東京ネズミ捕獲大作戦
俺は、田村に狙われているとも知らずに
編集室にこもって、オフラインを続けていた。
そもそも、素材テープで40分の物を30本プレビューするだけで、12時間かかる。それをメモをとりながらやるから、丸36時間完徹、飯は食うから、これで二日間、さらに3時間仮眠で、いよいよオフライン。
これは、ちゃんとした編集室に入る前のコンピュータ上で画像を落としたデータでの荒編集と呼ばれるものだが、たった一人で、何度も繋ぎ直して、
12時間の素材を10分にまとめる。
これが一度で済むものではない。
それが、三日かかり、さらにポストプロで何億もする機械で本編集。
色や光度を整えスーパーテロッブに色付けたり、画像にオーバーラップかけたりして、朝までコース。
局のプレビューして、ナレーション書いて、今度はMAなる音の編集、BGMつけてナレーション入れて、やっと完全なるパッケージ、業界用語のカンパケになる。
ここまで休みなくほぼ1週間で、寝るのは10時間。
こんな生活をしていたら、早死にする・・・と思いつつも習慣なので
気にせずこれを続けている。
その間にモモヨのあの頃テレビの打ち合わせと、構成を考える。
報道の特集を抱え、さらにバラエティもやっつけていたので、俺は、ほぼ3週間、編集室とスタジオにこもっていた。
つまり、家の必要もない時間・・・
なので、俺は、久しぶりに家に戻った。
すると、家のドアは半開き!
さぁーっと血の気が引いたが、疲れも極限で、怒りが込み上げてきた。
「ふざけろよ~冗談じゃない!」
大きな声を上げて、なかに入っていった。誰かいれば、殴る気アリアリで!
もう玄関から、靴箱の中身は散乱し足の踏み場もないほど・・・・
「誰かいるのかっ!!」
こういう時には、声を出して威嚇しないと・・・・怖い怖い。
リビングキッチンは、さすがに何もないので、荒らされてなかったが・・
書斎にしている部屋は、それこそ、とことんやられて、
ごみ箱をひっくり返したような・・
パソコンもついたままで、中身をコピーして持ち出したんだろうな・・・
ちなみに「あの頃テレビ」というファイルが三冊あったが
それはなくなっていた。
そして、ベッドルームに行くと・・・・ベッドは、刃物で切り刻まれていた。
「勘弁しろよ・・・掃除が大変じゃないかよ」
俺が、捜査の記録をこんなところに残しているとでも思っているんだろうか。
そんな大事なものは、ハードディスクで持ち歩くというのに…
でも、俺は、いつもこういうことは想定している。
なので、まずは天井から、チェックを始めた。
レースのカーテンに隠れて・・・CCD小型カメラは壊れていない・・・
ベッドルームのステレオの中のカメラも・・・壊れていない。
さらに玄関の計器の下のカメラも・・・大丈夫と・・・・
どれだけ探しても、小型CCDカメラは三センチ四方で、箱に入れたり、置物に化粧したりすれば簡単には見つからない。
映像は、ワイヤレスで飛ばして、これはベランダの計器の中・・・・
ここのハードディスクに2000時間分収録できるので、問題ない。
俺はさっそく3ケ所から仕掛けた映像をチェックし始めた。
数人の・・正確には五人の、まあチンピラが部屋中を探している。
ベッドにナイフを突き刺したり、壁をごんごん叩いたり…ひどい所業だ。
2時間ほど探し回って、退散していった。
外に設置した一台に、面白い奴が映っていた。
間違いなく、田村のビルの警備員だ。
という事で、奴は、俺のハートに火をつけてしまった。
俺は、売れない整形グラドル西條メグの事件を洗うことにした。
サクソンの田村だ・・・絶対に何かやってるという確信を得た。
まあ、こんな楽しい事件、絶対どこかの局が買うだろうし・・・・
これは、金になるぞ・・・・・・と思っていた時、電話がはいった。
ところで、皆さん、船越警部の事は、おぽえてるだろうか?
この物語の頭にでてきた警部で、公務員だがミーハー、映像の学校を出ている
ものだから、捜査も変わっていて、テレビ制作会社を犯罪捜査に使っている、ちょっとブッ飛んだ警部だ。
そのスポンサーからの電話だ。
俺も仕事をもらって、稼がせていただいているので、無下にはできない。
「高木ちゃん、元気??」
やっぱり気付きやがりましたかな?
