フロム・ザ・ダークサイド
邪魔なものもいなくなったし、いよいよ原田モモヨの番組が進められるかも・・
俺は、久しぶりに自分の部屋の風呂で、のんびり湯につかりながら
仕事の進め方を考えていた。
そんな時、また、タレントが暴漢に襲われる事件がおきた。
今大人気のそのアイドルは、握手会を大切にしていた。
全国で、年間何万にものファンと直接会い生身の手で握手をする。
そのためにレコードに握手券をつける。
おかげで、必ず50万枚のCDが売れる。
売り上げ5億のための握手会なのだ。
ところが、握手会の警備など、アルバイトである。
プロのボディガードならまだしも、素人が守ると言っても限界がある。
カッターとハンマーを隠し持って近づいた犯人は、
いきなりタレント向かって振り上げ、切り付けたらしい。
タレントは全治2週間のけがを頭部に追い、マネージャーは打撲・・・
それにしても、こういう事件は、後を絶たない。
ある歌手はスタージで塩酸をかけられ、あるものは家に押し込まれ銃で脅され
有名税と言うには、高すぎる代償である。
いつの時代も、繰り返し繰り返し、この芸能界の暗黒史は続いている。
モモヨの事件も、ダークサイドの事件の一つ。
ただ、こういう襲われるというのは、売れたスターの事件。
圧倒的に多いのは、売れずに裏の世界に転落するものたち。
今回は、グラドルの西條メグは薬物がらみで殺されている。
それにしても、不憫なものだ。
彼女は、中学生の時に、デビューした。
若くしてタレントとなってしまった彼女には、学がない。
数学も物理も英語も・・すべて中学で止まる。
そして、20歳になるころには、売れる売れないは大半決まる。
才能、運、タイミングすべてが、揃わないとスターにはなれない。
学歴のない彼女は、いまさらやめて。事務職とか営業職とか、
まともな会社には就職しにくいのは事実。
結局、スケジュール帳は真っ白の彼女も夜の世界に入るしかなかった。
あげく金持ちにもて遊ばれて・・・この世界からGOODBYしたわけだ。
それに比べるとモモヨなど、あっという間に売れて、あっという間に引退。
それでも印税で食うに困らないという、奇跡の確率を乗り越えた幸運の証。
ただ短いスターの時間に、グレーなシミがある。
売れて売れなくても、危険が一杯・・・・
それが芸能界なのかも知れない。
☆☆☆☆☆☆☆
そんなタレント襲撃が、世を賑わしている時も、
伝説の女王は眠り続けていた。
テレビはつけているが、聞いてはいない。
いつものように、過去の事を思いながら、
ペットのゾウガメと話していた。
アイドルが暴漢に襲われようと、自分の顔に整形したグラドルが殺されようと
すかしたIT野郎が逮捕されようと・・・・彼女の人生に関係はない。
その頃、俺は、あの頃テレビの企画を、さらに練り直していた。
局の方から、どうなっていると問い合わせがあったからだ。
四谷プロは、取締役が犯罪に関与していたので、
むやみにプレッシャーはかけられなくなっ。
それこそ、局から一言入れると、企画はすぐに通り、
全面的協力を約束してきた。
まあ、例の沖縄の暴漢の殺しがあるんだが。これを取り上げる気はなかった。
これは報道でやればいい・・・
そこに関しては、俺が真実を知りたいだけだ。
そんな時だった。
週刊誌は、ついに堕ちたIT野郎の出生の秘密にたどり着いていた。
「田村信一郎は、養子であり、東京から引き取られ岡山に連れてこられた」
ここまでは俺も知っている。
「そして、養子先の現在の母親が語った。
『あの子はこんな形で有名になってしまった。
それはあの子の血なんですよ』
我々は、まさかと思い聞いてみた。
『まさか、有名な方の血でもひいているんですか。』
母親は、なんも応えず、家の中に入っていった。」
おいおい、名前の通りだとすると、あの田村??
