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テレビ制作会社・マッドテレビが行く !

今や、テレビの世界も不況の嵐!

予算は削られるは、ギャラは押さえられるは!

そのくせ、映像だけはどんどんきれいになる。

お陰で機材費編集費だけはねあがり、制作費は安くなり、クオリティは落ちる。


そもそも、3Dといい4Kといい、客は求めてない。

家電メーカー様様の為の国策だが、全く無駄遣いでしかない。


そう言う訳で、テレビ屋も食うためには、色々やらなきゃいけなくなる。



人は様々な顔を持っている。

イケメン・ブサイク・ワイルド・美人・セクシーという“造形の顔”。

インテリ・富裕層・家柄といった“雰囲気の顔”。

人の数だけ、顔の種類はある。

人は様々な顔を持っている。


そして――就いている職業もまた、一つの“顔”だ。

俺の顔の一つは、テレビディレクター。

かつては“花形”なんて呼ばれた時代もあった。

だが、それはもう遠い、遠い昔の話だ。


実際のところ、この仕事はかなりやくざな稼業である。

24時間いつ呼び出されてもおかしくない臨戦態勢。

終電まで働くなんて当たり前で、それでも金はないし、睡眠もないし、

“安定”なんて言葉とは無縁だ。

中居くんの件で業界が注目されてから、急に襟を正し始めたが、もし昔のやり方を遡って訴えられたら、テレビ局なんてひとたまりもないだろう。


パワハラが当たり前だったのはテレビだけじゃない。

ただ、巨大企業になったぶん、今は逆に弱くなった。

スポンサー様あってのテレビ。

もはやスポンサーの奴隷と言ってもいい。

昭和の花形は、いまやスレイブだ。

――それでも、好きなんだよね。テレビってやつが。

食うためなら何でもやる。

しかも“楽しく”やるのが、俺の信条だ。

そして、それもまた、俺の“FACE”のひとつなのだ。


まずは、軽いエピソード1から、物語を始めよう。


カメラマンなど技術クルーを 俺が連れて行ったのは 郊外のニュータウン、

ゆめが丘ニュータウンの分譲地は、まだ三割くらいしか売れていなかった。

関東近郊とはいえ、都心に1時間半かかるこの地は、そんなに人気がなく しかも世の中、不況なので仕方がない。


中田家は、ニュータウンの一角にあり、まだ両隣はサラ地のままで、 ぽつんと立っていると言う感じ。 午後三時、その家の周りは、たまに営業車のようなものが通っていくだけで閑散としていた。


