッドに眠っていた。

「あれは何だったのろう??」


その頃、ホテルに警察が到着した。

そして、検証が始まった。

21歳の少年が死んだ。


ところが、誰も彼女のところに尋問には来なかったのだ。

「疲れてるんだわ・・・・変な夢ばかり見る」


再び彼女は眠りに落ちた。

翌日、彼女は、知った・・・私を襲った少年が死んだことを・・・

だが、殺したのは私ではないみたいだ。

私を襲った後、別の部屋にももぐりこみ、そこで起きた事件らしい。

マネージャーは、倒れていた私を見て、ベッドに運んだという。


「誰もいなかったよ・・・」


マネージャーの山瀬は言った。


私は、暴漢のことを話した・・・・殺されたのは、彼だと・・・

マネージャーは、


「お前はスターなんだよ。こんなスキャンダルに巻き込まれる必要はない

 余分なことはしゃべるな・・・俺がなんとかするから・・・」


そのとおりになった。

私は、関係がない話になってしまった。

そのまま35年間、事件は忘れられて、モモヨは、眠れる森の美女となった。


MAD-TVの高木というディレクターが、私を探し

止まっていた時間を再び動かすことがなければ・・・・

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