帰郷日記バージョンです
文章ではなく短歌の方を読みたいという方がおられましたら、次話で短歌風に整えております。
・行きの車内
車窓から夾竹桃の花を見た。人が揃えた綾に見惚れた。素朴さを夾竹桃の群れに見て、アスファルトには違和を覚えず道端で彼岸花でも見た時の懐かしさだけそこに覚えた。
・到着
百日紅とか花ならば見紛うが、アスファルトなど違えようない。夏草が香らなくても土は土。そういうものと知っていたのに、人の手に整えられた夏の草その彩りに郷愁を見た。陽炎に揺らぐ緑を見て取って、草の香りを望んでしまう。
・一夜明けて
建屋下、陽に炙られたコンクリのその足下に土を感じた。焼け付いて蝉まで焦がすアスファルト、蟻はそこまで這い寄っていた。蝉はまだ脱皮のさなかのままで朽ち、其れが近くの土を教えた。
・散策
顔を上げ夏の田舎を見回して、すっかり舗装の済んだ道見た。ネコジャラシとかが生えてる路肩なく、けれど遠目に田圃が見えた。姿換え記憶と違う夏の里、それでもここで土の香を嗅ぐ。
・最後の朝~帰宅
朝の蝉、儚く幽けき喧騒に心持ちだけ壁を感じる。網戸開け見るとそこにはガラスなくただ涼しさが静けさを生む。青空と削れた山と鰯雲、電線もなく広がる空が夏の日ももう終わりだと告げていた。空と線路は彼方へ続き、彼岸過ぎ車輪が目指す街の日々その秋口の風すら思う。積乱の後ろを過ぎる秋の雲、箒で掃かれたかのような雲。そういった秋の予感が次々と帰路の間も思い出となる。
去年の夏の思い出です。田舎で感じた空気の幾許かも伝われば幸いです。