あの人、さすが警察だけに勘がいいからな~
「なんとか・・」
「ところで聞いてるよ~、田村のビルに張り付いてるって・・・
所轄のデカが邪魔で邪魔でしょうがないってぼやいてたよ」
完全に、あの件だ。
六本木心中事件は、いろいろあって、彼の所に回ってきたらしい。
「そうなのよ。僕担当になっちゃってね。
でね・・西條メグの心中事件は、殺人の疑いがあると・・・」
さすが、船越警部・・・・
「で、そっちは、何追ってたの?」
かいつまんで、今までの事を話した。
この人は、すでにかなり調べてから連絡する、
仕上げに俺たちのノウハウを使うだけなのでだませない。
こっちも、怪しいと思って、事件からメグにたどり着いた事を話した。
「すごいね~インタビューしちゃうなんて」
だが、話したのは、田村とメグの話だけ。
そもそもスタートが、伝説の女王の沖縄の殺人疑惑だなんて事は
話せない・・・・・仕事の駆け引きにも使えるし。
・・・・・・四谷の中本の話も、話してはいない・・・・
そして、やつらのまわりをうろちょろ探ったせいで、脅されていることも。
「なるほど・・・・まっいいや・・・でも気を付けてね。
高木ちゃんいないと、ドッキリ大作戦できないから、やなんだよ」
「はい、気を付けます」
「という事で、仕事お願いしたいんだけど」
俺にお鉢が回ってきた。
ウレシイのは、予算が警察から出ることだ。
低予算番組の多い時代だから、これはありがたい。
「じゃあ、いままでの資料一度頂戴よ・・・それで構成立てるから」
あんたは、番組の構成作家かよ と思いながらも
今までの経緯と資料を揃え始めることにした。
翌日、俺は警察に出向き、俺はインタビュテープやネットのプリントアウト、さらに俺のメモなどを渡した。
待つこと三日で、楽しい企画を発注してきた。
タイトルは、「東京ネズミ大作戦」
この地下に田村との関係するなんかあるらしい。
このあたりの地下道をくまなく探して異常を見つけるというやつ。
まずは彼の指定した場所30ケ所に、暗視カメラのレンズを
2週間つけて監視をする。
これが第一段階らしい。
何を監視するかは、まったくわからないが、ワイヤレスで映像はどんどんハードディスクにためられる。
で、その映像は、順次警察で分析された。
確かに、地下室のパーティが怪しいんだから、このポイントを探ることは
おかしくはない。
だが、前にビルの設計図は見たが、地下は1階しかなく、それじゃ地下道には
通じていない。
なんか別のルートでも見つけたにかな~
そういうわけで、俺とスタッフは、何度も地下に潜ることになった。
そもそも下水が流れてるんだから、臭いし、何を食べているのかでっかい栄養満点のネズミと、嫌と言うほど遭遇するし、なかなか陰鬱な仕事ではあったが、
予算は上積みらしいし、文句は言えない。
そんな事を2週間続けた。
「ネズミは確認したから、次はネズミ取りだな・・・・
500万で、これ作ってくれる?」
今度は美術の発注だ。
そこには、楽しそうなネズミ取り器が、汚い絵で描かれていた。
この人、発想は素晴らしいが、絵の才能はないな・・・・
簡単に言うと、地下道のある場所をまず塞いでしまう。
これが、中をシリコンで厚みを持たせ、表面だけコンクリートのパネルを
合わせていきふさいでしまうという方法で、高さがあるので二日かけた。
で、周りの壁と違和感のないようにして、通り抜けられないようにした。
実は、思いっきり体をぶつけると、パネルが崩れて、シリコン部分が
むき出しになり、さらに強気に突き進むと、向こうに行ける可能性はあるが、
人は、見た目が違和感がなく、叩いてもコンクリートだったら、
それを信じるものだ。
それは、俺もそう思う。
そして、すぐそばに梯子を作った。
上を見ると、マンホールの出口が見える。
そんな偽物の昇降口を設置した。
これが罠で、実は、マンホールの上に小部屋があり、誰かがここに入ると
小部屋の檻が自動的にしまる。
というネズミ取り器の理屈であった。
で、ここから二日徹夜で、ここにいる。
俺たちは、屈強なカメラマンと暗視カメラ、バッテリーにライトなど照明器具
さらに高感度マイク・・・・・で息をひそめて待機。
そして、やっと水曜日の夜も2時を過ぎた時、足音がしてきた。
だんだん音が近くなり、ふさがれた壁をドンドンとたたいたが、やがて諦め
例の昇降口の梯子を上り始めた。
しばらくして、ガチャンという音がした。
「逮捕だ~」
船越警部は銭型警部のように叫んでいた。
そして、その号令で、30名近くの警察が、それこそネズミのように
偽物の昇降口へと向かった。
「何をするんだよ~」
ネズミがわめいている。
「麻薬取締法現行犯で逮捕する~」
