4 痛み
ピチョンッ
ピチョンッ
私が連れてこられたのは、広大な洞窟の奥に幾つもある檻の中の一つだった。松明が灯ってはいるが、鼻を突く異臭と湿気で、吐き気が込み上げてくる。
「……」
「……」
同じ檻に居たのは痩せ細り、正気を失った様な目で私を見つめてくる若い黒髪の女性。汚れ切った薄着一枚を着ており、直視するだけでこちらまで辛くなってきそうだ。
「カワイソウニ…」
「……?」
掠れた声で何か呟いた様だが、聞き取れない。
私は視線を逸らし、この洞窟内に閉じ込められている人達を助けられるかどうか、冷静に思案した。
(出来ないことはない…ですが…)
洞窟内だと雨の影響を受けず、火の魔法を使える。
風魔法も一定方向に乗せる事ができる為、戦況は屋外より遥かに有利だ。
だが全員を助けるなら、盗賊達を完全に無力化__最悪殺害しなければならない。
中途半端に助けて、盗賊が後ろから攻めてきたら再び捕まる危険がある。それに足手まといが増えれば私も危険な状況になりやすい。
(私一人なら確実に逃げ切れる……)
それでも、絶望に染まった彼女達を助け出せるのは私だけだ。
(やるなら今、囚われているのは、20人前後…)
背後で強く縛られた手首の縄を魔法で焼き切り、女性に近づく。
「ここにいる人、全員助けます」
「……」
「立てますか?」
私の小さな手を取った女性は、よろよろと立ち上がり小さく頷いた。
彼女の足枷の木製部分を風斬で切断し、自由に動けるのを確認する。
「行きます。私から離れないでください」
私は両手を岩壁に添え、詠唱する。
『風衝撃』
隣の牢と繋がる壁が粉砕され、囚われていた女性二人が目を見開いた。
「逃げたい方は私の後ろへ」
「子供……?」
「分かりました!!」
轟音に気付いた盗賊達が、剣を構えながら次々と押し寄せてくる。
私は救出と攻撃を同時に進めながら、倒れた盗賊達の両目を風斬で切り裂いていった。
「ぐがぁぁぁぁぁッ!!」
「いてぇッ!!目が……ッ!!」
「固まるなッ!燃やされるぞ!!」
洞窟は相手を戦闘不能にしていけば、背後を取られる心配が無い。集団なら火魔法で一掃し、少人なら剣の間合いを避け、風斬で敵を薙ぎ倒していく。
「「「出口だぁぁぁぁ!」」」
囚われてた3人の男達が歓声を上げる。
残り15名は全員女性だった。
「ハァ…ハァ…」
震える右手を見つめ、私は強く握りしめた。
盗賊の目を潰し無力化したが、何人かは勢いで殺してしまっている。
どんな理由であろうと、元の世界なら私は完全な犯罪者だ。
「……ッ!」
背後の殺気に振り返った瞬間、剣が振り下ろされた。
ズバッ……
「今のを躱すか、お前何者だ」
切り落とされた私の右腕を拾い上げ、男はお手玉の様に空中へ放る。
他の盗賊と大差ない見た目だが、その眼光の鋭さで只者では無い気配を感じ取った。
「……あそこに馬車があります、全員、早く逃げて下さい」
金の入った袋を同室の女性に渡すと、囚われた人々が一斉駆け出した。
「追わないんですか?」
「団は壊滅した、今更どうでもいい」
「腕を…返してください」
「いいぜ」
男は右腕を高く放り投げ剣を抜いた。
次の瞬間、目にも留まらぬ速さで、空中の腕を切り刻む。
グジャッ……
足元に落ちたのは原型が分からない肉塊。
それでも、私の心は僅かに救われた気がした。
(これだけ傷つけて……自分だけ無傷は許されませんね……)
痛みに耐え、残った左腕を突き出す。
肩の失血が激しく早く手当てしなければいけない。
大きな音が過ぎれば、遠ざかる馬車を見送り、私は安堵した。
気配を消したり、剣捌きを見るに相手は強者、魔法対策をしている可能性も否めない。
だったら…
『業火の渦』
火の上位魔法で周囲を巨大な炎の渦で呑みこんだ。竜巻の目にいる私にも、肌が焼ける程の熱を感じ、目の前には火の海に呑まれた黒い人影が足掻いている姿が見える。
(魔力切れ……)
私はそのまま地面に倒れ動けなくなった。意識もハッキリせず、目を瞑ればそのまま気を失いそうだったが、なんとか重い左手を右肩に添える。
「火炎 ……」
脳を貫くような激痛、そこで私の記憶は途絶えた。