一見 平穏な住宅がたたずむ一角で、事件は、そこで起きていたのだ。


「奥さん、悪い・・・・でもあなたには死んでもらわないと・・・」


背広を着た40歳くらいのサラリーマンが、汗びっしょりでナイフを持ち、 30台後半の主婦らしき女性にじわじわと近づいていた。


「あなたの旦那が悪いんだよ。旦那の銀行が、どうしても、金を貸してくれない んだよ。そう、300万融資してもらえれば、助かるのに…」


銀行員の妻に逆恨みで迫る男。だが、この主婦は危機管理能力が高かった。

一ヶ月前、郵便受けに脅迫状が届いた時点で、すぐに警察へ届けていたのだ。


おかげでこちらも準備万端。

俺たちは張り込み、モニター越しにその様子を見守っていた。

そろそろだ――そう思った瞬間、指令が飛んだ。

リビングの壁がミシミシと軋み始める。

続いて天井がグワングワンと揺れ、歪み出した。


「じ、地震だ……!」


男は殺意を忘れ、反射的に床へ伏せた。

突然の揺れには、人間はまず身を守ろうとする。

揺れは止まらず、壁が外側から強く引っ張られるようにズレていく。


「今だ、行けぇ!」


外から野太い声が響いた瞬間、バリバリッ、グーンという轟音とともに、

壁と天井が一気に引きはがされた。

床だけを残して、家が“開いた”のだ。


「逮捕だー!」


銭形警部ばりの声が響き、15名の制服警官が雪崩れ込み、

男を取り押さえた。


「米沢たかし、現行犯で逮捕する!」


主婦は呆然としながらも保護され、犯人も同じく呆然自失。

外には四台のクレーン車が並び、それぞれが壁や天井を吊り上げていた。

そのすぐそばには、四台のテレビカメラ。


――そう、これは警察とテレビ局の合同の

   “張り込みドキュメント”の撮影だった。

なんともハチャメチャ。

こんな破天荒な捕り物帳を仕掛けたのが、○○署の船越警部である。

「船越警部、こんな感じでいいですかね」

「いいんじゃない、高木ちゃん。ほんと仕事が完璧だね」

「まあ、ドッキリの延長みたいなもんですから楽っすよ……で、これ請求書」

「二千万……もう少し負けてよ」

俺、高木ヤスヒコの本業はテレビディレクター。

勤め先のMAD-TVは、いわゆる制作会社だ。

だが、不況で仕事が減り、最近増えてきたのが――

こういう“警察からの依頼”による事件解決のお手伝いである。

証拠現場の録画・録音、捜査段階でのリサーチ映像、

とにかく犯人逮捕に関してテレビ屋ができることなら何でもやる。


今日の案件は、かなり大規模だった。

「犯人が被害者を襲う瞬間を、現行犯で押さえたい」という依頼。

そこで俺が提案したのが――

「じゃ、家を作って、やばくなったら壁を引っぺがして確保する……

 ってのはどうです?」


くだらないが、犯人が予想していないという点で効果は絶大だ。


ちなみに経費はこんな感じだ。

家の建築に500万、改装に500万、重機で200万、エキストラ100万。

合計1500万で、粗利は500万。

さらに映像を局にニュースとして売って200万。合計700万の利益。

自社のYouTubeチャンネルで再生が伸びれば、追加で20〜50万。

日芸卒の映画オタク・船越警部だからこそ出てくるアイデアだ。


で、今回のドッキリ大成功ってわけだ。


「でさあ、次の案件なんだけど……」

今度の作戦名は「やどかり大作戦」。

覚せい剤の売人の家族が、とあるマンションに住んでいるらしい。

右隣はずっと空き家、左隣は来週空く予定。

そこで、両隣に“家族”を用意してほしいという依頼だ。

証拠を集め、逮捕のタイミングを計る。

まさか犯人も、両隣が仕込みの家族だとは思うまい。

予算は八千万。

まずはエキストラの手配だ。

右隣には若夫婦(月25万)、左隣には子供二人の家族(月40万)。

美術は不要なので、ほぼ人件費。

高感度マイクと小型カメラ、家庭用ビデオは会社の備品。

仮払い40万。一ヶ月で済めば、半分くらいが利益になる。


「いいですよ。でも最高で一ヶ月にしますね。そのあとは別途予算で」

「ああ、わかったよ」


こうして仕事は続く。

警察が発注元だから危険は少ないし、取りっぱぐれもない。

――だが、まさかあんな大事件に巻き込まれるなんて、

その時の俺は予想だにしていなかった。



俺が出会ったのは、テレビという華々しい業界を舞台にした――

ミステリーというか、スリラーというか……。


軽佻浮薄を自負しているテレビ屋の俺が、

気づけば社会の暗部に足を突っ込んでしまった、ちょっと悲しい物語だ。


しかも、その内容はテレビでOAするには、どう考えてもハードすぎる。

だから、こうして小説にしてしまおうというわけだ。

一応書いておくが「登場人物は、現実の人物・団体とは一切関係ありません」。信じるかどうかは、読んでいるあなた次第。


テレビ業界とは、魑魅魍魎がうごめく世界である。

構図は、キー局を頂点としたピラミッド型の“奴隷制度”。

フジテレビ、日本テレビ、テレビ朝日……

その下に無数の制作会社が林立し、さらにその下に技術会社、美術会社、スタイリスト、ヘアメイク……たった一つの番組に、何百人もの人間が関わる。


いまや局の人間だけで番組を作ることはほとんどない。

企画、台本、ロケ、編集――

クリエイティブの中心は、完全に制作会社の時代だ。

ただし、儲かるところは局が握る。

下請けは金銭的に追い込まれ、労働は過酷。

まあ、これはどの業界でも似たようなものだろう。


皆さんが想像する「テレビの仕事」は、ほぼ制作会社がやっている。

キー局はむしろ、スポンサーの子供や親戚、有名タレントのJr、

CMを取るための営業人材が多く、クリエイティブさは低い。

……と、くどい話はこのくらいにしておこう。


簡単に言うとだ。俺たちがいなければ、M〇みたいなお笑いも、

めざ〇〇テレビやスッ〇りのような情報番組も、

アイドルも、音楽も、野球も、サッカーも楽しめないわけだ。


俺のいるテレビ制作会社 MAD TV も、その一つ。

社員20名、年商4億円の小さな会社。

俺はそこで10年目を迎える中堅ディレクターだ。


ギャラは局の半分以下。

社長はいつも渋い顔で「節約!節約!」と叫んでいる。

だが、仕事を辞めない限り、ずっと現場で制作ができるのは魅力的だ。

そして何より重要なのは――

「ネクタイをしなくていい」。

俺がここにいる理由は、実はそれだけだ。

テレビ業界のあれこれは、おいおい説明するとして……

そろそろ本題に入ろう。


そう。俺がぶち当たってしまった、あの“殺人”について――。



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