「我々は、その時、あの国民的大スターの名前を思い浮かべた。
数々の映画で世界的にも有名な俳優である。
犯人・信一郎は特別養子となっているが、実父実母の記載はない
逆に戸籍に信一郎の記述はない
秘密は、岡山に住む今の母親しかわからないのだ。
彼はいったい誰の血を引いているのだろう。」
その国民的俳優が田村連次郎を指していることは明白だ。
昭和の大スターであり、数々の映画でその名声を築き上げた連次郎だが、
すでに死去して十数年で伝説に化していた。
ネットもツイッターもなく個人情報がまだ漏れにくい時代。
そんな話があったとしても、おかしい話ではない。
スターの隠し子、珍しい話ではない。
週刊誌のネタが、世間に広がり始め、
田村信一郎の父親が、連次郎の可能性があり、では母親は誰だ・・・と
母親探しにインターネットの掲示板が大騒ぎになり始めたころ
当の伝説の女王は、ゾウガメに餌を与えていた。
今日の餌は、チンゲンサイ・ハクサイなどの葉
さらにリンゴ、バナナを少量
それらを与えながら、彼女はペットに話しかけていた。
「いろいろあったわね・・・でも、もう元マネージャーの山瀬の話も
もう世間は忘れてるわね・・ほんと嫌ね」
その通りだった。
マスコミは、秒速のスピードで新しいネタを探している。
山奥で死んだせいで、あまりに情報がなかった。
さらに原田モモヨが引退して久しいので、そこも盛り上がらない。
まして、プロに始末されたとしたら、証拠が出てくる可能性も低い。
「山瀬に聞きたかったわね。あの事件の事、知ってたみたいだし・・・」
でも、おかけで、あの悪夢もこの頃は見ていない。
「あっ、もう少しバナナがほしいのね」
台所に行くため、リビングをよごぎった。
大きな50インチのテレビでは、なにか有名なIT企業家が猟奇事件で
逮捕された事件を取り上げていた。
「田村信一郎は、自らが主宰するサクソンコープレーションの本社ビルで
ドラッグパーティを開催し、さらに覚せい剤の販売にも関与した疑いがあり、
覚せい剤取締法違反で逮捕されました。
押収された田覚せい剤は20㎏に及び、その時価は・・・・」
田村って名前なんだ・・・・連次郎と同じ・・・
と伝説の女王は、珍しく内容を確認しようと、画面に目をやった。
その時、犯人の顔写真が大写しになった。
「あっ!!!!」
右のまゆの上にあるできものと黒子。
そして、35歳という年齢・・・・そして、田村という名前。
「そんな・・・」
息子だ・・・・
彼女は、画面を見入ったまま、腰がくだけた。
最悪の再会だ。
「年齢も合っている・・・・・この子だ」
何も確証があるわけではないのに、女王は確信していた。
だが、テレビはさらに続けていた。
「田村信一郎は、岡山県出身で、苦学の末、○○大学在学中に
サクソンコーポレーションの前身となる・・・・・」
なんで、岡山かはわからない。
年商何百億という会社の社長になっていたのだ。
そして、ドラッグで逮捕・・・・
テレビはさらに続けていた。
「さらに田村信一郎は、昨年12月24日に六本木で不審死を遂げた
タレント・西條メグさんの死に関与の疑いがあり、
その方向からも警視庁は捜査をしている模様。
西條メグさんは、15歳で上京し、芸能活動を始めた
グラビアアイドルとして活躍」
画面に写された顔を見て彼女は思った。
まああかわいい子ね・・・・こんな子の死に、息子が関与しているの・・
「さらに今年逮捕された整形医○○○の手術で、顔を変え、
田村信一郎と愛人関係にあった模様
この手術も違法で、これにも田村は・・・」
次にうつされたのは、整形後の写真。
そこで、伝説の女王は、絶句した。
なぜならデビュー当時の自分の顔とうり二つだったのだ。
突然、涙が沸き起こり、彼女は泣き続けた。
「あの子は、知っていたんだわ」
息子が、母親の顔の女と付き合い、そして殺してしまった。
そこには、激しい怒りのようなものがあると、彼女は感じていたのだ。
「連次郎さんが、養子に出したんだわ・・・・
だからあの人の家に行っても、姿も見えなかったんだわ・・・・
ひどい人ね・・・・でも、連次郎さんの事は言ってないわね。
うまく隠したのね」
この時、モモヨは、雑誌が連次郎にたどり着いていたことは知らなかった。
スターは、三流雑誌など気にも留めないものだ。
その頃すでにマスコミは、母親探しに躍起になっていたのだ。
だが、里親は沈黙し、信一郎も口を割らない。
連次郎の過去を洗っても、原田モモヨの名前は出てこなかった。
一度も噂にも記事にもならなかった恋である。
たった一人のテレビディレクター以外に気付いているものはいなかったのだ。
・・・・・・・続く




