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魂に課せられた宿命

 シルヴィアは一息つくと、言葉を続ける。


「問題はそれを誰が使うかです。神は神を殺せない。それはわたし達には覆してはいけない理。だからこそ、わたし達はその理から外れた、人間の中で並はずれた魔力を持つ者に殺せる神殺しの能力を与えた。それがアーヴァン家の人間です。アーバン家の能力は神に対してその力を最大限に発揮します。ただ人間では神に勝てるかは不確定要素が多すぎた。単純に魔力の差が比べ物にならず、殺す前に殺される可能性もある。神は人間を殺せる。だからこそ、同時に人間でも神でもない神を殺すことに関して非常に強い能力を持つ魂を作り出しました。その魂は神殺しの役目を授かるまで天上界のある場所に閉じ込められている。それがレイラを形成する魂です」


 レナルトは思いもよらぬ話に、シルヴィアを凝視する。


「レイラの魂は意図的に作られたもので、その魂を宿すためにアーヴァン家があると?」


「結果的にはそうね。それで秩序が守られ、うまくいっていたの。でも、わたしと兄は同じ地に住むある神を追放しました。彼はわたし達がしてはいけない禁忌を犯した。だからこそ神としての力も、能力も、そして記憶までも封印した。それがウルモです。けれど、わたしや兄が考える以上に、彼は大きな力を持っていた。彼の記憶も、能力も十分には封印できていなかった」


 シルヴィアはそこで息を吐く。


「ウルモ自身も、封印が未完成だと分かっていても、表ざたにはしなかった。自分のしたことがいかに罪深いことか分かっていたのでしょう。彼は人として生きながらも、わたし達には知られないように、その力を人のために生かそうとしたようです。彼は神であった頃の知識と能力を使い、ヴァルクスの国ほ保持に大きな役割を果たした。そして、彼はこう自らの名前を名乗りました。ノール、と。だからこそノールは他の血族とは違う力を持っています」


「じゃあ、シルヴィアとレイラは神の、そしてウルモの子孫として生まれたのか?」


 レナルトの問いかけにシルヴィアは頷いた。


「その後、彼は人として輪廻転生を繰り返していきました。神としての記憶と能力も徐々に弱くなっていきました。そんな時、彼は今生で、ケヴァドのヤルヴィ一族として生をうけた。権力を持ち、多くの人の生活を目の当たりにしたようです。彼は心を痛め、自分がヴァルクスに自分が残してきた魔法を使えば、ケヴァドの今の状況を打破できると考えたようです。彼は自らの親をも操り、ヴァルクスとケヴァドの統合の話を持ちかけてきた。だが、マハトはそれを拒んだ。ヴァルクスとしても当然でしょう。今、問題なく国が回っている。その現状で他国の要求をのめば、ヴァルクスの民の現状を維持できるか分からなくなる。ウルモの事情も知らないのだから」


 シルヴィアは銀の髪に触れる。


「ウルモにはもともと自分が作り出した魔法という意識があった。だからこそ、ヴァルクスに断られるとは思いもしなかった。そうしている間にも、土地は痩せ、ケヴァドの国は貧しくなる。ケヴァドは能力の高い魔法使いがたくさんいる国。その能力を使い、土地を拡大して豊かになる方法を模索したようです。けれど、ケヴァドはまだ豊かな方だった。土地を拡大しても、その土地の人に配慮をしていったため、より貧しい地域に富を吸い上げられ、ケヴァドは貧しくなる一方だった。彼はやはりヴァルクスを、自分の子孫であるノールを手中に収めるしかないと考えたのよ」


「だからこそ、あの戦争が起こったのか」


 シルヴィアは頷く。


 だが、彼女の話に違和感もある。マティアスは未来をいかほどかは分からないが垣間見ることができたはずだ。


「マティアスに未来が見えるなら、なぜその時マハトに提言をしなかったんだろう」

「それはマティアスにしか分からない。彼にどの程度未来が見えていたのかを含めて。未来が見えるからこそ、その流れに従おうとしたのかもしれない」


 彼女はゆっくりと息を吐いた。


「彼が不穏な動きを見せ始めたのはそのすぐ後。今から二十年程前です。本当はそのときに彼を止められれば良かったけれど、それは難しかった。そして、マティアスは気付いていたようでした。自分に自らの比でない、神殺しの能力を持つ娘が生まれることも。だからこそ、彼は神の血を引くノール家の娘、ヴィヴィアと結婚をした。そして、わたし達はその娘に神殺しの魂を宿した」


 話を聞いていたレナルトの心に疑問がわき、彼女を見据える。

 レイラがノール家の血を引く意味だ。


「何でノール家の血が必要だったんだ? レイラがアーヴァン家の娘として生まれれば、それだけでウルモに匹敵する力を持つはずだよな?」


「神は神を殺せない。ウルモにレイラを殺させないためよ。本来のレイラを殺せる可能性のある魔力を持つ人間は、今のところウルモ一人なのだから。そして、レイラに神の血を引かせることで、従来のアーヴァン家の当主よりも強い力を備える事ができる」


