表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【外伝】Prince of betrayer  作者: 氷鴉 刹
第一部「裏切りの皇帝」
3/5

Page3 全ては伝承の御儘に

 次第に縮まる距離。

激情に揺れる瞳と全てを塗りつぶしてしまうような藍がかち合う。

「親父を、敬愛していたのは、全て、演技か?」

 奔流は今にも溢れんばかり。

目を閉じ、押さえ付けるように首を振りつつ青年は問うた。

それに藍は悠然とした態度で挑む。

「屍に、愛情は抱けないよ」

 ひやり。

刃は容赦なく胸を貫く。

「私情を捨て、迅速に継承をし、国内の混乱を鎮める義務があるんだ。そして……」

 “僕は裏切り者にならねばならない。”

 凛とした宣言にこの場に居た全員は何事かとどよめいた。大臣のダンケルを除いては。

「何?」

 青年もその一人である。

「どういうことだ?」

 怪訝そうにこちらを伺う青年。

彼に緩やかに笑いかけるアーネイ。

「そこの侍従、刀をアヴェンに渡してくれないかな」

 その笑みの裏、絆に別れを告げた。

「アヴェン、君の継承者の証を見せておくれよ」

「は? 何で態々……」

 半信半疑のまま、青年ことアヴェンは侍従から白龍刀を鞘から抜き、掌を切り裂いた。

純白の刃は深紅に染まる。刃を伝い落ちる赤は床を汚した。

「笑えねぇ冗談だ。何、偽物持ってきてんだよ?!」

 アヴェンはキッとアーネイを鋭く睨んだ。

アーネイは動ずることなく淡々と紡ぐ。

「それはまごうことなく本物だよ。継承権を喪失したんだよ、君は。そしてその継承権は、今や僕に在る」

 アーネイはアヴェンに悠揚たる態度を示す。

そっと白龍刀をその手から奪い、アヴェンと同様、掌を切りつけた。

忽ちに刀の深紅は吸い込まれた。

 唖然とする顔顔顔。

それを見てふわり、笑みを浮かべるアーネイ。

「てめぇ……なにをした?」

「いいや、僕は何もしてないよ」

「誤魔化すんじゃねえ! 何をしやがった!」

 白龍刀が生き血を一滴も漏らさず吸収すること、それが出来なければ直系であっても継承は赦されない。

「この前の、シーナ防衛戦の時までは確かに君に継承権があった。それが今は……となると原因は一つじゃないかな?」

 思い当たる節はただ一つ。

急死した前皇帝、アリューセンであった。

「親父のクソ野郎……」

 国家をより強固なものにするために、と息子の許嫁にクォート家の娘を指名しておきながら、アリューセンはクォート家を酷く毛嫌いしていた。

「兄のせい? 無知な君は幸せ者だね」

 冷たい眼差しはアヴェンを射抜く。

それは心からの皮肉であった。

「どういう意味だ?」

 怯むアヴェン。

無意識に一歩後ろへ引く。

「伝承を十分理解し得ない君が、継承者なんて滑稽でしょう」

 逃れるアヴェンの肩を掴み、慈愛の欠片も無い凍てついた眼差しと共に吹雪のごとく強烈な寒波で止めを差す。

ついにアヴェンは言葉を失った。

「僕は僕。何と言われようと、僕は先に進まなくてはならないんでね。……ルシフェル様の御ままに」

 そのまま解散と命じ、会議は閉幕する。

新たなる王者に跪き、そしてその掌に接吻する。

その光景に背を向け、アヴェンは何も言わずに、部屋から出ていった。

「そう、アヴェンはやっぱり……」

 皆が退出したのを確認し、ふと言葉を漏らすアーネイが居た。

(裏切りの契りを強いることでしか、もう、この国の平穏は護れないのですか? 兄さん)

 誰も裏切り者の眼に光る涙に気付くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