7 紫の少女(3)
1年後、リアは冒険者として早々に名を上げていた。
『隻腕の魔法剣士』
腕の立つBランク冒険者パーティーのリーダーはお父さんの旧友で、そこに見習いとしてリアが加入する事となった。パーティーに負担をかけるので、お父さんは毎朝沢山のパンをリアに持たせているが、リーダーは快く受けてくれたという。
リアは冒険者になってから一度も大きな怪我をして帰ってきた事はなかった。たまに擦り傷はしていたが、塗り薬で自力で治していた。一度、依頼内容を確認したお父さんが激怒し、友人の所にスコップを握って向かおうとしたこともあったが、リアがパーティーにお願いした依頼らしく、自分の実力とこれまでの実績を説明し、両親を説得していた。
私もその様子を見て、リアは悪い意味で自立していると感じた。もし周囲の環境がダメだと分かったら自分一人で環境を変える意思を持っている。その行動に私達の心配や気持ちが考慮されていないのは、リア自身が私達と本当の家族だと思っていないからだろうか…
そんなリアの姿を見て、マルクも修行を始め木剣を振り回すようになった。
今も庭でリアとマルクが木剣で打ち合っているが、マルクは軽くあしらわれている。
「はぁ……はぁ……」
「マルク、剣筋を目で追いすぎです。私の動きを全体で捉えるように」
「わかった!」
両手持ちのマルクに対して、片手で軽々と受け止めるリア。体のキレもあり冒険者になった彼女の強さを少し実感した。私は家でお店の手伝いや家事をしているだけで、リアが遠くに行ってしまう様な不安を感じていた。
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「国王様から直筆の手紙が届いた…内容は三ヶ月後もルカンタ魔法学園にミーテルを入学させよ。とのことだ」
「あなた…これって王命じゃ…」
「魔法学園?」
私がなぜ魔法学園に通う必要があるのか不思議に思っていると、お父さんが説明する。
「聖女の適正がクリスタル家の長女にあると、巫女様の信託があったそうだ…」
「やっぱりそうなんだ」
私の人を癒す力はやはり特別な物だったらしい。この力を人の為に使わないままでいいのか悩んでいたけど、信託の話を聞いて私は納得した。
「リア?」
突如リアが席を立ち、荷物と剣を持って慌ただしい様子で玄関へ向かった。
「用事が出来ました。一週間程帰ってきませんが心配はしないで下さい、必ず戻ります」
「リアッ、待ちなさいッ!!」
そうして一週間後、リアと初めて出会った日を思いだす様な状態で、家に倒れ倒れこむように帰ってきた。
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グァァァァッ‼︎
銀に輝く飛龍が翼で起こした巨大な竜巻をかい潜り、リアは地面に着くほどの低い姿勢で銀龍に急接近した。リアの纏う風は耳を切るような音を立て、スピードに身を任せ、身体の感覚を一帯に溶け込ませている。
ゴォギャァァァァァァァァッ‼︎
加速する異様な音、リアの姿を見失った銀龍は警戒し、渓谷全体が揺れる様な咆哮を放った。リアの鼓膜は破れ、両目から血を流すが加速は止まらない。
ザンッ……
銀龍が放った咆哮で、近くにリアはいないと油断した一瞬の隙を、リアは見逃さなかった。銀の鱗で覆われた龍の首を、剣で一刀両断する。
落とされた龍の首から流れる血で全身が濡れる。死体の胸から手のひらサイズの魔力核を抉り出し風斬で小さな球体に形整えた。
多数の傷を負い、意識もあまりハッキリしない状態。龍を倒しアドレナリンが出ている今しかこれは出来ない。
ズンッ
グッ……
右目を風魔法で潰し、魔力核を押し込むと、月明かりに照らされたリアの右目が銀色の輝きを放つ。
右目のあった場所が疼き、頭が割れる程の激痛が走ると笑いそうになってしまった。
『虫ケラども』『殺せ』『下等生物』『殺せ』『人間共が作った物は全て壊せ』『殺せ』
「ッッッッ!!」
突如全身を支配しようとする『殺せ』という衝動に襲われ、リアはしゃがみ込んだ。強烈な破壊衝動も湧き上がり、こんなトカゲ如きに主導権を渡してはいけないと、フラフラと立ち上がり、この場から去った。