「ノール家の人間はみんなそうなるのか?」

「ノール家の人間の全てがというわけではないの。その中で極まれに神としての能力を強く持つ物が生まれる。要はそうした者をウルモは殺せない。わたしやレイラがその最たる例ね」


「逆に、その話だとレイラはウルモを殺せないんじゃないか?」


 シルヴィアは首を横に振る。


「レイラには神殺しの能力が何よりも強く出ているし、魂の特性上優先されるの。だから、余程のことがない限り、その能力は保持しつづけられる。彼女はある意味特別なのよ」


 レナルトの中で今までのことが腑に落ちる。なぜマティアスが自分の娘をあれほど気遣っていたのか。ウルモやルーフェのレイラの態度に対する言動の理由がそこにあったのだ。


 彼らはレイラだけを特別扱いし、レナルトに対しては人間だと幾度となく宣言していたのだ。記憶を取り戻したレイラ自身も自分がなぜ生まれたのか、どんな使命を課せられているのか自覚していたのだろうか。今朝見た彼女の澄んだ瞳がレナルトの心に穴を開ける。


「レイラにウルモを殺させるために、この世に生まれさせたと。レイラは何のために生まれてきたんだよ。ヴァルクスでは周りにバカにされ、化け物扱いされ、家族も失い」

「それらも全て決まった事なの。彼女がアーヴァン家を継がなければ、神殺しの力を十二分に発揮できない。そして、レイラはウルモを殺し、自らの役目を終える予定よ」


 血を正確に引き継ぐには、その家の当主になる必要がある。そのためには前当主であるミーナの死が欠かせないと言いたいのだろう。理屈は分かるが、レナルトは自らの拳が震えているのに気付いた。彼女の抱えた宿命に対する怒りだ。同時にウルモの言っていた「道具」の意味を痛感する。

 レナルトにとってレイラはどんな特別な力を持っていようとも、他の誰にも替え難い幼馴染だ。


「そんなことさせない」


 シルヴィアは悲しみを含んだ目を細めた。


「わたしも同感よ。わたしはレイラを手助けするためにこの地に生を受けた。だからこそ、わたしがウルモを殺そうと思う」

「でも、神は神を殺せないと」

「やってみないと分からない。それに今のわたしの体にはいくばくか人間の血が流れている。その力で彼を殺せる可能性も万に一つはある」


 彼女は小さな手を握りしめた。

 レナルトはシルヴィアの決意を込めた瞳に、彼女なりの苦しみを感じ取ったのだ。


「これは推測にすぎないけれど、あの魔力の溢れる穴もウルモが原因かもしれない。彼は大地を治める神だった。だから、自らの力の破片の残る大地から魔力を吸い上げようとしたのかもしれない。ヤルヴィの隠れ家には魔力を吸い上げる魔法が築き上げられていた。それは街を張る結界や、場合によっては人にも与えていたんじゃないか、と。だからこそ、ケヴァドには強力な魔法使いが多いと考えると合致がいく」


「でも、生物が最近狂暴化したというのは? その話だと昔からその兆行が出ていてもおかしくないのに」


「恐らく彼らはもっと効率の良い魔力源を見つけたのよ。それがあの隠し家にいた白い鳥。あの鳥には神でいた頃のわたしの魔力を預けていた。だから、魔力を集めるのに効率の悪いあの穴は放置され、動物たちがその存在に気付いた。そして、動物達が強い魔力を持ち、その強い魔力に操られるように狂暴化したのではないかと考えている。並の心であれば、強い魔力と共に狂ってしまう。それは動物も例外じゃない」


 あの切れ目から出ていた魔力も甚大なのに、それ以上の力を目の前の少女が秘めているとは素直に受け入れがたい気持ちもある。


「レイラがウルモ以外の神を殺そうとしたらどうする?」


「止めないわ。神殺しの能力を持つ彼女がそうすべきだと思えば、それが真実であり、彼は抵抗せずに受け入れるでしょう。彼女がわたしを殺そうとしてもわたしはそうするわ。彼女は同時に審判者としての役目も担っているのだから」


 そうシルヴィアは微笑んだ。


 今まで黙っていたユーリーがレナルトの手を握る。

 彼が今の話を理解しているのか、聞き流しているのかレナルトには分からなかったが、碧の目には何らかの決意が宿っているように見えた。


 それからは無言で山を登り続けた。足に疲労を感じ始めた時、レナルト達の視界に大きな岩が現れる。そこの岩には大きな魔法陣が彫られている。


 シルヴィアはその魔方陣を一瞥すると、手を伸ばす。その魔方陣を縁取るように金の光が浮かび上がる。


「今から、ウルモとレイラのところに行きます。でも、異変を感じた時にはユーリーを連れて逃げて。アーヴァン家はレトネンで唯一魔法を自在に使える血族なの」


 シルヴィアはレイラの石をレナルトに託す。


 レナルトが頷くと、シルヴィアは呪文の詠唱を始めた。


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