10分もすると、手錠につながれたネズミが確保されて梯子を下りてきた。
「警部、ありました」
身分証明のようなカードが渡された。
逮捕されたのは、ネクソンコーポレーションの警備員の一人だった。
手には、小麦粉のようなものを持っていた。
見慣れた風景だが、袋の一部を破り、粉をなめている。
「覚醒剤だな・・・よし連れていけ」
やっと臭い、地下から脱出だ。
車にネズミを押し込めながら、船越警部が言う。
「いいね。最高のネズミがかかったよ。で映像は証拠だから頂戴ね。
それにしても、いいネズミ取り器だったよ・・・ほんとに500万でいい??」
警部は、薬物の搬送ルートをつかんでいたのだ。
「はい、僕も脅されてるし、原価でいいっすよ。
でも、こいつはどこからどこへ運んでたんですか?」
「それは捜査上の秘密だよ。でもサクソンの警備員だからね・・
明日、サクソン行くけど、来る??」
「はい、もちろん」
「そうこなくっちゃ!!!」
もう3時間もするとサクソンの始業時間8時30分だ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
伝説の女王にとって、世の中の事件は、ほとんど関知しない出来事であった、
グラドルが六本木のラブホテルで死のうと、もぐりの整形医が自分をモチーフに整形を繰り返そうと・・・そんなニュースは、見てもいなかった。
彼女は、世間を隔絶していたのだ。
まして経済誌やトレンド番組で、IT長者が騒がれようと、
テレビもたまにしか見ない・・・・つけていてもスルーしているので
彼女が知る由もなかった。
彼女は、時間を止めていたのだ・・・・
引退してから、ずっと・・・・
そして、子供を奪われてからずっと・・・
彼女の時間は止まっていたが、外の時間は動き続け、彼女に迫っていたのだ。
☆☆☆☆☆☆☆
1時間後、売人が指定の客の所に来ないので、サクソンは大騒ぎになっていた。
「何・・・・来ないのか・・・誰だ」
「橋本と言うやつです。この作業を、もう3年続けてます。
ただ真面目な奴なんで、逃げるとは…」
「心当たりをとにかく探せ・・・誰かに襲われていないかもだ」
「はい、敵対してるやつらは、全部締め上げます」
仲本は自宅から、指示をだし、売人の確保に懸命であった。
まさか警察が、ネズミ取り大作戦を展開しているとは思わないので、
話は、売人が襲われたか、売人のトンズラの方向で進んでいく。
後、2時間で、サクソンの始業時間だ。
仲本は、田村所長に電話を入れた。
「ご報告が遅れました」
かいつまんで話した出したが・・・・・
「中本さん、もう出ないと、会社の始業時間に間に合わない。
どうせ、警察もまだ動いてないでだろう」
「そうですね・・」
「万一、警察だとしても、3時間でここにたどり着くわけないしね」
ほんと甘い奴だ。
だが、最初から網を張っていたら、警察はすぐ来るのに・・・・
それは予想もしてなかった。
「後は、会社で話しましょうよ」
「はい判りました。警備部長も呼んでおきます。」
「そうしてください。そこで対策を考えましょう」
田村は、8時30分ちょうどに、赤いテスタロッサで到着した。
その姿を、車の中で望遠鏡で見ている男たちがいた。
「田村が入りました」
「四谷プロの中本も5分前に裏口から入りました」
無線で、報告が届く。
「8時35分 突入~」
警部の怒声が響き渡った・・
社長がビルの中に消えて5分。
船越警部の命令とともに、1Fにいた私服刑事は立ち上がり、
俊敏に受付嬢の所の電話をとりあげ、警備員を制圧。
さらに2階のフロアにいた刑事も、警備員を制圧。
「警察です!!動かないでください」
「あっ、ダメです。携帯も電話も、禁止です。
さもない公務執行妨害で、逮捕します」
フロアにいる人間全員を制圧し、携帯電話もPCもとりあげた。
先行隊が30秒で完全に制圧している間に、船越警部を先頭に50名の制服警察がビルに入ってきた。
ゆるりと船越警部は、受付嬢に尋ねた。
「社長は、何階ですかね」
半数の人員を残し、3基のエレベーターで10階に向かった。
社長室のドアで、声をかけるのは俺の役目だ。
「MAD-TVの高木です。」
ドアの向こうから、秘書の声がした。
「アポイントがありません。ご遠慮ください」
下からの連絡がないから暢気なものだ。
「いえ、大切な話があるんです。この前のインタビューに重要なものが
写ってたんです。
これを見ていただかないと…社長にとってもよろしないかと・・・・」
しばらくして、メガネ美人の秘書がドアを開けた・・・がそのまま固まった。
当たり前である。
俺の後ろには、鼻息荒い船越警部と以下25名の警察が迫っていたのだから…




