6 紫の少女(2)
あれから三年が経った。
リアは事情もあって店に顔を出すことはないが、家事全般を手伝ってくれていた。特に料理が得意で、私達が知らなかった『からあげ』や、トマトを使った『オムライス』は私の大好物でよく作ってもらっている。
リアは『ショウユ』という調味料をずっと欲しがっているけれど、真っ黒で塩辛い液体だと聞いて、正直あまり美味しそうには聞こえなかった。
「皆さんにご報告があります」
リアは相変わらず無表情__に見えるけど、眉がほんの僅かに上がっていた。
あの顔は緊張している。何年もずっと一緒に、ご飯を食べて、お風呂に入って、寝ていれば、感情も自然と分かるようになっていた。
「リア、どうしたんだ?」
今日の夕飯は焼き魚、煮付け、卵焼き、サラダ、スープ、リアが夕飯の当番の日だった。
食事が終わり、家族全員が揃ったタイミングで、リアは『報告がある』と切り出した。
「私、冒険者になろうと思います」
「リア……冗談よね?」
普段から冗談を言わないリアだからこそ、思い詰めていると感じたのかもしれない。
お母さんは、リアの背中にそっと手を置いた。
「冗談ではありません。守る力が欲しいのです」
「お金の事だったら心配いらないぞ!リアが考えた新商品で売上は上がったし、何より家事を一番手伝ってくれているのはリアだからな!」
私も心の中でお父さんの意見に強く同意した。
そもそも、冒険者なんて危ないことをリアにしてほしくない。
「お義父さん、そう思ってくださるのは嬉しいです。ですが、私はどうしても強くならなければなりません」
10歳になり、子供らしさが抜けてきたマルクが、リアの左手をぎゅっと握った。
「リア姉ちゃん、僕も一緒に冒険者になりたい!」
「ダメです、危ないので」
「嫌だっ!リア姉ちゃんは僕が守るんだっ!」
「マルク…」
泣きそうなマルクの顔を見て、私は胸が締め付けられた。
数日前にリアから私だけに冒険者になると言われ、初めて喧嘩らしい言い合いもした。
それでも、リアは折れてくれなかった。
「リア、お前はもう私達の大事な娘だ。危険な事はさせられない」
「リア……どうしても冒険者じゃないとダメなの?」
「はい、力不足で守れない、それでは遅いのです」
自分の意見をほとんど言わないリアが初めて見せる我儘、その姿に両親も困惑していた。
私は答えを知っている質問をあえて投げかけた。
「リア、誰を守りたいかみんなに教えて」
「ミーテルです、聖女の力を持った彼女を守る為に力が必要です」
リアは本気で私を守ろうとしている。
けれど私たちはリアと過ごす、今の楽しい毎日を守りたかった。
「許可を頂けなくても、私は家を出て冒険者になります。恩を仇で返す形になりますが、報酬金額の八割はこちらの家に送りますので」
お父さんは下を向いてため息を吐いた、あれは降参の合図だ。
リアは隣国からたった一人で逃げ出した行動力を持つ元令嬢。
こちらが折れなければ、本当に言葉通りに行動するだろう。
「分かった、冒険者になる事は認める。ただし条件は付けさせてもらう」
「無茶なお願いを聞いてくださり、ありがとうございます」
「条件が厳しいからといって、勝手にこの家を出るのは絶対にダメだ、いいね?」
「はい、分かりました」
一応話はまとまったが、お母さんとマルクは納得していない様子だった。
私も納得していない、もしリアがいなくなってしまったら私はきっと耐えられない。
それに片腕が無いというハンデはあまりにも大きい。
(この力のおかげでリアを助けることが出来たけど…)
私を守るため…何から守るつもりなのだろう。
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1 お父さんの知り合いのパーティーに加入する
2 リーダーの指示を絶対に聞く
3 依頼内容を両親に伝える
4 無茶をしない、危険だと判断したらメンバーに相談する
5 毎日必ず家に帰ること
6 上記の約束を一度でも破れば、冒険者を辞める
『リア・クリスタル』
両親の部屋で一時間ほど話し合った三人が部屋から戻ってきた。
お父さんは納得した表情だったが、お母さんの目は赤く腫れていた。
「これ、お義父さんとお義母さんと約束してきました」
「……本当に冒険者になるんだね」
私は紙に書いてある内容を読み、リアに返した。
「怪我しても治してあげないから…無理しないでね」
「はい、ミーテルを守るために強くなるので力は借りません」
「……ばか」
私がリアに抱きつくと、リアは何も言わずに背中をそっと撫でてくれた。




