理由
「――おはよ、暖斗くん! 今日も――」
それから、数日経て。
扉から少し離れた辺りで、今日も今日とて晴れやかな笑顔で挨拶をしてくれる鮮麗な女性。そして、その手にはいつもの通りランチクロスに包まれた長方形の……あの、いつも言ってますけどほんとに結構ですよ? ご存知かと思いますが、ちゃんと食事出ますし、施設。
「――それでさ、暖斗くん。今度こそどっか遊びに行こうよ。もちろん、お金は私が全部持つから!」
「……いえ、その、結構です」
すると、心持ち距離を詰めそう口にする奏多先生。そんな彼女に、たどたどしい口調で断る僕。……いえ、その、結構です。そもそも、僕と遊びにいくなんてこと自体、誰にとっても罰ゲームでしかないはずなのにその上お金まで全部持つなんて、それではあまりに彼女が不憫で――
……いや、こんなのはただの口実。ただ、僕の気が進まないから。明け透けに言えば、ただ嫌だから断わっているだけで。
……ほんと、なんでここまで……もしかして、僕に哀れんで? いや、哀れんでいるとしても……でも、だからってここまでするだろうか? だって、僕が受けたような被害は決して僕特有のものじゃない。似たような被害に遭った人は、きっとこの施設だけでも少なからずいる。そもそも、事情は違えどここにいる子達はそれぞれに苦痛を抱えているはず。そういう意味でも、やはり僕だけを特別扱いする理由には到底ならない。……だとしたら、本当に僕のことを――
……いや、それはない。それは、僕なんかを好きになるはずがない、と言うのもあるけれど……何より、その晴れやかな笑顔の中に――
「…………ふぅ」
ある日の夕方の頃。
敷地内に在する小さな中庭のベンチにて、ただぼんやりと空を眺める。視界には茜が一面に広がり、微かな風が優しく頬を撫でる。こんな何でもない時間が、何故かとても心地が好い。……もう、このままずっと――
「……あの、暖斗くん。なんか、暖斗くんにお客さんが来てるみたいなんだけど……」
「……お客さん?」
すると、ふと姿を現したのは藤野さん。どうやら、僕に言伝を頼まれここに来てくれたみたいだけど……お客さん? 僕に? 奏多先生――うん、じゃないよね。だとしたら、お客さんなんて言い方はしないはずだし。
ともあれ、藤野さんに感謝を告げ施設内のリビングへと少し駆け足で向かう。……うん、ほんと誰だろ。
「――こんにちは、君が比良暖斗くんだね」
「……へっ? あっ、はい……」
その後、ややあってリビングに到着。すると、そこにいたのはスーツ姿の秀麗な男性。清潔感があり、見るからにとても仕事のできそうな人で。……ただ、それはともあれ……えっと、どちらさま? 僕に、こんな美男子の知り合いなんて――
「――初めまして、僕は桐島文哉。突然のことで申し訳ないけれど……それでも、熟考を重ねた結果、君には話さなければならないと思いここに来たんだ。この施設の元保育士、早霧奏多についてね」
「…………へっ?」




