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4/7

4 痛み



ピチョンッ

ピチョンッ



 私が連れてこられたのは、広大な洞窟の奥に幾つもある檻の中の一つだった。松明が灯ってはいるが、鼻を突く異臭と湿気で、吐き気が込み上げてくる。



「……」

「……」



 同じ檻に居たのは痩せ細り、正気を失った様な目で私を見つめてくる若い黒髪の女性。汚れ切った薄着一枚を着ており、直視するだけでこちらまで辛くなってきそうだ。



「カワイソウニ…」

「……?」



 掠れた声で何か呟いた様だが、聞き取れない。

 私は視線を逸らし、この洞窟内に閉じ込められている人達を助けられるかどうか、冷静に思案した。



(出来ないことはない…ですが…)



 洞窟内だと雨の影響を受けず、火の魔法を使える。

 風魔法も一定方向に乗せる事ができる為、戦況は屋外より遥かに有利だ。

 だが全員を助けるなら、盗賊達を完全に無力化__最悪殺害しなければならない。

 中途半端に助けて、盗賊が後ろから攻めてきたら再び捕まる危険がある。それに足手まといが増えれば私も危険な状況になりやすい。



(私一人なら確実に逃げ切れる……)



 それでも、絶望に染まった彼女達を助け出せるのは私だけだ。



(やるなら今、囚われているのは、20人前後…)



 背後で強く縛られた手首の縄を魔法で焼き切り、女性に近づく。



「ここにいる人、全員助けます」

「……」

「立てますか?」



 私の小さな手を取った女性は、よろよろと立ち上がり小さく頷いた。

 彼女の足枷の木製部分を風斬(スラッシュ)で切断し、自由に動けるのを確認する。



「行きます。私から離れないでください」



 私は両手を岩壁に添え、詠唱する。



風衝撃(ソニック)



 隣の牢と繋がる壁が粉砕され、囚われていた女性二人が目を見開いた。



「逃げたい方は私の後ろへ」

「子供……?」

「分かりました!!」



 轟音に気付いた盗賊達が、剣を構えながら次々と押し寄せてくる。

 私は救出と攻撃を同時に進めながら、倒れた盗賊達の両目を風斬(スラッシュ)で切り裂いていった。



「ぐがぁぁぁぁぁッ!!」

「いてぇッ!!目が……ッ!!」

「固まるなッ!燃やされるぞ!!」



 洞窟は相手を戦闘不能にしていけば、背後を取られる心配が無い。集団なら火魔法で一掃し、少人なら剣の間合いを避け、風斬(スラッシュ)で敵を薙ぎ倒していく。



「「「出口だぁぁぁぁ!」」」



 囚われてた3人の男達が歓声を上げる。

 残り15名は全員女性だった。



「ハァ…ハァ…」



 震える右手を見つめ、私は強く握りしめた。

 盗賊の目を潰し無力化したが、何人かは勢いで殺してしまっている。

 どんな理由であろうと、元の世界なら私は完全な犯罪者だ。



「……ッ!」



 背後の殺気に振り返った瞬間、剣が振り下ろされた。



 ズバッ……



「今のを躱すか、お前何者だ」



 切り落とされた私の右腕を拾い上げ、男はお手玉の様に空中へ放る。

 他の盗賊と大差ない見た目だが、その眼光の鋭さで只者では無い気配を感じ取った。

 


「……あそこに馬車があります、全員、早く逃げて下さい」



 金の入った袋を同室の女性に渡すと、囚われた人々が一斉駆け出した。



「追わないんですか?」

「団は壊滅した、今更どうでもいい」

「腕を…返してください」

「いいぜ」



 男は右腕を高く放り投げ剣を抜いた。

 次の瞬間、目にも留まらぬ速さで、空中の腕を切り刻む。



 グジャッ……



 足元に落ちたのは原型が分からない肉塊。

 それでも、私の心は僅かに救われた気がした。



(これだけ傷つけて……自分だけ無傷は許されませんね……)



 痛みに耐え、残った左腕を突き出す。

 肩の失血が激しく早く手当てしなければいけない。

 

 大きな音が過ぎれば、遠ざかる馬車を見送り、私は安堵した。


 気配を消したり、剣捌きを見るに相手は強者、魔法対策をしている可能性も否めない。

 

だったら…



業火の渦(フレイムボルテックス)



 火の上位魔法で周囲を巨大な炎の渦で呑みこんだ。竜巻の目にいる私にも、肌が焼ける程の熱を感じ、目の前には火の海に呑まれた黒い人影が足掻いている姿が見える。

 


(魔力切れ……)



 私はそのまま地面に倒れ動けなくなった。意識もハッキリせず、目を瞑ればそのまま気を失いそうだったが、なんとか重い左手を右肩に添える。



火炎(フレイム) ……」



 脳を貫くような激痛、そこで私の記憶は途絶えた。

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